中央大

大学バスケの春の祭典、スプリングトーナメントは日本体育大の3連覇で幕を閉じた。昨年ベスト16の中央大は、身長2mのセンター深澤桜太を大会前のケガで欠きながらも6位と健闘を見せた。各大学の留学生に対抗できる大黒柱の欠場という非常事態の中で、結果を出すことができた背景には、チーム全員の危機意識と今年から加わったテクニカルコーチの全力サポートがあった。

留学生センターに対抗できる深澤桜太が前十字靱帯断裂

練習中の元気な掛け声が響く中央大のバスケットコートに一転、沈黙が広がったのは、トーナメント初戦の約1カ月前のことだった。チーム練習でディフェンスリバウンドを取った深澤がそのままドリブルをつき、いったん動きを止めたところ、膝から前に崩れた。深澤の痛がる表情から、軽傷でないことは誰の目にも明らかだった。

「激しいリバウンド争いでケガをしたのではなく、その後の流れの中でした。桜太は今年、若手日本代表や李相佰盃のメンバーに選ばれ、トーナメントに向けても張り切っていたのですが……」と荻野大祐ヘッドコーチは言う。

診断の結果は、右膝の前十字靱帯断裂。復帰に半年以上を要する大ケガだった。

中央大には苦い経験がある。昨年秋のリーグ戦、U18日本代表に選ばれた深澤が不在となった前半戦、チームは8連敗を喫した。一番の要因はリバウンドで、各大学に制空権を取られ、リバウンド数が20劣った試合もあった。

選手たちの頭をよぎる昨年の悪夢。練習に今ひとつ集中できていない仲間の姿を見て、宮内柊人主将が声を上げた。「深澤の欠場はもちろん痛いけど、それを引きずってはダメ。誰かがケガをしたら、みんなでカバーすれば良いんです。残るメンバーで頑張ろうと声を掛けました。今年のテーマはディフェンスなので、練習でとにかくやりきって大会に挑もうと」

中央大

敗戦を引きずることなく順位決定戦で健闘

4月30日、トーナメント初戦の相手は国士舘大。順当に勝利した中央大は、続いて昨年ベスト4の山梨学院大に終始試合を有利に進め、連勝を飾った。この2試合に共通したのは強度の高いディフェンスで、ガード陣が前線から激しくプレッシャーをかけ、リズムを狂わせて速攻を出させない。相手のシュート確率を下げたところで、リバウンドをみんなで取りきった。

選手が疲れたらすぐに交代できるのは、キャプテンの宮内、高山鈴琉、石口直、坂口大和といったスキルの高いガードが豊富だからこそ。荻野ヘッドコーチは「ガード陣は誰が出てもレベルが変わりません。だから激しいディフェンスができる。平均身長の低さを、運動量で補う狙い通りの試合ができました」と語る。

準々決勝では昨年のインカレ王者、日大と対戦。中央大はハードなディフェンスを見せるも、日大のポイントガード、下地秀一郎の落ち着いたボール運びと巧みなパス回しで、次々とシュートを決められ、第1クォーターは8-23と大きく出遅れた。そこから立て直し、第3クォーター残り5分には4点差まで詰め寄ったが、勝負どころでリバウンドを取られ、最後は59-73と突き放された。

昨年秋のリーグ戦で連敗したように、近年の中央大は一度負けるとずるずる崩れる傾向がある。翌日の早稲田大との順位決定戦は、チームの成長を図る重要な一戦となった。

日大戦の反省を生かし、試合開始から気持ちのこもったプレーを見せる中央大は、14-0のランで主導権を握る。その後は早稲田大に追い上げられ、終盤には逆転を許すも、そこからディフェンスの強度を上げ、リバウンドも死守。最後は石口の連続3ポイントシュートで突き放した。

パワーフォワードの島﨑輝はこう語る。「昨日の負けを生かした粘りのプレーを全員がしていたと思います。自分は4番ポジションなので、特にリバウンドを意識しました。深澤の分はみんなでカバーする。それぞれが成長できていると思います」

悔しい敗戦から気持ちを切り替えての勝利。選手たちの精神的成長の影には、新任のテクニカルコーチの存在もあった。中央大のポイントガードとして活躍し、3年前に卒業した清水宏記だ。今年2月にコーチに就任し、主に週2回、荻野ヘッドコーチが練習を見られない日に指導にあたる。

「就任して最初にやったのはマインドセット。選手たちに少し気持ちの緩いところがあり、それでは試合に勝てないよね、1時間でもいいから練習をもっと一生懸命やろうというところから始めました。戦術面ではとにかくディフェンスを良くしようと。強度を上げることがベースで、その上でいくつかルールを決めて、それをやり切ることを徹底しました」

中央大

健闘の中で収穫も多々、秋に成長した姿を見せられるか

これまでとは違うたくましい姿は、大会最後の東海大との試合でも見られた。強豪相手に第3クォーターまでリード。最終的に10点差で敗れたが、210㎝のムスタファ・ンバアイを中心に圧倒的な高さを誇る東海大に、リバウンドは1つ上回った。

中央大のディフェンス面の向上に、警戒を強める大学も多い。トーナメントを優勝した日本体育大の藤田将弘監督もその一人だ。「武器はディフェンスというぐらい良かったです。相手チームのトランジションオフェンスを封じ込めてペースを乱れさせる『蟻地獄ディフェンス』も特徴。オフェンス力も上がっていて、怖い存在です」

中央大の今大会5試合の失点は57~73点。昨秋と同じ深澤不在という中で、大きな成長を見せた。その一方で、キャプテンの宮内が「イーブンのルーズボールを取り切れない」、坂口が「勝負どころでリバウンドを取られてしまう」などの課題も見つかっている。

日々の練習や夏合宿でこれらを克服し、秋により成長した姿を見せることができるのか。その取り組みが注目される。