『ブレックス・メンタリティ』で栃木ブレックスを救った安齋竜三「100%に近づくつもりで追求しています」

2018/03/22
Bリーグ&国内
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文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE、野口岳彦

「ブレックスというチームにプライドを持って」

今シーズンの栃木ブレックスは荒波の中でスタートを切った。オフにエーススコアラーの古川孝敏、そしてリーグ最強セカンドユニットの何人かが他のクラブに移籍し、ジェフ・ギブスもケガで不在、前日本代表ヘッドコーチの長谷川健志の下で開幕から2勝7敗とスタートダッシュに失敗。長谷川は体調不良でチームに帯同できなくなり、結局そのまま退任することになった。

4勝9敗のチームを託されたのが、2013年からコーチングスタッフとしてチームを支えてきた安齋竜三だ。彼はヘッドコーチ昇格にあたり、「ブレックスというチームにプライドを持って、全員で同じ方向を向いて進んでいけるよう最大限、力を注いでいきます」と宣言している。

それから4カ月、成績は20勝11敗まで持ち直した。長らく甘んじた東地区最下位を抜け出し、『ワイルドカード下位』というギリギリのラインではあるがチャンピオンシップ出場圏内をキープするに至っている。

就任時点での状況は極めて悪かった。田臥勇太やライアン・ロシターといったリーグを代表する選手を擁することより、選手が抜けたことの戦力ダウンばかり注目され、なおかつ激戦の東地区にあって『前年王者』は地区最下位であっても警戒された。そこからの立て直しは容易な仕事ではなかったはずだが、とにもかくにも安齋はチームをここまで導いた。

そして気付けば、今の栃木の戦いぶりは昨シーズンのそれと似たものとなっている。と言うより『同じ』と表現していいだろう。安齋は言う。「これまで何年も優勝できずに、何かを変えなきゃいけないと積み上げてきて、その結果として昨シーズンは優勝できました。外国籍も含めて分かっているメンバーが残っていたこと、それにプラスして自分の中に『こういうことをやらなきゃ勝てない』というのがあったので、その結果として『似ている』のだと思います」

「僕がルールを決めて、それで負けたら僕の責任」

安齋が言う『こういうことをやらなきゃ勝てない』とは何だろうか。「まずは決めたことを全員がしっかり守るチームルールの順守です。プラス、ディフェンスのエナジーやアグレッシブさを出すこと。一番重要なのは、チームがそれに対して一つの方向を向いて戦うことです」

「誰かが試合に出れなくてフラストレーションを溜めてどうこうとか、試合でうまく行かないから落ち込んでいるとか、そういうことがないように、ゲーム中も練習中も常に同じ目標や同じ方向を向いて取り組んでいくことが重要です。それがないと勝ってはいけないと思っています」

チーム一丸となって、一つの方向を向いて戦う。そのためにチームルールや目標を設定するのがヘッドコーチの最も重要な仕事だと安齋は言う。「それを示し、責任を明確にすることが大事です。僕がルールを決めて、それで負けたら僕の責任。ルールを守れなくて負けたら選手の責任です。そういう責任の所在を明確にしています」

長谷川が率いた時期にうまく行かなかった理由は、その責任の所在が曖昧になっていたからだ。ただ、安齋は自分もその責任を負っていることを『明確に』している。「そこは僕も反省するところで、このチームを一番知っている僕がアシスタントとしてもっとやっていれば、違った結果になったはず。そこは責任があります」

指揮官としての安齋の「絶対に譲れないこと」

紆余曲折あったが、今のチームも結局は『ブレックスらしいバスケ』に落ち着きつつあり、それとともに成績も上向いてきた。チームのルールを徹底し、ディフェンスを頑張る。リバウンドを全員で取りに行く。口で言うのは簡単だが、それができないチームは多い。栃木がこれを高いレベルで実践できている理由は何だろうか。

「どういう状況の時にできなかったのか、できていない要因を探り、映像を見せながら選手に説明して、それを何度も何度も繰り返すことです。常にできるのが目標ですが、試合ごとに、あるいは試合の中でできている時間帯とできない時間帯があります。本当に難しいですが、100%に近づくつもりで追求しています。それに対して、できない選手は試合に出れない。そこだけは絶対に譲れないので、できない選手には誰彼関係なく全員に言います」

フィールドゴール成功率と同じで、安齋の言う「100%」は実現不可能な領域なのだろう。それでも本気でそこを目指し、到達するための術を尽くす。それが安齋のやり方であり、栃木がこれまで積み上げた『ブレックス・メンタリティ』だ。

ただ、安齋は過去を踏襲するだけでなく、例年と同じように新たな変化をチームに加えている。「ディフェンスの強度、全体的なやり始めの場所が違います」と、安齋はトーマス・ウィスマンと自分のバスケットの違いを説明する。「トムの場合はハーフコートのディフェンスをある程度容認していたのですが、僕は練習からガードにはずっとプレッシャーを掛け続けるよう言っています。その強度をオールコートで40分間ずっとやる、そこは違うところです」

それを徹底されるのだから、選手にとっては相当にキツいはず。だが、そこに責任を持たせて追求したからこそ、栃木はどん底からの浮上を果たすことができたのだ。

手応えはあるも満足せず「波を減らす作業がまだ必要」

ヘッドコーチが交代した時点では遠い目標だったチャンピオンシップ出場は、現実的なラインに乗った。ここからはチャンピオンシップを勝ち抜くための強さが求められるのだが、話を聞いたのが先週の日曜、千葉ジェッツに完敗を喫した直後とあって、そこは安齋も苦笑いするしかなかった。「ちゃんとやれている時は良いチームになっている手応えがありますが、まだ波があって、試合によって本当に変わってくるので。それを減らす作業がまだ必要です」

そして安齋からは、まだチャンピオンシップ出場も決まっていないと釘を刺された。「そうなればいいんですが、まだまだです。そんなことを言える立場でもないですから。東地区との試合もいっぱい残っていて気は抜けません。チャンピオンシップをどう戦うか考えるのは、決まってからです。まずは昨日(千葉との第1戦)のようなゲームをどれだけできるかです」

確かに気は抜けないが、今やっていることが正しいという確信には至っている。あとはいかに徹底するか。「チームが同じ方向を向いて、チームルールをしっかり守りながら40分間戦い続けること。その時間が長くなればなるほど勝つチャンスは増えます」と安齋は言う。

田臥勇太と同い年、37歳の若き指揮官は勝利に飢えている。栃木のヘッドコーチとしては、スタートダッシュに失敗した借りをようやく返したところ。ここからが『勝負の時』だ。