文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

「これだけやっても時間は足りないぐらいです」

11月下旬のワールドカップ1次予選に向けて日本代表が始動した。毎週末のリーグ戦の合間を縫って強化合宿を繰り返す過酷な1カ月間のスタートだ。『日本のエース』比江島慎は言う。「大変は大変ですけど、去年から続けてやっているので慣れました。それに、これだけやっても時間は足りないぐらいですから。チームとしてもっともっとレベルアップしないと勝てないことは分かっているので」

合宿最終日に取材に応じた比江島は、「アジアカップの反省を中心にしっかりやれた3日間でした」と振り返る。ボックスアウトだったりディフェンスだったり、全員でやる意識を持つこと、相手へのコンタクトをしっかり取る。「当たり前のことですけど、その意識を徹底させました」

1次予選の相手はチャイニーズ・タイペイ、フィリピン、オーストラリア。最もくみしやすいと見られるチャイニーズ・タイペイも日本と同格で、楽に勝てる相手ではない。そして残る2チームは格上だ。比江島は言う。「チャイニーズ・タイペイは何度もやっていて、きれいなバスケットじゃなくゴリゴリねじ込んでくるイメージです。強力な帰化選手で来たり、両ウイングでプッシュしてきたり。でも、波のあるチームなので、付け入る隙はあります」

1次予選は4チーム中3位までに入ればいい。チャイニーズ・タイペイに確実に勝ち、上回ることがノルマとなる。ただ、その先を考えればフィリピンとオーストラリアにも簡単に負けるわけにはいかない。「フィリピンは個人個人のレベルが高く、帰化選手もうまいので、アジアでもトップクラスのチームです。さらに強いのがオーストラリアで、前回初めて経験しましたが、ヨーロッパのバスケ、ラトビアやチェコに似ていると感じました。フィジカルが強いのはもちろんですが、シューターもうまいし、完璧にノーマークを作ってくる。すべてのポジションにトップクラスの選手が揃っている印象です」

「自分に求められているのはドライブだと思います」

普段は飄々としている比江島。話す口調はいつもどおり落ち着いているが、静かな気合いに満ちている。「気持ちはやっぱり入っています。今までとは全然違うと言ってもいいぐらいです。これまで僕も良くなかったと思うんですけど、淡々とやっている部分がありました。何かしら自分にプラスになればいい、成長できればいいという気持ちでやっていました。もちろん一生懸命やってはいるんですが、結果よりも過程とか成長を重視しているというか。そういう意味では今回はとにかく結果重視で、今までで一番のプレッシャーを感じています」

『日本のエース』と自分で言うことはないが、その責任に真正面から向き合う覚悟はできている。「試合に出させてもらっている以上は自分の責任と言われるでしょうし、自分でもその責任を背負うつもりでいます。日本のバスケ界を自分が背負っている、僕としてはそれぐらいの気持ちなんです」

強い気持ちを持っているのは分かったが、それをどんな形でコートで表現していくか。「良いシューターが日本には揃っているので、自分に求められているのはドライブだと思います。ラマス監督もペイントに一度タッチすることにこだわっていて、そこは自分の役割です。あとは苦しい時間帯に自分で点を取りに行くこと。それを意識してやります」

Bリーグ開幕から3週間、自身のパフォーマンスについては「全然まだまだです。もっとやりたい、もっとやれると思っています」と言う比江島。シーホース三河でのプレーで個人の調子を上げつつ、代表合宿でチームの成熟度を高めていく。「とにかく結果重視」の大一番に向け、比江島がどう仕上げていくかに注目したい。