藤田弘輝

「東京オリンピックまで続けたい」

バスケットボール男子日本代表は2020年の代表活動をスタートさせた。その最初の戦いは24日に行われるアジアカップ予選、アウェーでのチャイニーズタイペイ戦。この試合に向けて招集されたのはいわゆる『国内組』で、候補選手24名すべてがBリーグでプレーする選手だ(西田優大だけは東海大所属、特別指定選手としてBリーグでプレー)。選手以外にもBリーグのチーム所属ながら参加しているのが、サポートコーチ兼通訳を務める藤田弘輝(琉球ゴールデンキングス)だ。

これまでにも日本代表にトップリーグのチームで活動するコーチが加わることは度々あったが、それはほとんどが所属クラブではアシスタントコーチだった。しかし今の藤田は、佐々宜央の退任によって12月途中から琉球のヘッドコーチに昇格している。現役ヘッドコーチがシーズン中に違うチームのサポート役を務めるのは異例だ。

現場のトップであるヘッドコーチは、大きな責任と重圧の中で戦っている。このブレイク中は来たるべきシーズン終盤の戦いに向けてリフレッシュするために、またその準備のために、代表への参加を辞退しても、それは妥当と言えるものだ。だが、藤田にそういう考えはなかった。

「ヘッドコーチになったのでサポートコーチはやりません、という考えはなかったです。ワールドカップに参加させてもらい、やらしていただけるのであれば東京オリンピックまで続けたい。それをやらないと中途半端という思いはあります」と、東京オリンピックまでを一つの区切りと考えている。

「ワールドカップとオリンピックのメンバーはほとんど変わらないですし、同じスタッフで頑張ってきていて、自分の中ではもう一つの大事なチームです。それを途中で辞めたくない。シーズン途中で思いもよらない形でヘッドコーチになりましたが、始めたことは最後までやりたい。キングスのフロントの皆さんも『やってほしい』と後押ししてくれました」

藤田弘輝

「大きな分岐点にある中、自分がかかわることにやりがい」

代表活動に加わることは、Bリーグの舞台では得られない様々な経験ができる。「ジョーンズカップ、ワールドカップと国際大会の現場でこそ味わえる雰囲気はあります。日本のバスケットボールが大きな分岐点にある今、そこに自分がかかわることにすごくやりがいを感じます。代表スタッフ、代表選手はみんなレベルが高くて学びも多いですし、いろいろな刺激がありますね」

そして、活動を継続することで、「一緒に過ごす時間が長くなった分、(フリオ)ラマスさんはこう言いたいんだろうな、こういうバスケットの考え方なんだろうと、分かりやすくなってきました」と手応えも得ている。

また、Bリーグではライバルとなるチームの主力選手と代表で触れ合う中での発見もある。「僕はずっとアメリカにいて、日本の名門高校、大学にいたわけでも、NBLのチームにいたわけでもない。この活動をしていなかったらかかわることのない選手たちと話をして、シーズン中に会ったら『どう調子は?』とか挨拶したりする。例えば、比江島慎はコート上ではすごいけど、オフコートではちょっと天然キャラで結構意外だなと。僕は全く知らなかったので、そういうのは面白いです」

藤田弘輝

「この2年、3年は走り続けようと決めています」

チャイニーズタイペイでの試合が終わると、すぐに29日の島根スサノオマジック戦に向けた準備を始める必要があり、休める時間は全くない。34歳と若い藤田だが、「コンディショニングはすごく大切です。シーズン60試合は本当にキツいので、運動や瞑想、ヨガとできることはやっています」と、体調管理には気を遣っている。また、Bリーグのシーズンが終わればすぐに代表活動が再開する。タフなスケジュールは今回に限らず続いていくが、「この2年、3年は走り続けようと決めています。倒れないように頑張ります」と、これからも歩みを止めるつもりはない。

今の藤田は、地区首位の琉球を率いるとともに代表にも参加し、他にない濃密な経験を積み重ねている。それも周囲の協力があってこそとの思いが強い藤田は、伝道師としての役割も担う。「B1の高いレベルでコーチをさせていただいて、代表にも携わらせてもらっている。将来、自分が経験したことを伝える立場になった時に、これを自分より若い人たち、次の世代の人たちにパスしていきたい」

「この経験をチームに還元することも僕の仕事。代表を通して知り合った人たちとのコネクションもそうですし、いろんな形でキングスへは還元したいです」と、もちろん琉球への発展に繋げる気持ちは忘れていない。

代表選手たちが、国際舞台でのタフな試合をそれぞれの所属チームに伝えていくことは、日本バスケ界の発展に繋がっていく。それはコーチ陣にも言えること。貪欲にチャレンジを続ける藤田もまた、日本バスケットボール界の次代を担う貴重な存在なのだ。