篠山に続き藤井も欠場、チームを救った辻直人

篠山竜青とマティアス・カルファニをケガで欠き、鎌田裕也に続いて藤井祐眞がインフルエンザで欠場。天皇杯の準決勝に臨む川崎ブレイブサンダースは満身創痍の状態だった。特にポイントガードのポジションは1番手の篠山と2番手の藤井を欠き、しかも相手は前からのプレッシャーが強い宇都宮ブレックスだ。

勝ち目が薄いと見られても仕方のない状況だったが、逆にチームは結束を強めた。先発ポイントガードを務めたのはシューターの辻直人だ。「下馬評で宇都宮さんが有利というのはあったと思うので、それを覆してやろうというのは合言葉のような感じでした。本当に最初からみんな気持ちが入っていた」と辻は言う。

ポイントガードではなくてもハンドラーとしての能力が高く、ピック&ロールからの崩しを得意とする辻が、激しいディフェンスをかいくぐることで宇都宮の目論見を外し、川崎に流れを呼び込む。

藤井の欠場を前日に聞いたという辻は「その時はマジかって気持ちで不安が先に来ました」と正直な気持ちを語る。「ボール運びはみんなで助け合いながらやろうと(佐藤)賢次さんも言ってくれて、そこは本当にみんなが助けてくれたので、僕もハーフコートに入ってピック&ロールとかを使う体力も残ってましたし、そういう判断もできたと思います。みんなのおかげで今日はポイントガードをやり通せたと思います」

こうして川崎が主導権を握った立ち上がり、宇都宮にはチグハグさが目立った。辻へのプレッシャーがかわされ、上手くボールを運ばれたにしても、シュートに対するディフェンスがあまりにも弱く、熊谷尚也やジョーダン・ヒースに得点を許してしまう。試合開始前から優位に立っていたはずがビハインドを背負い、精神的に立て直せなかった。

第2クォーターに入っても川崎は堅守から手堅くボールを前へと運び、宇都宮のプレッシャーをかわしては良いシュートチャンスを作り出す。特にヒースは良いタイミングでのダイブ、上手くマークを引き離しての3ポイントシュートと快調に得点を重ね、前半だけで18得点を奪う大活躍でチームを牽引した。前半のラスト2分半、宇都宮がライアン・ロシターとジェフ・ギブスをベンチに下げると、今度はファジーカスが得点を重ねて、前半で37-24と大量リードを奪った。

川崎ブレイブサンダース

宇都宮はオフェンスが沈黙「見つめ直す機会」

それでも、川崎は満身創痍でローテーションの人数が足りない。ニック・ファジーカスが第1クォーターで個人ファウル2つ、ヒースも第2クォーター半ばで個人ファウル2つと、代えの効かない選手にファウルが先行する嫌な雰囲気もあった。それでも後半も集中を切らすことなく、ボールへの執着心でも宇都宮を上回る。

「最初から気持ちが入っていたし、リードしても決して気を抜くことなく40分間やれたので、そこは本当に良かった」と辻が振り返ったように、川崎は攻守において宇都宮に付け入る隙を与えなかった。

逆に、宇都宮は本来のバスケットを取り戻せない。エースのロシターはヒースとのマッチアップに四苦八苦。比江島慎は長谷川技のフィジカルなディフェンスに沈黙させられ、渡邉裕規の3ポイントシュートが決まっても後が続かない。

宇都宮は20点差をはね返す爆発力を秘めたチームで、主力にプレータイムが偏る川崎としては油断ができなかった。それが川崎の選手たちが100%の集中力を最後まで続ける助けになったのかもしれない。辻直人と交代で出た3番手のポイントガード、若い青木保憲も、固さが見られた前半もボールロストは最少限に抑え、後半にはノビノビとオフェンスを組み立てて、果敢なアタックから宇都宮を突き放す得点も挙げた。

第3クォーター残り2分20秒、オールコートプレスに脅かされながらも青木がボールを繋いで速攻に。大塚裕土が鵤誠司のファウルを受けながら3ポイントシュートをねじ込む4点プレーが飛び出し、その直後にはスティールから再び大塚の3ポイントシュートで60-43に。これで宇都宮の集中力は切れてしまった。最終スコアは61-82と、宇都宮からすれば信じられないような完敗となった。

宇都宮の安齋竜三ヘッドコーチは不甲斐ない試合をこう振り返る。「川崎さんがすべての面においてウチより断然上回っていました。ここは本当に考えないといけない。川崎さんにあってウチにないものが決定的にあると思います。こういう負けを食らってもう一回本当に気持ちを切り替えるというか、自分たちがやらないといけないことを見つめ直す機会だと思うので、この敗戦を次に生かしたい」

辻直人

「はいつくばってでも戦う気持ちで」

辻は12得点7アシストでターンオーバーなし。ヒースは21得点9リバウンド、ファジーカスは17得点8リバウンドと目立ったスタッツを残したが、良く繋いだ青木、強烈なディフェンスを続けた長谷川技、短い時間で決定的な仕事をした大塚と、どの選手も持ち味を発揮。何よりも40分間を通してチームとしての強いまとまりを保ち続けたことが勝因となった。

NBLラストシーズンの優勝を最後にビッグタイトルから遠ざかっている川崎だが、満身創痍の状態ながらもファイナルまでたどり着いた。辻は言う。「本当に1試合しかちゃんとできてないですし、まして明日のサンロッカーズ渋谷はもっと前からプレッシャーが来るチームなので、その体力が残っているかしんどいですけど、今日も明日も自分にとってはバスケットプレーヤーとしてすごく良い経験になる試合です。楽しみながら、勉強しながら戦いたい」

この数年の辻はケガが重なったこともあり、なかなか本領発揮のパフォーマンスとはいかなかったが、ポイントガード不在の窮地に陥ったチームをハンドラーとして救った。「復帰してからすごく『自分らしさって何かな』って思っていたんですけど、今日の試合では自分らしさを出せたと思います。すごく疲れましたけど気持ち的にはすごく清々しいです」

体力的にはキツくても、あと一つ勝ってタイトルを取ることしか辻の頭にはない。「取りたいです。よく代表でとか言われますけど、それよりも個人的には川崎でのタイトルが欲しい。目の前までチャンスが来たので、もう一回全力を出して、はいつくばってでも戦う気持ちで明日も戦いたい」

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