2017年大会の優勝チームである大阪桐蔭は、今回のウインターカップでも優勝候補の一角と見なされている。一昨年の大会でインサイドを制した竹原レイラのような選手のいない小さなチームではあるが、それでもディフェンスから走るスタイルは不変。選手の気持ちを盛り立ててチームをここまで導いてきた森田久鶴監督に話を聞いた。
「ディフェンスで頑張って早い展開を出す」
──2017年のウインターカップを制した時にはベンチに1年生が2人いました。彼女たちが3年生になって今大会を迎えます。ただ、3年生の人数が少ないチームですよね。
スタメンは3年生が2人、下級生が3人という構成です。新チームになった当初は上級生の2人に経験があるので、何とか乗り越えられると思ってきました。選手たちには毎年、「とりあえず新人戦でベスト4、大阪では最低でもベスト4に入り、インターハイに出場しよう」と言います。今年のチームは背が低いので、ディフェンスを頑張って早い展開で攻撃する目標を掲げて、それが何とか機能するようになってきました。
──2017年大会の桐蔭は竹原レイラ選手を擁し、高さのあるチームでした。サイズのある選手たちが卒業した後のチーム作りには苦労があったのでは?
身長が低くなったのは間違いないのですが、2017年もサイズがありながら走れるチームでした。バスケットは高さだけではないので、サイズがあってもなくても、ディフェンスで頑張って早い展開が出せれば、それなりの結果は出ます。それは2018年のインターハイで手応えを得られましたし、今年もその延長線上でやっています。
ウチは中より外のプレーが多いです。早い展開からインサイドのエドポロ・アニイタにボールを入れて、そこからのインサイドアウトのシュート確率もだいぶ上がってきました。ディフェンスでは戦略的に相手によって守り方を変えます。ディフェンスは2パターンぐらいで、相手チームの反応を見て変えます。行けるのであれば徹底してやり続けます。ゾーンで守れるケースもありますが、基本はマンツーマン。守りの脚力がそこまであるわけではないのですが、トラップを仕掛けるところと仕掛けないところの駆け引きですね。
しかし、指導者が駆け引きがどうこうと偉そうなことを言っても、結局は実際にプレーするのは選手たちですから(笑)。純粋に勝ちたいという気持ちを持った選手たちが、練習の中でああだこうだとコミュニケーションを取っているから、試合でもうまく行くんだと思います。
──体育館がいつでも使えて寮もあって、環境的にはすごく恵まれていると感じます。
そうですね。行事がある時を除けば優先して使わせていただいています。37人の部員のうち13人が寮生活をしていて、チーム練習に限らず好きな時に体育館を使って練習できます。チームの練習は長くても3時間で、集中してやっています。そこから選手たちは炊飯器で炊いたご飯を食べて、やる子はシューティングをします。食育のこともありますが、お腹が空いたままダラダラ練習をするよりは、ちゃんとした状態でしっかりやらせたいという思いです。
選手たちの目標は「桜花学園にリベンジして優勝」
──全国の強豪校と切磋琢磨する中で、もちろん桜花学園と岐阜女子の『2強』は目標だと思いますし、同じ大阪には薫英女学院というライバルがいます。その他に気になるチーム、影響を受けているチームはありますか?
福岡の精華女子です。そんなに背も高くないけど、すごく早い展開のバスケをやるし、トリッキーなプレーも織り交ぜてきます。そのトリッキーもデタラメなプレーではありません。そして選手たちが笑顔を絶やさないのが良いですね。苦しい場面でも笑顔を忘れず、みんなで話し合いながら乗り越えようとするチームです。あのチームの選手たちの表情を、ウチの選手にも真似してもらいたいです。
勝つことも大事ですが、ああいう高校生らしいチームと出会うとうれしいですよね。やっぱりプロじゃなくて高校生なので、覇気のあるチーム、元気のあるチームでありたいです。
──同じ大阪府のライバル、大阪薫英女学院の存在は大きいですか?
もちろんです。インターハイは大阪で2枠、ウインターカップは今年たまたま近畿で優勝していただいて2枠になりましたが、そこを倒さないと全国はありませんから。インターハイ予選では勝って、ウインターカップ予選では負けました。選手たちも「打倒薫英」という意識は大きいです。薫英の選手と仲良くしゃべっている姿はあまり見ませんが、国体であったり一緒になる機会はあります。良い意味のライバルで、モチベーションを高めてくれる存在だと思います。
──今年のチームは3年生の少ないチームですが、どの部分で成長があったと見ていますか?
3年生の祢冝菜々葉とエドポロが軸になってチームをここまで引っ張ってくれています。この2人の成長は大きいですし、下級生も1年間ずっと頑張ってついてきました。他にも10人がベンチ入りしますが、影でチームを支える子たちもチームのために一生懸命やっています。
2年生で伸びたのは松川侑里香です。松川が攻撃で機能している時はチームがすごく良いです。大崎莉瑚は身体能力があるわけではないですが、アウトサイドシュートがあるので、この2人がカギになってくると思います。
──チームの目標はどこに置きますか?
目標は選手たちが決めるものですが、インターハイで桜花学園にあんな負け方(45-92)をしているので、リベンジして優勝したいと選手たちは思っています。私は一戦一戦、今回は2回戦からですが、初戦がヤマだと考えています。
「本当に全国大会で勝ち上がっていきたいのか」
──選手たちは目標に向かって頑張ると思いますが、指導者としてどうサポートするかは人それぞれで、優勝しかないと考える人もいれば、すべてが経験という考え方もあります。
「自分たちの目標を掲げること」が大事だと私は思います。それにチャレンジするなら、この練習の仕方じゃダメだろう、自分たちで目標を掲げたなら、本当にそれに向かって努力しよう、と選手たちにはいつも言います。努力した結果がダメであれば、それは仕方ありません。でも目標だけ立てて努力もしない、何も頑張らないというのはやめようと。
そういう意味では、2年前のチームは「優勝」だけを目標に掲げていました。インターハイでは岐阜女子との準決勝で何もできずに完敗して、その悔しさをバネに、絶対にリベンジすると誓って、それだけの練習をやっていました。
もしかすると今年はそこまでの意気込みはないかもしれません。私としては、選手が掲げた目標に対して、足りないと感じれば細かく指摘します。昔なら叩いて引きずってでもやらせたかもしれませんが、今は違います。長時間の練習も今はやりません。ましてや私も年齢を重ねることで集中力が長くは保てなくなってくるんですよね(笑)。だから3時間と決めて集中して練習しますし、厳しく指導するというよりは、言葉で伝えて選手のモチベーションを高めます。
「全国大会に出るだけでいいなら、この練習でいいよ。もう目標は達成したから大丈夫。でも、本当に全国大会で勝ち上がっていきたいのか。そうであれば、もうちょっと考えてやらなければいけない」という言葉を掛けています。
これは指導者も同じだと思うんですね。自分のチームをどこに持って行きたいか。近畿大会出場なのか、インターハイ出場なのか、そこで上位を目指すのか。だけど、そこを勝ち取らなければ次の目標は立てられません。いきなり全国優勝って、言うのは簡単ですが、そこに対してモチベーションを持つのは難しいです。一つひとつ達成しながら目標を上げていく、それがモチベーションを上げて成長させる秘訣だと思います。
──では最後に、ウインターカップでの抱負をお願いします。
上背のないチームですから、守りから早い展開のバスケをコート上で表現して、一つでも多く勝てるように努力します。私も選手たちと一緒に、会場で全力を尽くしたいと思います。