河村勇輝

インサイドを固める相手ディフェンスを押し切る

昨年大会の準決勝と同じカードとなった福岡第一(福岡)と桜丘(愛知)。桜丘はどこからでも点の取れるタフなチームを作ってきたが、前年王者の福岡第一はそれ以上にタフで、自分たちのスタイルを貫きながら相手のバスケットに対応するしたたかさも備えていた。

桜丘は前日に県立能代工業(秋田)を見事に封じたゾーンディフェンスを試合開始から敷いてきた。ゾーンでインサイドを固めることでアタックを許さず、スローかつロースコアの展開に持ち込んで福岡第一のスピードを封じるのが狙いだ。

ところが、その思惑を福岡第一は真正面から突き破る。ゾーンディフェンスで人数を掛けて守るインサイドへとドライブで切り込み、狭いスペースに合わせのパスを通して連続得点。さらにはクベマジョセフ・スティーブが華麗なステップバックジャンプシュートを沈める。河村勇輝のボールプッシュからノールックパスを内尾聡理に通し、開始3分で11-2として桜丘にタイムアウトを取らせた。

ここで立て直したい桜丘だが、福岡第一はそれを許さない。タイムアウト明けの桜丘のオフェンス、ハンドオフを狙ってボールを奪い、神田壮一郎が速攻を決める。第1クォーターは小川麻斗の3ポイントシュートで締めて30得点。30-12と大量リードを奪った。

桜丘

スローテンポに持ち込みたい桜丘の思惑を許さず

桜丘は試合のペースを落とすために自分たちのポゼッションでは時間を使いたいところだが、福岡第一のプレッシャーが厳しくて徹底できない。どんどん点差が離れていく状況で、ボールを奪った瞬間に「相手が態勢を整える前に仕掛けなければ取り返せない」との意識が働き、福岡第一の速いテンポに合わせるようにペースを上げてしまう。

これこそ福岡第一の注文通りの展開。超ハイテンポな点の取り合いとなれば、福岡第一の強みばかりが出る。ボールを奪ったら縦に一直線。テンポが速すぎてミスが全くないわけではなかったが、一気にゴール下まで持ち込む迫力とフィニッシュの精度で違いを出した。

前半を終えて47-25。後半も福岡第一が主導権を握ったまま試合は進む。第3クォーター残り5分、小川がコースト・トゥ・コーストから豪快なドライブレイアップをねじ込んで60-29。この時点で実質的に勝負アリ、だった。

福岡第一はベンチ入りの15人が全員出場。誰が出ても隙のないバスケットを続けて、最終スコア87-48で勝利した。

河村勇輝&小川麻斗

河村とともにチームを引っ張る小川麻斗「陰ながら頑張る」

河村とともにチームを引っ張る小川麻斗は両チーム最多となる18得点を記録。大量リードを奪う展開でプレータイムは23分と伸びない中でも、鋭いカットインで桜丘のゾーンを攻略する得点を重ねた。それでも、小川が語るのは個人ではなくチームのパフォーマンスで、「最初から自分たちのブレイクを出せたこと」と勝因を語る。

河村が『大会の顔』として注目を集める状況だが、チームへの貢献度では自分も劣らないという自負があるはずだ。それでも小川は「河村がいるから今の自分が出せている部分もあるので、そうは思わないかな」と控え目な姿勢を崩さない。

「見てもらいたい気持ちはありますけど、陰ながら頑張っているのを日本の誰か一人でも見てくれればいいかなって思ってます(笑)」

自分のことはあまり話したがらない小川だが、チームについてなら饒舌だ。明日の対戦相手を決める東山vs報徳学園はまだ試合中だったが、「10月に東山に負けているので、ここで圧勝してリベンジしたい気持ちがあります」と力強い言葉を口にする。今年は公式戦では天皇杯で千葉ジェッツに敗れたことを除けば無敗。非公式の大会で一敗を喫したのが東山だ。その東山にきっちりカタを付け、決勝で福岡大学附属大濠を倒すイメージを誰もが持っている。

「負ける気はしないでしょう?」の問いに、「そうですね」と答えつつ、仲間思いの小川は「最後は全員が出場できるように」と付け加えた。昨年大会でそうしたように、圧倒的な展開に持ち込んで1年間一緒に戦ってきたベンチメンバーもコートに立たせること。その思いが福岡第一の最後のピースとなりそうだ。