悩み続けろ+無心でプレーしろ=負のスパイラル
名古屋ダイヤモンドドルフィンズはここまで7勝12敗と低空飛行を続けている。若い選手たちが怖いもの知らずのプレーで突っ走った昨シーズンとは違い、少し『大人のバスケ』に舵を切ったことで思い切りの良さが出なくなった。日本人選手も外国籍選手もタレントは揃っているが力を発揮できない状況で、ルーキーの安藤周人も悩んでいた。
今シーズン、立ち上がりは好調だった。開幕から6試合は先発起用され、5試合目のサンロッカーズ渋谷戦ではキャリアハイの18得点を記録。ただ、そこから失速すると悩んでしまった。
「それまでは何も考えずに好き勝手にやっていたんですが、考えるようになってプレーに迷いが出てしまいました」と安藤は言う。「それまで10点取れていたのが4点とか5点になってしまって。コーチからは『悩むのも大事だから、悩み続けろ』と言われたんですが、シュートの確率が落ちていくうちに『ごちゃごちゃ考えても仕方ないぞ』とも言われたり。自分が一番年下で試合に出ていると、いろんなアドバイスを先輩からもらえるのですが、それぞれ意見が違うので、それでまた迷ってしまいました」
悩み続けて課題に向き合え。無心でプレーしろ。どちらもアドバイスとしては正しい。安藤もそれは理解しているが、結果が出ないことで迷いは深まり、自分のプレーを見失う負のスパイラルに陥っていた。「どちらも正しい意見で、僕としてはすべて吸収していけばいいのに、その過程で悩んでしまいました。考えれば考えるほど分からなくなって、試合でも迷ってしまって、結果も出ない。ドツボにハマってしまいました」
梶山信吾ヘッドコーチは「吹っ切ってプレーしろ」とアドバイスした。だが、ドツボではそれも飲み込めない。「積極的に打っていけと言われても、やっぱり打っていい場面と打っちゃいけない場面はあるわけです。打つべきじゃないシチュエーションで打ってしまうと、次は『いいのかな』と考えてしまいます。完全にドツボでした」
「ちゃんと打っていい場面で13本打てた」
そんな安藤にとって転機となったのが、天皇杯の西宮ストークス戦だった。相手がゾーンディフェンスを多用したこともあり、シューターの安藤は3ポイントシュートを打ちやすい状況にあった。この試合で放った3ポイントシュートは13本。そのうち5本が決まっているが、成功数は安藤にとっては関係ない。正しいシュートセレクションで13本打てたことが、彼に自信を取り戻させたのだ。
「自分の持ち味が3ポイントシュートだと再認識できました。3ポイントシュートでチームに勢いを与えられるんだと分かったんです」と安藤は言う。分かってしまえば当たり前のことだが、それが分からないほどのドツボだったのだ。「チームがノーマークにしてくれて、そこにパスが来て、ちゃんと打っていい場面で13本打てた。それが自信になりました」
2日の京都ハンナリーズ戦、安藤に迷いはなかった。吹っ切れたことで、周囲のアドバイスもクリアに頭に入り、すぐにプレーで表現できる。「チームとして僕に打たせてくれるようにしてくれます。今日もJBが常に僕にアドバイスをくれました。ポストが入った時はこう動いてくれ、それで空いたら絶対にパスを出すと」
この試合で安藤が決めた3ポイントシュートは5本。司令塔の笹山貴哉からのアシストが1つ。残るはJBことジャスティン・バーレルが2つ、クレイグ・ブラッキンズとジェロウム・ティルマンが1つずつと外国籍選手のアシストだった。「最後の3ポイントシュートもJBが『もらってスクリーンを使う前に打て』と言ってきたんですが、僕がリングを見てなくて打てませんでした。そうしたらすぐにスクリーンに来てノーマークを作ってくれて打つことができました」
ドツボを脱した今、安藤を取り巻くすべてが好転しつつある。「試合を重ねるうちにパスがどんどん来るようになっています。それを決めきるのが僕の仕事です。先週は『打てた』でしたが、今回は『決めた』でした」
「まだまだ自分はできる、だから満足もしない」
もっとも、24得点も決めれば翌日の第2戦では徹底的に対策されるのは必然である。3ポイントシュートは3本しか打たせてもらえず成功ゼロ。36分間の出場で4得点に終わり、チームも敗れた。「マークが厳しくなったらどう打開するかが僕にとってはまた勉強になります」と安藤は言う。
特別指定でプロの戦いに身を投じた当初のことを安藤は「全然マークされなくて、ノーマークでシュートを打たせてもらえた半年でした。今シーズンが始まってマークされて、そこでどう打開するか。正直、まだその力はありませんが、一つひとつ階段を上っていきたいです」
クリアしたかと思えば次の課題が出てくる。プロの世界はそう甘くはないが、安藤はその挑戦を楽しんでいる。「満足は全然していないのですが、まだまだ自分はできると思っています。だから満足もしないんです」
ステップアップの先に見据えるのはAKATSUKI FIVEだ。「今シーズンが終わるまでには日本代表候補になりたいです。急に代表のメンバーになるのは難しいかもしれませんが、代表監督の目に留まる選手になることが今の目標です。今の日本代表は辻(直人)さんが外れて古川(孝敏)さんが戻る状況で、シューターが必要だと思います。そこで代表に求められるシューターになりたいです」
見据えるレベルは高いが、それでも安藤は『悩んで学んで』で一歩ずつ目標に近づいていく。
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