文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

我慢の『バム対策』を井上だけでなくチームで遂行

ウインターカップ男子の準決勝第1試合は、組み合わせ抽選の結果が出た時点で話題となった『福岡対決』に。福岡第一は昨年のウインターカップ王者、福岡大学附属大濠は今年のインターハイ王者。立ち上がりから東京体育館を埋めた観客の期待を裏切らない、熱い展開となった。

勝敗を分けるポイントとなる井上宗一郎とバムアンゲイ・ジョナサンのゴール下での攻防で、バムが攻守で上回る。200cmの井上に対しバムは5cm低いが、強さを生かしてゴール下を支配。ただ、井上に課されたタスクは40分間コートに立ち続けること。バムに対し無理に対抗してファウルトラブルになる、ファウルアウトになれば致命的なダメージとなる。

片峯聡太コーチからの指示は「いつもの練習よりプレッシャーのある状態で(バムに)打たせろ。身体を張って10cmでも20cmでもゴールに遠いところでボールを持たせることでシュートがズレるので、そのリバウンドを取りに行け」だった。あとはゾーンディフェンスでインサイドを固める『バム対策』をチームとして遂行。井上も辛抱しながらファウルしないようにバムに挑み続け、別の部分で優位を作った。

その優位としてまず出したのは前から当たる激しいディフェンス。これで相手のリズムを乱し、選手層の厚さを生かすべく矢継ぎ早に選手交代をし、前から当たるディフェンスの勢いをマックスに保つ。そこから中田嵩基と永野聖汰の連続3ポイントシュートで反撃開始。10-0のランで23-22と逆転に成功する。井上も強引な仕掛けでバムの守備を破り得点し、33-28と逆転して前半を折り返す。

速攻の福岡第一とバランスの大濠、持ち味の激突

プラン通りにロースコアの展開に持ち込み、福岡第一の最大の武器であるトランジションを封じた前半だったが、第3クォーター開始から福岡第一が走る。ゴール下のバム一辺倒だったオフェンスを修正し、他の4人がバムのスクリーンを使いスピードを上げてガンガン仕掛ける攻めに出る。バムは守備でブロックショットを連発。これで大濠はリムにアタックできなくなり、崩しきれずに放つ3ポイントシュートを落としては、リバウンドを取られ福岡第一のトランジションを喰らう羽目に。

残り1分30秒、井上が狙うシュートをバムが第3クォーターに入って3つ目のブロックショットで叩き落し、電光石火の速攻を井手拓実が決めて49-38と10点差に。ただ、ここで大濠は踏ん張り、永野、中田がしぶとくタフショットをねじ込んで42-47として第3クォーターを終えた。井手口孝コーチが「あそこでもっと差を付けておきたかった」と悔いる場面だった。

最終クォーター序盤、これまで個人ファウル2つで乗り切った井上がこれまでの鬱憤を晴らすような思い切ったプレーで連続得点。タイムアウトを取った福岡第一は、ここでキャプテンの井手が3ポイントシュートをねじ込むも、すぐさま大濠のキャプテン永野が3ポイントシュートを決め返す。そして井上が再びバムとの1on1を制して得点し、51-52と1点差に詰め寄った。

ここから1ポゼッション差でリードチェンジを繰り返す接戦になるが、残り2分12秒に試合の決定打と呼ぶべき出来事が起きる。ギアを上げた井上をマークしていたバムがこのクォーター3つ目のファウルを犯しファウルアウトとなったのだ。代役のクベマジョセフ・スティーブは1年生。投入された直後に永野のレイアップを叩き落として気を吐くが、大濠はすぐさまピック&ロールで揺さぶり、スイッチへの対応のまずさを突いて58-54と2ポゼッション差に突き放す。

「選手たちがよく我慢し、踏ん張った」

残り1分を切った最終盤。スティーブがトリプルチームをかいくぐってレイアップを沈めるが、反撃もこれまで。井手が狙った3ポイントシュートが落ちると、リバウンドから福岡第一のお株を奪う速攻を繰り出し、永野が勝利を決定づけるレイアップを沈めた。残り17秒で61-56。最後に松崎裕樹が意地の得点を返すも、最終スコア61-58で大濠が勝ちきった。

大濠の片峯コーチは「我慢我慢の展開でした」と試合を振り返る。「選手たちがよく我慢し、踏ん張り、最後はリバウンドのところでも必死にやってくれたのが大きな勝因です」

「普段であれば中田あるいは井上が、得点を取ったり大事なところで頑張るんですが、今日はその2人が特別調子良いというわけではありませんでした。ただ、この2人がブレずに最後まで自分の仕事をしてくれた、中田がコントロールし、井上がインサイドをアタックし続けたというのが良かった。他の選手、永野や浅井(修伍)だったりが自分の仕事に専念した。それがいつも通り精度よくシュートが決まった循環につながりました」

敗れた福岡第一の井手口コーチは、連覇を逃したことについて「最後は僕の采配のミスでしょうね。3点差なんてのは監督の責任です」と語る。「去年優勝した先輩たちの後を追い掛けるのは大変なプレッシャーです。井手にしろ小野(絢喜)にしろ松本(礼太)にしろ、日本代表になる力がない子が、もうちょっとのところまでチームを引っ張って来た。もう一頑張らせが足りませんでした」と、昨年『2冠』のコーチがあくまで自分の力不足を強調した。

明日の決勝は大濠と明成(宮城)、インターハイの再戦となった。インターハイを制している片峯コーチは言う。「選手たちにプレッシャーをかけるわけではありませんが、『負けて得るものはない』ということで大会に臨んでます。決勝に進むことを目標にして乗り込んでいませんので、どちらが相手になろうが必ず頂点を取る、そういう気持ちです」