文・写真=丸山素行

一際目を引く172cmのポイントガード

U-22男子日本代表は、3月5日から9日までの第3次スプリングキャンプを終え、韓国遠征を行っている。今回の一連のU-22代表活動は『サイズアップ』を狙いとしており、平均身長が191cmを超えるビッグラインナップを実現させた。そのサイズアップしたメンバーの中でただ一人、身長が低い選手が172cmのポイントガード、熊谷航だ。

所属する大東文化大ではインカレ優勝を果たし、実力は申し分ない。それでも「トップエンデバーもU-18も候補には選ばれましたが、そこで落ちてきたので」と代表歴は今回が初めてだ。

今回のメンバーの中で、大学3年生は熊谷と玉木祥護(筑波大)の2名だけ。玉木は「僕はみんなを引っ張るタイプじゃないので」と屈託のない笑顔で話し、チームのまとめ役を熊谷に託している。当の熊谷は「若いメンバーが多いですが、自分にはまとめる力があると思います」とリーダーシップには自信があり、うまくバランスが取れているようだ。

大学ではライバル関係にある選手たちだが、基本的に仲が良い。その雰囲気がマイナスに働いてしまうと問題だが、熊谷はプラスに捉えている。

「これが終われば大学のトーナメントがすぐあって、また敵に戻りますけど、今は日本を背負ってという意識で仲間たちが集まっています。仲は良いのでそこは大事にしたいです。相手は海外の選手なので、仲の良さを皆で浸透させて勝ちたいと思います」と遠征での必勝を期した。

「彼が持っているゲームメークが必要となる」

現代バスケにおいて、背の小さい選手がボールの運び役となりパスを供給する、オールドファッションなポイントガード像は崩壊しつつある。高さとスキルを兼ね備えた選手として191cmの宇都直輝がA代表に定着しつつあることも、それを証明している。それでもゲームコントロールという点においては、生粋のポイントガードとして長年培った経験がモノを言い、この点ではコンバートした選手では補えない部分もある。

U-22代表を指揮する比嘉靖ヘッドコーチもこうした純粋なポイントガードにしかない能力を買って熊谷を招集している。「ポイントガードをずっと経験している子たちじゃないので、勝負どころの局面になれば彼が持っているゲームメークが必要となる。バックアップに回るかもしれないが、彼がベンチにいるのは安心する」

熊谷もそうした小兵ガードの強みを前面に押し出す構えだ。「ドリブルコントロールだったり、前からプレッシャーをかけるディフェンスだったりでは負けません。コントロールも自信はあります。190cmと170cmの人は足元に入る技術だったりプレッシャーが絶対違うので、そこだけは負けないようにしていきます」

「強くプレーして、しっかり点を取りたい」

求められるガード像が変化してきていることについて、上で触れたように現代バスケではガードの得点力も重要な能力だ。熊谷も「やっぱり点を取らないと、パスも生きない」と話す。また海外に視野を広げ、フィジカルの大切さも理解している。「どうしても最後はかわすだけじゃフィニッシュに行けない場面もあるので、そこは強くプレーしてしっかり点を取りたいです。それは日本だけじゃなく海外でプレーした時に通用すると思います」

Bリーグでは滋賀レイクスターズの並里成を参考にしている。「まずオフェンスのバリエーションが多いです。2メートルの選手が来たとしてもかわすところはかわして、当たるところはぶつかって、ちゃんとアンド1(バスケット・カウント)を決めるところはすごいと思います」

並里は身長が低くても、自分よりも高い選手と互角以上にやれることをコートで表現しているし、気持ちの強さもコート上で際立っている。そんな気持ちの強さを熊谷は備えている。「日本人は170cmくらいの選手が多いです。『190cmなかったら無理』とあきらめるのではなく、負けないっていう気持ちだけは忘れちゃいけないです」

サイズアップは日本を強くしていく上で重要なファクターであり、ポジティブな改革だ。それでも熊谷のような、純粋なポイントガードが必要となる場面がなくなるわけではない。熊谷にはそうした『小兵ガードの気概』をコート上で表現してほしい。