ゴラン・ドラギッチ

プレッシャーを強める相手の綻びを付く『司令塔』

熱戦が期待された東カンファレンス4位のペイサーズvs5位のヒートの対戦は、予想に反してヒートが4連勝でスウィープと圧倒しました。エースのジミー・バトラーがインサイドで暴れ、バム・アデバヨは走り回ってチャンスを作り、ダンカン・ロビンソンは高確率の3ポイントシュートでアウトサイドから射抜き、シーズンの良かった部分を凝縮したような見事な戦いぶりでした。

その中でレギュラーシーズンと違ったのは、シックスマンだったゴラン・ドラギッチがスターターになって完璧ともいえるパフォーマンスを披露したことでした。

アデバヨとバトラーによるプレーメークを中心にシューターが周囲を固める今シーズンのヒートは、はっきりした役割分担で全体が連動する自分たちの形を持っており、純粋なポイントガードを必要としなくなりました。そのため2年前にオールスターに選ばれたポイントガードのドラギッチは、チームの中核からは外れてシックスマンとなり、連携が深まっていないベンチメンバーを繋いでいく役割を担ってきました。

この形が機能したことでシーズン序盤から勝利を重ねましたが、強豪との対戦が続くシーディングゲームにおいては苦しくなりそうな予兆もありました。プレーオフを間近に控え、お互いの弱点も探るような雰囲気があったラプターズとセルティックスを相手にした連戦で、ヒートの長所も短所も知る両チームは激しいプレッシャーディフェンスで追い込んできました。

通常、ディフェンス側はオフェンスに対応する『受け身』になりますが、両チームのディフェンスは積極的に仕掛けてくるため、ヒートは自分たちがやりたいことをやらせてもらえませんでした。『自分たちの形』では強さを発揮するヒートのオフェンスですが、『ディフェンスの状況に応じたプレー判断』を求められると途端に苦しくなったのです。

そこに入ったドラギッチは、適切な判断で相手ディフェンスの隙を突くプレーを連発しました。

迎えたペイサーズとのシリーズ、ケンドリック・ナンの負傷でスターターになったドラギッチは、その判断力とスキルを発揮して、チーム最高の平均22.8点と5.0アシストを記録し、勝利に大きく貢献しました。

試合の前半はペイサーズの素早いカバーリングを見越して、ドライブすると見せかけて1つ2つのドリブルでディフェンスを動かし、すかさず空いたシューターにパスを出すというヒートが『狙っていたプレー』で攻略していく起点役となって試合を優位に運んでいきました。

一方でドマンタス・サボニスを欠くペイサーズは得意のコンビネーションオフェンスが構築できなかったため、後半になるほどディフェンスのプレッシャーを強めることで打開を狙ってきました。するとドラギッチは、ディフェンスの動きに応じて適切なプレイを選ぶ判断力を発揮し、プレッシャーを鮮やかにかわしたドライブやパスを連発しました。

ドラギッチの良さはポイントガードとしてパスを出すのはもちろん、バトラーやアデバヨがボールを持った時にも次の展開を予測し、マークマンから離れる動きでフリーになることで、自らも40%を超える3ポイントシュート成功率でフィニッシャーとしても機能したことです。

ペイサーズが勝負をかけてディフェンスのプレッシャーを強めるほどに、ドラギッチの存在感は増していったため、22.3得点のうち15.8得点を後半に奪っています。お互いの手の内を読み、ディフェンス側が仕掛けることが増えるプレーオフだからこそ、ヒートにとってドラギッチの能力がより必要になったとも言えます。

高いスキルと冷静な判断力を持ちプレーの幅が広いドラギッチは、若い選手も多いヒートのオフェンスに落ち着きと柔軟性をもたらしてくれています。相手のペースになっても慌てずにチームメートを導くリーダーシップは、強い闘争心で引っ張るバトラーと違った形でヒートに勝利をもたらしています。

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