文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

「どちらに対しても100%の準備をしなければいけない」

どの業界にもメインの役職の他に違う役割を兼務するポジションは存在する。スポーツの世界では選手権監督という言葉が一番しっくりくるだろう。富山グラウジーズの宮永雄太はB1で初めて選手とアシスタントコーチを兼任したプレーヤーとなった。

「自分が将来コーチングをやりたいという思いがあってチームの代表と話した中で、自分が持っている経験を選手、または新しく来るヘッドコーチに伝えてほしいということだったので」と現在の肩書となった経緯を教えてくれた。

「どっちか50%でバランスを取るつもりは全くないので、どちらに対しても100%の準備をしなければいけないです」との覚悟で兼務に取り組んでいる。

「選手としては宇都(直輝)のバックアップとしてチームをコントロールして、チームに落ち着きを持たせます。どこが自分の強みか、どこが相手の弱みかというのをベンチから見極めて、自分が出た時にセットプレーを遂行するのがプレーヤーとしてやるべきことです」と宮永。

「アシスタントコーチとしては主に相手の分析を僕が担っているので、映像を作って、ヘッドコーチにすべての情報を伝えて、選手たちにも伝えるのが僕の今の役割です」と簡潔に説明した。

そんな宮永に対し指揮官のミオドラグ・ライコビッチは「コーチとしての仕事が良くなってきていて、それがチームにとって良い方向に向かっていると思います」と称賛している。

「選手寄りでいたい」というプレーヤーとしての気概

ただでさえシーズン中の選手たちはタフなスケジュールをこなしているが、宮永は選手としての練習と試合に加え、アシスタントコーチとしての仕事が待っている。

「難しいと言うか、全く休みがないです」と苦笑いを浮かべる宮永。それでも「選手の時より今の状況のほうが、相手の戦術を深く理解してます。自分たちのプレーも自分が出た時にどういったプレーが必要かというのは今年のほうがスムーズにできていると感じます」と兼業のメリットも感じているという。

両方の仕事に全力を注いでいるのは承知の上で、どちらのほうが好むかを問うと、少し間を置いて「選手寄りでいたいです」という答えが返ってきた。

「コートに立って勝利に貢献するというのがまず自分の第1の仕事だと思います。それにプラスして自分の経験を選手にもヘッドコーチにも伝えるべきだと思うので、しっかり今のポジションの中で伝えていきたい」

「自分にとってチャレンジだし、チャンス」

また兼任プレーヤーとなった理由として、京都ハンナリーズに在籍する岡田優介の存在に触発されたことを明かしてくれた。

「2年前に千葉ジェッツでプレーした時に岡田優介と一緒にプレーする機会があったのですが、彼もプロ選手でありながら自分のビジネスというか経営をしていて、そういうことをトライするのもアリなんだなと発見できたんです。今年、選手兼アシスタントというオファーがあった時、これは自分にとってもチャレンジだし、チャンスだなという思いがありました」

11年目のキャリアを迎え、新たなチャレンジを選択した宮永は最後にこう締めくくった。

「チームの中で最年長の僕がすべての仕事をして、それでも試合に出た時にはハードにディフェンスをして、ルーズボールにダイブしてっていう姿を仲間が見てくれれば、それだけでもみんなもっと頑張ろうと思ってくれます。それだけでもチーム力アップにつながると思うので、自分ができる両方のことを100%やっていきたいと思います」

最年長プレーヤーのハッスルする姿を見せられたら、チームメートも奮起せずにはいられない。そうした細かな積み重ねがチームを強くすると宮永は信じている。プレーヤーとして、そして参謀として、二足の草鞋を履く宮永の挑戦はこれからも続いていく。