Bリーグの2019-20シーズンはレギュラーシーズンの3分の2を消化したところで終了となった。言うまでもなく新型コロナウイルスの影響だが、最も振り回されたのがレバンガ北海道だ。桜井良太もセカンドユニットに回り苦しんだこのシーズンを「良かったところを挙げるのが難しいぐらい」と振り返る。『鉄人』と呼ばれる彼も37歳となり、プレースタイルを変えながらチームを支え、若い選手を引っ張り続けている。そんな中で味わった様々な難しさと来シーズンに向けた新たな意気込みを語ってもらった。
「レバンガに一貫したチームの文化を作りたい」
──北海道は全国でも早い段階で感染者数が増えた地域で、レバンガも新型コロナウイルスに振り回されました。
そうですね、最初に感染が広まって独自の緊急事態宣言を出したのが北海道でした。リーグが中断する前だったので、他のチームの選手や関係者と話しても温度差が結構ありました。練習会場でも時間を分けて、人数も2人ずつ区切って練習したりしていたのですが、それもできなくなってしまって。この経験が後々に「あんなこともあったよね」と言えるようになれば良いのですけど、今はまだそう思えません。
今も練習はできていません。外を走ったりはしていますが、ただ走るのと体育館でバスケをやって走るのでは違います。この年齢ですし定期的に身体を動かしておかないと不安になります。
今は身体のメンテナンス、特に柔軟性を意識しています。2年連続でシーズン終了直後に足首を手術して、今シーズンはケガはなかったんですけど、思い通りに身体が動かないことがありました。だから今は毎日ストレッチをして、柔軟性を取り戻すことに重点を置きつつ、筋力を付けたりハンドリングをしています。
──チームとしては13勝27敗、残留プレーオフまで行った昨シーズンからは勝率を大きく伸ばしました。
補強をしっかりして周囲から期待されて開幕を迎えて、4連勝と今までにないスタートを切ることができました。その勢いをずっと維持できたわけではなかったですが、Bリーグになってから初めて千葉に1勝を挙げたり、和歌山での天皇杯予選でも千葉に勝ってファイナルラウンドに進出したりと、良い時には本当に良い試合ができました。千葉に勝った試合も、これまではリードしていても「ここから追い上げられるだろう」とピリピリしていたんですが、あの時は途中で「勝てる」と思いましたから。それはスタッフが用意した準備をしっかりと遂行できたからです。ただ、それをずっと継続できなくて、流れを悪くしてシーズン中断まで行ってしまったので、チーム作りの難しさを思い知らされました。
──好不調の波があって、良い時には千葉に勝てるレベルまで来ました。次のステップとしては波をなくして底上げすることだと思います。そのためにどんなアプローチをすればいいのか、そのヒントは得られましたか?
やっぱりチームのコミュニケーションです。上手く行かないとコートでぶつかる時もあって、オフコートでちゃんとコミュニケーションが取れていればいいのですが、そこができていない部分がありました。Bリーグになって水曜日の試合も増えて、ウチはアウェーだとすべて飛行機での移動だし家族のいる選手も多く、「ちょっとご飯に行こうか」と言い出しづらいぐらいの過密日程になっています。コミュニケーションの必要性は分かっていても、そこで無理してでもチームみんなで食事に行くような機会を作れなかったという反省があります。
「控えから出ていくのは日本代表以来、難しかった」
──そのコミュニケーションの部分では、このタイミングで折茂武彦選手と松島良豪選手、ムードメーカーの2人が抜けることで難しくなりそうです。それを別にしても、折茂選手の引退で桜井選手にも様々なプレッシャーが掛かるのでは?
プレッシャーはありませんが、折茂さんはロッカールームで天然な感じでしゃべっているだけで自然と中心になっていく人です。折茂さんがいなくなることで、特にオフコートの部分でどうなっていくんだろうとは思いますね。
──折茂選手はもちろんですが、松島選手とも長く一緒にやりましたね。一番の思い出は何ですか?
言えないことの方が多いんですよ(笑)。でも、不思議な選手でした。兵庫から移籍して来た時、プレシーズンの練習でのハンドリングが下手で、折茂さんと「彼、ポイントガードだよね?」って心配していたんですが、試合になると取られそうで取られない。なんか動きも素人臭いんですが、なのに1試合18アシストの記録を持っているんですよ。オフコートではうるさいぐらいしゃべるのに、コートではしゃべらない。今じゃなくてコートでしゃべれよ、ってギャップもおかしかったですね(笑)。チームの食事会は彼が仕切っていたので、来シーズンはどうなっていくのか。
──仕切り役が誰になるかは別として、コミュニケーションをもっと取っていく。その他にポイントはありますか?
一貫したチームの文化を作ることです。レバンガ北海道というチームがどうやって行くのか、1シーズンだけ頑張って結果が出るものではありません。それは橋本竜馬とずっと話していることでもあって、彼は常勝軍団と呼ばれるチームでずっとやってウチに来ました。チームとしてもフロントとしても、良い時も悪い時もありますけど、一貫したチームの文化がないと、選手もチームもどこを見ていいのか分からなくなります。
良い選手を集めれば勝てるわけじゃないことはいろんなチームを見ていれば分かります。逆に選手のタレント性がなくてもチームとして向かうところが見えていて、選手がそこに向かっていけば、ある程度のチームにはなります。来シーズンはそこをまず作りたい、その姿勢を見せていかなければいけないと思っています。
──桜井選手個人としてはどんなシーズンでしたか? 収穫と課題を教えてください。
良かったところを挙げるのが難しいくらいです。(マーキース)カミングスを3番ポジションで使ったことで僕のプレータイムは減りました。ずっとメインでやらせてもらってきて、自分が控えから出ていくのは日本代表以来のことで、久々にやってみると難しかったです。スタートで出て自分のリズムで「ここでギアを入れるぞ」というのと、苦しい時間帯に出て流れを変えるのは違いました。
「折茂さんがいなくなってダメに、と言われたくない」
──日本代表以来となると相当ですね。役割がガラリと変わり、順応が難しかったということですか?
もともと身長の割に動ける選手と言われてきて、シックスマンで出ていくのは苦手じゃなかったんです。ディフェンスで前から当たってターンオーバーを出して、簡単な得点を伸ばしていくのが持ち味でした。しかし、この年齢になって手術も数回やって、アクティブに動けなくなってプレースタイルが変わっています。今シーズンはシックスマンとして流れを引き寄せることができず、そこは内海(知秀)さんの期待に応えられなくて申し訳なかったですし、来シーズンは変わらないといけないと思っています。
──ですが、年齢とともにスタイルを変えることは長くキャリアを続ける上での秘訣とも言えます。来シーズンの起用法がどうなるか分からないにせよ、復活へ向けた手応えはつかめていますか?
今の段階ではつかめていません。それでも1対1で仕掛けられる、速攻にも絡んでいけるコンディションを作らないといけないのは間違いないので、ベテランの味もあると思いますけどそれとは別に、若い選手と同じくアクティブにやれる土台を作りたいです。
──636試合の連続出場記録を持つ『鉄人』ですから、弱音は吐いていられませんね。
そうですね、ひ弱なタイプじゃないので(笑)。ただ、記録は運が良かったのとみんなに協力してもらったからです。足の骨折をしたのがシーズン最終戦で、そのままオフに入って記録が途絶えなかったのは運です。またコーチが恐らく僕以上に記録を大事に思ってくれたり、いろんな支えがあったからこそ続けられました。でも、当時のトヨタ自動車から今シーズンまで、15年間休まずに636試合まで来たとは自分でも驚きです。
──ファンは桜井選手の元気なプレーをまだまだ見たがっていると思います。来シーズンに向けた抱負をお願いします。
ファストブレイクで絡んでいくプレーがもともと得意でしたが、ベテランと呼ばれる年齢になってピック&ロールからの展開、1対1の場面でのキックアウトやシュートに持っていくプレーが加わりました。それにディフェンスを頑張ること。そのすべてでインパクトを残していきたいです。
シーズンの最後は負けが続きましたが、最後の中止になった川崎戦も北海道から駆け付けてくださった方がいて、スポンサーの方々も変わらず支えていただいて、本当にありがとうございましたと言いたいです。折茂さんが引退することになって、来シーズンは新生レバンガになりますが、そこで「折茂さんがいなくなってダメになった」とは絶対に言われたくありません。僕以外の選手もスタッフも同じことを思っていると思いますが、折茂さんが引退したことを悔しがるぐらいのチームを必ず作ります。どんな開幕になるかまだ見えてきませんが、その時のレバンガを楽しみにしていてください!
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