文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

喜多川がチームを、チームが喜多川を理解する相乗効果

今シーズンの栃木ブレックスはヘッドコーチの交代、選手の大幅な入れ替えがあり、前半戦で大きく出遅れた。それでも現在は21勝17敗と勝ち越すまでに至り、チャンピオンシップ争いを演じている。試合を重ねるごとにチームケミストリーが構築され、渡邉裕規の現役復帰、ジェフ・ギブスのケガからの回復など、調子が上向いている要因は様々ある。その中でも喜多川修平がチームにフィットしたのは、最大の要因かもしれない。

昨年12月23日の琉球ゴールデンキングス戦から喜多川は先発に定着した。そこからチームは11勝3敗と大きく勝ち越しているという結果が何よりの証拠だ。シーズン序盤は動きにぎこちなさが見え、自分のタイミングでシュートが打てなかったが、今は極めてスムーズになった。

喜多川は言う。「前半戦はすごく迷いながらシュートを打っていました。そこでいらないことを考えてしまったりして、いつもだったら入るようなシュートを落としたことはたくさんあって、そこでヤキモキしていた部分はあります」

琉球では日本人選手としてチームトップの平均11.4得点を記録。サイズのないチームで喜多川の得点能力はオフェンスの軸となっていた。だが栃木は守備を重視するチームであり、自分の役割を見失っていた。「ディフェンスで自分がやらなきゃいけないところができなくて、『これってどういう状況なんだろう』と思うことが多々あって、そこのバランスが自分の中でうまく取れていませんでした」

だが試合が進むにつれチームルールを理解し、自分の役割が明確になっていったことで、本来の姿を取り戻していった。また同時に、チームメートも喜多川のスタイルを理解し、彼のためにシュートチャンスを作り出すプレーが増えた。その相乗効果で喜多川は『復活』したのだ。

「シーズン序盤よりも自分自身もやりやすくなってきています。ディフェンスが良くなったからオフェンスが良くなったというよりかは、やることが明確になったことが一番大きいかな」

「120%の力を出し切るメンタルでやっています」

喜多川はチーム4番目に長い平均20.1分のプレータイムを得ている。昨シーズンから減少してはいるものの、そこに不満はない。高いディフェンスの強度を求められる栃木では、疲労度が段違いだからだ。「疲れたら自分から手を上げて交代するっていうくらい、出ている時はアグレッシブにやっています。『今まで全然ディフェンスをやってなかったんだな』って思えるくらい足を使ったりするので、実際出続けるというのはすごくつらい部分はあります」

「つらい」と言いながらも、喜多川はにこやかに笑っている。高い要求をこなすことの充実を今の彼は感じている。喜多川は今年でキャリア10年目を迎えるベテランだ。その彼をして「ここまでディフェンスのことで練習中から言われる経験はしてこなかった」と言わせるほど、栃木はディフェンスに力を入れている。

確かに栃木の運動量は端から見ても多く映る。タイムシェアをしてプレータイムを管理しないと、体力が持たないのだろう。だがそのスタイルがチームに好循環をもたらしている。「控えで出てくる選手は信頼できる選手ばかりなので、出た時は何分かで疲れてもいいくらいの気持ちでやっています。出る時は120%の力を出し切るメンタルになっています」

喜多川はキャリアを通じ3ポイントシュートの成功率が約40%と、そのシュート精度や得点力を求められてきた。「僕自身もある程度守れればいいかなっていう感じだったので(笑)とディフェンスにそこまで注力してこなかったことを明かす。それでも今は「ブレックスに入ってから意識はだいぶ変わったと思います」と身も心も栃木スタイルが染みついた。

キャリア10年目にして真のディフェンス力を習得しつつある喜多川。得点力に加え、レベルアップした守備を武器に、栃木をチャンピオンシップ進出へと導く存在となる。