文=鈴木健一郎 写真=FIBA.com

最高の立ち上がりと、その後の失速

ワールドカップ1次予選、4戦目はアウェーでのフィリピン戦。ここまで3連敗、22日にホームでのチャイニーズ・タイペイも落として後のない日本代表は、試合開始から攻勢に出る。篠山竜青、比江島慎、田中大貴、アイラ・ブラウン、竹内譲次の先発5人は、積極性と慎重さのバランスが整ったベストのメンタルで試合に入った。

アイラのスクリーンを受けた篠山がシンプルにアタックして日本が先制。その後も篠山のドライブからのパスアウトをアイラが3ポイントシュートで決め、田中が揺さぶってインサイドに走るアイラに合わせダンクを決めるなど、指揮官フリオ・ラマスがテーマに挙げていたペイントタッチ(ペイントエリアまでしっかりアタックする展開)を作り出し、着実に得点を重ねた。

ディフェンスもフットワーク良く相手にアタックするコースを見いださせず、インサイドのビッグマンに入れるパスを狙い打ちにした。ボックスアウトの意識も徹底してリバウンド争いでも引けを取らない。慎重になりすぎて動きの鈍いフィリピンを攻守に圧倒し、開始5分足らずで20-4と大量リードを奪った。

ところが、その後がいけなかった。インサイドへのアタックを何度か失敗すると、積極性を慎重さが上回るようになってしまい、崩し切らないまま難しいミドルシュートを選択するように。また相手のリズムを狂わせるために使ったゾーンディフェンスが、それぞれのマークマンを曖昧にする逆効果を生み、ここから第1クォーター終了までにオフェンスリバウンド5本を奪われ(日本はゼロ)、自滅の形でフィリピンに流れを明け渡してしまう。

前回のチャイニーズ・タイペイ戦で大爆発した辻直人を投入するも徹底マークされてシュートを打たせてもらえず、逆に守備でタフに行けない弱点が出てしまった。同じく前回に活躍した宇都直輝もドライブを引っ掛けられてボールを失い、この試合最初のファストブレイクを浴び、22-21と1点差まで詰め寄られて第1クォーター終了を終える。

消耗戦となった後半、際立った個人能力の差

第2クォーターは立ち上がりから散々な出来。ポイントガードを橋本竜馬に変えて流れを落ち着かせようとするが、フィリピンの勢いはその意図を上回った。開始から0-7のランを浴びて逆転され、タイムアウトを取るも流れを切れない。インサイドのパスを簡単に入れられ、リバウンドで優位との意識があるので自信を持ってシュートを打たれる。フリースローで4得点を挙げる間に次々と失点し、24-41まで突き放された。

第2クォーターも半分を過ぎて、悪い流れをようやく断ち切ったのは比江島だった。全く勝てなかったリバウンドでティップでつないでセカンドチャンスを得ると、3ポイントシュートを沈めて残り4分36秒にようやくこのクォーター初のフィールドゴールを決め、続いてアイラの得点をアシスト。ここから比江島とアイラを中心に盛り返すが、41-43と1ポゼッション差まで詰めた最後のフィリピンのポゼッションでコーナースリーを許す印象の悪い終わり方で前半終了。

後半に入ると試合は消耗戦の様相を呈する。こうなると前半とは違い、苦しい場面での個人能力が際立つ。ここで目立ったのは残念ながら日本の選手ではなかった。フィリピンの帰化センターのアンドレイ・ブラッチェは18得点。チームに攻め手がなくなったところでボールを託されると、強引なアタックでシュートをねじ込んだ。第3クォーターには日本の選手が4人がかりで前後を囲むも得点を許す場面もあり、その力強さは際立った。さらにはホームでの初戦でも20得点を挙げたジェイソン・ウイリアムはこの第3クォーターに連続3ポイントシュートを決める爆発、カルビン・アブエバもファウルも辞さない激しいプレーでチームに勢いを与えた。

終盤の猛追と『完全アウェー』の洗礼

それでも日本はあきらめない。パンク寸前の勢いでチームを引っ張るアイラと比江島に加え、最終クォーターには待望の辻直人の3ポイントシュートも飛び出す。日本代表からすれば10点差から先に詰められず、時間が過ぎていく重い雰囲気になっていくが、フィリピン側の視点に立てば何度突き放しても食らい付く日本は間違いなく厄介な相手だった。

残り4分半で71-85と14点差。ここで先に心身の限界が来たのはフィリピンだった。運動量が落ち、主導権を握るのに何よりも効果的だったリバウンドの争いで跳べなくなった結果、試合の最終盤になって再び日本の時間帯がやって来る。田中のアタック、辻の3ポイントシュートをファウルで止められてのフリースロー3本成功などで押し返し、残り1分23秒にアイラの3ポイントシュートで80-86と肉薄。さらに田中が値千金のスティールからワンマン速攻、試合開始から実に39分が経過したところでこの試合初めてのファストブレイクが飛び出し82-86と4点差に。そして残り30秒、アイラのスティールから篠山が走る速攻、最後は再び田中が決め手84-86と1ポゼッション差に肉薄する。

だがここでフィリピンのポイントガード、ジェイソン・カストロが個人技でマークに付く篠山を振り切り、アイラがヘルプに寄る前にフローターを沈めて日本を振り切る。

84-88の4点差、残り10秒。ここでモール・オブ・アジア・アリーナを埋めた2万人の観客が総立ちでの「ディーフェンス!」コールが響く。その中で田中が3ポイントシュートを狙うがリングに嫌われ、ファウルゲームに持ち込むも功を奏さず。84-89で日本は敗れた。

リバウンドとフリースロー、重く受け止めるべき現実

アイラ・ブラウンと比江島慎の奮闘が目立ったが、他の選手もそれぞれ持ち味は発揮した。立ち上がりと終盤には完全なる『日本の時間帯』を作り出してもいる。今回のワールドカップ1次予選の4試合の中で間違いなく一番のパフォーマンスだった。

しかし、勝利には届かなかった。結局のところ、リバウンドとフリースローに尽きる。序盤の優勢を打ち消されたのはリバウンドが取れなくなったから。試合を通じたリバウンド数は24-47。特にオフェンスリバウンドを19本取られ(日本は5本)、そこからセカンドチャンスポイントを簡単に奪われたのが響いた。

もう一つはフリースロー。フィリピンはフィジカルなディフェンスで日本を潰しに来て、その結果として試合を通じてファウルがかさんだ。フリースローのチャンスはフィリピンの17本に対して実に39本もあった。だが、この39本のうち成功は24本。成功率61.5%は物足りない。劣勢の時間帯こそフリースローでつないで相手の勢いを削ぎたかったが、その機会を何度も逸することで逆に日本のブレーキになってしまった。

昨年11月にワールドカップ予選が始まってから、試合を重ねるごとにチームの成長は確認できる。だが、今回はワールドカップの出場権を得ること、その翌年の東京オリンピックの出場を果たすことが絶対的な目標で、これをクリアする可能性は限りなく低くなってしまった。チームが成長し続けなければならないのは当然だが、それはそれとして、予選開始から4試合でこの状態にあることを重く受け止める必要がある。

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— FIBA World Cup (@FIBAWC) 2018年2月25日