文・写真=鈴木栄一

B1屈指の人気を誇る琉球ゴールデンキングスは、2年目のシーズンに優勝を目指すべく大型補強に踏み切った。人気と実力を兼備したビッグクラブへと飛躍する大勝負を任されたヘッドコーチは、33歳の佐々宜央。状況は変わりつつあるが、まだまだ実績を残した選手がコーチになるケースが多い日本のバスケ界において、選手としての実績はほぼ皆無ながら、大学とトップリーグで勝利を重ねてきた佐々は異質な存在だ。コーチ一筋のたたき上げである佐々のチャレンジを『バスケット・カウント』は追いかけていきたい。

PROFILE 佐々宜央(さっさ・のりお)
1984年5月13日、東京都出身のバスケ指導者。東海大の陸川章、日立の小野秀二、栃木ブレックスのトーマス・ウィスマン、日本代表の長谷川健志と錚々たる指揮官の下でアシスタントコーチを務め、この夏に琉球のオファーを受け入れヘッドコーチとして独り立ち。「今いる選手の技術や心を含めてチームを作っていく」とポリシーを掲げる。

24日からワールドカップ1次予選の戦いが始まる。初戦のフィリピン戦を前に、この夏まで日本代表のアシスタントコーチを務めていた佐々に、代表チームへの思い、アジアと世界で戦うということについて聞いた。

「泥臭い日本代表を見たいと勝手に思っています」

──いよいよ24日からワールドカップ一次予選が始まります。去年までは日本代表チームの一員でしたが、これまでと違って選手を代表に送り出す立場になりました。代表について、あらためて感じることはありますか?

素直に応援したいですね。自分が代表にいたからかもしれなませんが、「ああ、行っちゃう」という感覚はないです。沖縄を代表するプライドを持って、本当に頑張ってほしいです。さっきもロッカールームで言ったんですが、沖縄でやってきていることの良さもあるわけで、それを2人には代表にも持っていってもらいたいです。

また、彼らがチームからいない間、こっちはこっちで頑張る。そこも競争であり、全然ネガティブなことはありません。まずは金曜日のフィリピン戦を僕も楽しみにしていますし、是非良い戦いをしてもらいたいです。日本のリーグでコーチをしている人間として、アジアカップで韓国に負けて僕も悔しかったです。今度は絶対に勝ってほしいですね。

──まずは、フィリピン戦でどういうところに注目しますか?

相手にはロメオ、カストロと強力なガードがいて、ビッグマンにはブラッチェなんかが来るかもしれない。個人技は高いチームです。僕もアジア選手権ではフィリピンに負けています。ただ、戦えないことは全くない相手だと思っています。

結局、今の日本代表は最後に勝ちきれないのが現状です。良い流れで来ていても、「勝てないんじゃないか」という雰囲気が出てしまう。韓国を相手にすると、特にそういうところがあります。勝てるのに自分たちから落ちてしまうところがあって、そこのメンタリティを改善し、いかに最後まで自分たちのプレーをやり通せるか。調子の波が少ない代表を見たいです。ディフェンスとルーズボール、リバウンドを頑張る。国と国の戦いなので、別にどんな内容でもよくて、泥臭い日本代表を見たいと勝手に思っています。

「言い訳なくやれるチームであり続けたい」

──では、古川選手、アイラ選手が代表から帰ってきた時、どういうことをチームに還元してほしいですか?

オーストラリア戦のようなアウェーゲームの苦しい状態は、代表に行かないと本当に経験できないものです。また、国を背負って戦う責任感は、自分も栃木にいた時にチームに戻った際に伝えたかったですが、なかなかうまく行かなかったです。ただ、今の古川とかアイラの年齢からしたら、そこを一番求めたいです。

自分たちがどれだけの責任を背負ってやっているのか、どんな心構えがあるのか。プレータイムを10人でシェアしたりすると、みんなの責任が分散しがちになってしまいます。でもそうではなくて一人ひとりが、強い責任感を感じないといけない。それはプレーで伝わると思います。そういう重要なところを伝えてほしいです。

──沖縄という地理的なハンデもあり、アウェーゲームでの試合の場合、2人は合宿終了後に沖縄には戻らず、現地で合流するなど特にタフな日程をこなしています。彼らのケアで気をつけていることはありますか?

一番気にしているのはストレスを溜めさせないことです。僕も代表に行った時には結構疲れました。体力というよりメンタル面で気疲れするんです。彼らに対して、いかにストレスをかけず、やる時にやるというスイッチをつけさせるかに注意しています。ただ、彼らとの付き合いはそんなに短くないので。僕が言う前に「どうせ佐々さんはこういうことを求めてるんでしょ」となるのは助かります。そして、こういう状況でも言い訳なくやれるチームであり続けたいです。

キングスを率いる佐々宜央の『下克上戦記』
vol.1~学生コーチへ『予想外』の転向
vol.2~陸川章監督の下で奮闘した学生コーチ時代
vol.3~敗戦で得た課題を糧に5連勝