取材=古後登志夫 写真=B.LEAGUE

大阪エヴェッサでbjリーグ創設から3連覇を成し遂げた実績を持つ天日謙作コーチがB1に参戦する。昨年に西宮ストークスのコーチに就任。ライセンスの問題で肩書きこそアシスタントコーチだが、昨シーズンは混戦のB2中地区で競り勝ち、プレーオフも制してB2の初代王者となった。大阪時代から一貫して『走るバスケ』を掲げ、個と組織のバランスの取れたバスケットを展開。目立った補強がない西宮だが、リーグの『台風の目』となるポテンシャルを秘めている。

「コーチの仕事は真剣に取り組む中でやりがいが出る」

──現役時代の天日さんは松下電器で活躍された印象が強いです。現役当時から「いずれはコーチに」との考えはあったのですか?

いや、コーチをやることは考えていなかったです。34歳まで現役をやったんですが、この時に松下電器がNBAでの指導経験があるポール・ウェストヘッドさんを招聘することになって、「君は年を取っているからアシスタントコーチをやれ」と指示されて。それがコーチ業を始めたきっかけです。当時はプロじゃなく会社員だったので、社員としてアシスタントコーチをやってくれと。まだプレーは結構できたと思うんですけどね、自分で言うのもなんですけど(笑)。

──松下電器を退社して大阪エヴェッサのヘッドコーチになり、その後は芦屋大学、そして西宮ストークスと、実業団からプロチーム、大学、NBLチームと様々なカテゴリーを経験してきました。どういう基準で引き受けているのですか?

芦屋大は大阪を離れた時に拾ってもらいました。C級ライセンスしか持っていなかったのですが、オーナーが「bjリーグでそれだけやれるなら大丈夫」と呼んでもらって。みんなに助けてもらってコーチをやらせてもらっています。実際のところ、仕事が決まるのはタイミングだったり縁なので。

──ちなみに今シーズンもアシスタントコーチです。ライセンスを取る予定はありますか?

いや、ライセンスは取っているところです。うまく行けば1年後にAかSか、ですね。

──ずっと関西が拠点になっていますが、離れない理由はあるのですか?

いや、関西のチームが声をかけてくれるからです。僕は全国どこにでも行きますよ。

──会社の辞令がきっかけで始めたコーチ業ですが、もう随分なキャリアになりました。コーチの仕事は面白いですか?

難しい質問ですね。『面白い』だと楽しい感じになってしまうので、表現としては『興味深い』が正しいです。大変だけど、真剣に取り組む中でやりがいが出てくる、それがコーチという仕事だと思っています。いずれにしても、僕にはこの仕事しかできません。

──大阪の1年目から拝見していますが、研究熱心で『プロフェッショナル』という印象です。

どうでしょうね、自分ではそうは思っていません。でも、好きだからやっています。ただのオフェンスやディフェンスじゃなく、僕はあまり上手ではありませんがコミュニケーションもかかわってきます。モチベーションだったり組織をオーガナイズするために何が必要なのか。そういうことを考えるのが僕にとっては『興味深い』んです。

──選手と多くのコミュニケーションを取るタイプではありませんね。

そこは友達じゃないので、あまり近くはならないですね。でもそれは年齢が違うからで、今では自分の子供みたいな世代が選手ですから、当然ながら話も合わないんです。誰も70年代のロックを聴いていない(笑)。そこは髙橋(哲也/ヘッドコーチ)君や竹野(明倫/アシスタントコーチ)君が選手と年齢が近いので。

──バスケットボールのコーチは天職だと思いますか?

いや、そうは思わないです。嫌なことも多々ありますよ。リフレッシュしたい時は音楽を聴いたり、バイクに乗ってどこかに行くとかして。音楽は60年代とか70年代、ローリングストーンズとかです。バイクは僕は人とつるまないので、たまに一人で山に行ったりします。

「目標は残留じゃなく、シーズンを通じて勝ち越すこと」

──大阪の時代から天日さんには『走るバスケ』というイメージがあります。チームを作る上でのポイントはどのようなところですか?

松下電器、大阪、芦屋、今の西宮。アプローチは全部一緒、僕のやっていることはすべて一緒なんです。それでも選手が違うから、どのポジションに点の取れる選手がいるかを見て、それに応じて組み立てていくと、それぞれのチームのスタイルになる。僕のスタイルを言うなら「チームでやる」ということですね。それぞれにちゃんと仕事があって、全員で勝利にかかわっていくチームが好きです。

得点を期待する選手が5人ぐらいいて、得点はそれほど期待しないけど目立たないところで仕事をする選手がいたり、時間が過ぎていく中で仕事をする選手がいたり。今の西宮もそういうチームです。一番の強みはコートを行き来する回数が多く、ハーフコートでもボールがよく動くような連携をするところですね。

──これからB1にチャレンジするわけですが、開幕を前にした手応えはいかがですか?

まず開幕のゲームがどうなるかですね。あとは相手もあるので、やってみないと分かりません。ただ目標はB1残留じゃなく、シーズンを通じて勝ち越すことです。特別なことはやりません。相手のことを考えるのではなく、自分たちのバスケットを意識して、やるべきことをやります。

──B1に昇格したのに大きな補強はありませんでした。戦力面での不安は?

ありませんね。昨シーズンの選手は非常に良くやってくれたし、そのチームをベースにすべきだと思っていました。そこをガラッと変えてしまうと、また最初から教えなければいけないので。だから大きく変えることは考えていなくて、ラリー・オーウェンスが小さかったから、その外国籍選手のサイズを大きくするだとか、スタイルは変えずにピースを変えるアプローチをしました。

「全員が主役になれる力を持っていると思っています」

──いよいよ明日が開幕となりますが、B1でどのようなバスケットを見せたいですか?

サイズはないけどコートを何回もアップダウンする、アップテンポなゲームにトライしたいですね。基本的にはどのチームが相手でも9人とか10人の選手を使ってローテーションしながら戦います。キーマンも日によって変わります。ジョーダン(ヴァンデンバーグ)の日もあればドゥレイロン(バーンズ)がやってくれる日もあるし、大塚(勇人)の日もある。全員が主役になれる力を持っていると思っています。

──では、西宮のバスケットを楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

バスケットは応援がすごくチームに与える影響が大きいスポーツです。是非会場に来て応援、チームの後押しをしてください。よろしくお願いします。