ベイスターズで得たノウハウをバスケにも生かす
2016年9月に開幕したBリーグ。B1にはそれまで「企業のバスケ部」だったクラブが5チームある。川崎ブレイブサンダースはNBLのラストシーズン(2015-16シーズン)を制した強豪で、Bリーグ初年度(2016-17シーズン)もチャンピオンシップのファイナリストとなった強豪。彼らも東芝のバスケットボール部で、全選手が親会社の正社員だった。
東芝は2015年に不正会計問題が明らかになり、16年末には米国内の原子力事業に関わる巨額損失も表面化。現在は経営再建の途上にある。ブレイブサンダースは昨季からプロ化したものの、チームの運営法人であるTBLSサービスは東芝の子会社。そのような資本関係から経営の安定、永続性について不安を持っていたファンも少なからずいたに違いない。
ブレイブサンダースの新たなオーナーとなることが発表されたのは、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)。12月6日に川崎ブレイブサンダースを承継することが発表されている。同日の夕刻には両者の幹部が出席して、川崎市内で記者会見も行われた。
DeNAはプロ野球「横浜DeNAベイスターズ」の親会社としてすでにスポーツ事業に取り組んでいる。2012年に球団の経営を引き継ぐと、集客と強化の両面で目覚ましい実績を出し、今季は19年ぶりに日本シリーズへ進出。経営面でも長く続いていた赤字体質を払拭している。
東芝がブレイブサンダースを手放した背景として、「リストラ」の側面は間違いなくあるだろう。ただ東芝の豊原正恭執行役上席常務はクラブの承継について理由をこう語り、前向きなニュアンスを強調した。
「川崎ブレイブサンダースが今後ともBリーグのプロチームとして将来に渡り継続、展開、発展していくための方策を検討してきた。プロスポーツチームの運営経験、ノウハウを持ったDeNAグループのもとでチーム運営をすることが最善であろうと考えた。チームひいてはBリーグ全体のさらなる発展、活性化に資すると判断した」
ビジョンは「スポーツで人と街を元気にする」
DeNAのスポーツ事業本部長で、ベイスターズの社長も務める岡村信悟氏は買収についてこうコメントする。「スポーツで人と街を元気にするというビジョンを掲げて一生懸命、地域の人たちとスポーツを盛り上げていきたい。川崎市は150万人の人口と、何よりスポーツに対する熱意を持つ市民がいらっしゃる街。素晴らしいチームをお預かりすることに、大きな可能性を感じている」
DeNAは2018年1月を目処に持ち株比率100%の子会社として新法人「DeNAバスケットボール」を設立。ホームタウンは川崎のままで、本社も川崎市内に置かれる。今季は現在の運営法人(TBLSサービス)が引き続いて運営し、DeNAグループは新スポンサーとしてブレイブサンダースと関わる。来季以降は新法人が運営し、東芝もスポンサーとしてクラブへの関与を残す見込みだ。事業の承継は18年7月1日付で行われる。
新社長への就任が予定されている元沢伸夫氏は現在ベイスターズの執行役員事業本部部長を務めており、既に数カ月に渡ってブレイブサンダース、Bリーグの視察を重ねていたという。元沢新社長は就任の抱負について「何よりも川崎から愛されるクラブになりたい、川崎の皆様から誇りに思ってもらえるような存在になりたいと強く思っている」と述べる。
承継を巡る交渉が始まったのは17年7月。譲渡金額は300万円で「本件の事業に関わる資産および負債の帳簿価格を対価として支払う予定」(DeNA西沢義久スポーツ事業本部戦略部部長)とされているが、内訳については公表されていない。チームの承継は新法人が東芝の子会社であるTBLSサービスから、バスケットボール部門を引き継ぐ形で行われる。川崎市の小向事業所内にある体育館、近隣にある選手寮は引き続いてブレイブサンダースが使用。物件の所有、賃貸といった形態についてはこれからの話し合いで確定する。
「基本的にはこれまでの方針を継続していきたい」
慎重さが求められるM&A、企業同士の交渉ということもあり、両当事者のコメントにはまだ「歯切れの悪さ」も残っていた。交渉もしくは調整中の部分も少なからずあるようで、チームの新名称、チームカラーについては明言されていない。ただし原則として方向性に大きな変化はなく、元沢新社長も「礎となる部分は築いている。基本的にはこれまでの方針を継続していきたい」と口にしている。
また元沢新社長は「川崎から愛されるクラブ」としての方向性をこう説明していた。「まずはチームが強いこと。2点目は来場されたお客様に対しては勝敗に関係なく『楽しかった』、『また来たい』と思ってもらえるような総合的なエンターテイメント空間を作っていくこと。3点目は子供たち、川崎市のできるだけ多くの子たちがバスケを通じて心身ともに健康に育ってもらいたい。スクール事業の強化は積極的にやりたい」
ベイスターズの本拠地である横浜市と、ブレイブサンダースの本拠地である川崎市はいずれも神奈川県内の自治体だが、ある種のライバル関係にある。また横浜市にはB1のビー・コルセアーズがあり、横浜スタジアムの近隣にはビーコルの開幕戦が開催されたた横浜市文化体育館もある。
これについてDeNAベイスターズの岡村社長はこう理解を求める。「横浜にはベイスターズ、川崎にはブレイブサンダースということで、両方で地域のファンを大切にしながら取り組む。同じ神奈川で近隣ですし、違うスポーツですからシナジー効果もそれぞれにある。横浜の立場としては、ビー・コルセアーズさんとも共同してやってきているし、これからもそうありたい」
ブレイブサンダースの選手に対しては5日の夕方に説明が行われた。荒木雅己現社長は「前向きに理解してくれていると思っている」と述べている。
大河チェアマンはDeNAに「期待している」
Bリーグは運営法人の株式を5%以上譲渡する場合、理事会の承認が必要となる。今回の承継は6日の理事会で、全会一致の承認を受けている。Bリーグの大河チェアマンはDeNAのBリーグ参入発表を受けてこうコメントした。
「DeNAはプロ野球に参入してして、大きな成果を収められている。そういう企業が投資判断をするにあたって、川崎ブレイブサンダースを将来のスポーツ事業の核になると判断されたから今回の話があったと理解している。(DeNAのプロ野球参入によって)横浜スタジアムのチケットを買うのが大変だというくらいになり、スタジアムの外まで賑やかな空間を作り出された。この手腕、経営力をバスケット界にも注入して頂けると期待している」
「300万円」がクラブの市場価値と聞くと、バスケットボールファンとして寂しさは否めない。ただしチームが続く、川崎に残ることは率直に言って朗報だ。Bリーグが全クラブの独立法人化を行い、リーグを先頭に経営面の刷新を行ったことも、今回のスムーズな承継につながった。「前向きな売却」が増え、各クラブのバージョンアップが進めば、Bリーグはさらに発展していくだろう。
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