文=丸山素行 写真=野口岳彦

「バスケット・カウントにさせない気持ち」

東地区首位を走るアルバルク東京は、指揮を執るルカ・パヴィチェヴィッチの下、ディフェンスに力を注いできた。その成果が1試合平均70.4失点というリーグ2位の数字に表れている。ルカヘッドコーチはしばしば試合後の会見で、スタッツに表れないディフェンスでの貢献面で菊地祥平を称賛する。菊地も自分がディフェンスを買われて先発に定着していることを理解している。

菊地はサッカーで言うところの『マリーシア』(ずる賢さ)を体現できる数少ない選手だ。ファウルギリギリのラインで身体を当てたり、つかんだり、相手が嫌がることを追求する。「相手はイラついてきた時点でバスケットに集中できていない。僕にフォーカスして、集中力が切れることはありがたい」と、菊地は自分が相手にとって嫌なプレーヤーであることに胸を張る。

激しいファウルも多い。だがそれはアンスポーツマンライクファウルにはならない、計算されたファウルだ。「簡単にレイアップで2点取られるなら、アンスポぎりぎりのファウルで、絶対にバスケット・カウントにさせないくらいの気持ちが必要だと思っています」と菊地は言う。

Bリーグの試合でも、シュートの邪魔にさえなっていないようなファウルを犯し、ボーナススローを簡単に与える場面をしばしば目にする。菊地の言う通り、ボーナススローを与えるくらいなら、ファウルを我慢するか、最低でもシュートを決めさせないくらいのファウルをするべきだ。

激しいファウルと言えど、アンスポーツマンライクファウルになるかならないかを見極める能力は必要だ。ファウルゲームへ持ち込む難易度は上がったが、菊地のように高いバスケIQがあれば、アンスポーツマンライクファウルはコールされない。頭を使ったファウルの使いかたで、試合を有利に進めることができるのだ。

世界で戦う時こそ必要な『バチバチ感』

菊地のこうした考えは、世界と戦う時にこそ必要だ。「僕もどちらかと言うとコンタクトを嫌わないほうなので」と笑みを浮かべる菊地は、スマートなバスケを好まない。「プロ化するにあたって、『きれいに』とか、『かっこ良い』バスケが多くなってきてると思います。やっぱり海外とやる時にそんなことは言ってられないですし、もっとバチバチやるべきです」

「例えばエースにつくとして、そこでずっとボディコンタクトをして自分が5ファールで退場しても、相手がイラつけばその役割においては120点。シュートを打たなくても、ずっとディフェンスでバチバチやって『なんだあいつ』って思われるぐらいのほうがいい。それを狙う相手によってはもっと価値が出てくる」

日本が世界の舞台で真正面から勝負して、勝算がどれだけあるだろうか。真正面から当たるための実力を高めるのは当然だが、同時に一人ひとりが知恵を絞り、相手の嫌がることをどれだけできるか、そうやって少しでも勝つための確率を上げていく末に、紙一重の差での負けが勝ちへと転じる。そのために身長や身体能力で劣る部分を『嫌らしさ』でカバーすることは悪いことだろうか? それが反則すれすれのダーティーなプレーであっても、国を背負って戦うにはそれぐらいの気概が必要だ。

「多分嫌われるようなプレーヤではあると思います」

反則ギリギリというのは、ディフェンスに限った話ではない。オフェンスでもそのずる賢さを発揮できる場面はある。身体に当たってないがうまく倒れたり、ディフェンスにくる相手の腕を自ら絡ませ、被害者のように振る舞ったり。そうすることでディフェンスファウルがコールされる場面はよくある。菊地は「いかに自分に利があるように見せるか」とそのコツを教えてくれた。 

審判にとっては難しいコールとなるが、それが審判力アップにもつながる。「例えば土曜日にファウルを取られて『ビデオを見て修正してください』と言ったら、日曜日は全く吹かれない時もあります。それもやり取りです」。審判とのコミュニケーションによって、互いのスキルは上がるのだという。

ここまでの話だと、見るものによっては菊地が悪者に映るかもしれない。菊地はそれを理解しているからこそ自分の信条を曲げない。「他チームの選手やファンから嫌われるようなプレーヤーではあると思います。でもそこは曲げないですし、自分の長所だと自負しています」

誰しも嫌われるのは避けたい。しかし、相手選手から嫌われるということは、それだけ負荷を与えている証拠であり、プレーヤーにとっては勲章である。ただ激しく当たって相手をケガさせたり、蛮勇で試合をブチ壊すような選手は、ダーティーなだけでリスペクトされない。だが菊地はそんな選手とは一線を画す。高いバスケIQで判断し、フィジカルに身体を当てて、審判を惑わす、そんな菊地がスタメンを張るからこそ、A東京は安定した首位でいられるのだ。