精華女子

精華女子は群雄割拠の福岡県を3年連続で制し、ウインターカップ出場を決めた。一昨年は優勝チームとなる大阪桐蔭と2回戦で当たり敗戦。昨年は3回戦で八雲学園と当たり、延長の末に敗れている。エースの三浦舞華や樋口鈴乃など1年生から主力としてプレーしてきた選手が3年生となった今回は、まさに総決算の大会だ。全国大会の常連にはなったが、優勝候補と呼ばれるチームに勝つためにどう戦うか──。そんなテーマで取材に臨んだが、大上晴司監督はどの試合も「自分たちがやってきたことの発表会」と位置付けていると語った。

「学校での6時間の授業での集中力がバスケットに出る」

──競争が激しい福岡県で3年連続のウインターカップ出場となります。まずは福岡県を勝ち抜くところでの難しさ、工夫した部分を教えてください。

樋口鈴乃、三浦舞華、木村瑞希と1年生から主力選手としてやってきた選手が3年生なので、今年の福岡県では精華が勝って当然という雰囲気があったように思います。九州に行ってもどのチームもウチには全力で当たってきます。それを変に意識せず、大会は自分たちがやってきたことの発表会だというスタンスを変えずにやってきました。

実際、福岡県は強豪揃いですし、福大若葉、中村、東海大福岡は本当に気の抜けない相手で、どのチームも3年生には意地があります。特に準決勝の福大若葉との試合は入りを大事にやりました。結果、相手にアジャストした後半にトランジションで走る自分たちのバスケットができました。九州大会でも準決勝の延岡学園、決勝の小林と厳しい試合が続きましたが、勝ち切っています。そういった勝つべきところで勝つ強さは3年目にして備えたのではないかと思います。

──1年生から主力を務める3人が軸になりますが、3年間でどういった成長がありましたか?

今年は特に、試合中に起こるいろんな問題に対して自分たちでコミュニケーションを取るようになりました。ゲーム中は樋口がコントロールしますが、下級生の時はやはり先輩主導でした。それが3年生になって変わっています。この間もゲーム中のタイムアウトで、外ばかりで得点が止まっている、空いているからボールをもっと入れてこいと木村が話したり。そこは成長です。

──勝負の世界ではありますが、選手たちはやはり高校生でもあって、バスケの取り組み方にしても厳しいだけでなく楽しむのも大事かもしれません。当然、学生ですから勉強もあります。コーチではなく教員の目線からは、そのバランスをどう見ていますか?

学校での6時間の授業での集中力がバスケットに出るぞ、とは選手たちにいつも言っていることです。廊下から見て寝てるんじゃないかと思う時もないわけではありませんが(笑)、そこは本人たちが自覚してやっていくしかないので。

学校生活のルールを守るのはもちろん、テストでも良い点を取らなきゃいけない。試験の日程は大会と一緒で事前に決まっています。テストの直前になって勉強が大変だという状況を作らず、日頃からちゃんと勉強しておくこと。それはバスケットボールの大会前に猛練習をしても大して意味がないのと同じです。

テストの点が悪かったので補習で練習に遅れます、というのは選手自身の問題ですが、私も同じです。私も練習に途中から入っていくのでは、集中してできません。テストの採点に時間がかかって練習に遅れる、なんてことがないように、やれることは先に計画立てて終わらせる習慣付けをしています。

精華女子

「選手にやる気を起こして行動させるスキルが大事」

──選手間でのコミュニケーションがより取れるようになったという話がありました。指導者の側から、それをうながすような指導はできるのでしょうか?

チーム全体で言えば、全員が同じように戦術を理解して試合に臨むことが一番大事です。以前はAチームとBチームに分けることもありましたが、今はすべての練習を全員でやっています。一般で入部してきた1年生だと、練習を理解できないことがありますが、そんな選手を放っておかない、見捨てない、みんなで一緒にやっていこうという方針です。

できる選手だけを集めて練習すれば効率は上がるのでしょうが、トランジションにしても1人も外すことなく全員でやっていくことが、最終的にはチームの一体感、精華らしさを作ると思っています。

大会は日々の練習を発表する場だと位置づけていますが、チーム練習にしてもそれぞれの個人練習の発表の場です。トランジションの練習を5人でやったとして、何のコミュニケーションもなしに自分たちの順番だから入っていくのはやめよう、と伝えています。うまく行かない場合には必ず問題があるわけで、コミュニケーションを取ってクリアにして次の発表に臨もうと。そこは自分たちが目指す選手像、チーム像をそれぞれが理解して、ユニフォームを着ない選手も取り組んでいると思っています。

──チームを分けていたのを全員一緒にやるようになったように、コーチの内面でも何か変わったことはありますか?

チームを立ち上げた頃は何も分からなくて、気合いしかありませんでした。怖い先生が良いんじゃないかとか、根拠がなくても自信があるように見せて、それに無理やりついてこさせるような考え方もありました。でも、それは今の子たちには効果がありません。

バスケットの技術を教えることも大事ですが、それ以上に選手にモチベーションを持たせて、自分たちでやる気を起こして行動させるように持っていく、その仕掛けを作るコミュニケーションが、コーチにとってはすごく大事なスキルだと思います。

やっぱり主役は選手なんです。選手が求めるもの、行きたいところがあって、コーチはそれを実現させるようにコミュニケーションを取りながら導く立場です。夢を持った子供たちが集まってくれるおかげで私たちもコーチができる。そこにリスペクトがないと、選手とコーチの関係は築けないんじゃないかと思います。今もコートに罵声が飛び交い、選手がビクビクしながらプレーしている光景が完全になくなったわけではありません。本当の意味でのコーチは何なのか、それは大人が学ぶ必要があると思います。

精華女子

「負けからいかに学ぶかを大事にしてきました」

──2017年は大阪桐蔭に、昨年は八雲に敗れました。今年のインターハイでは大阪薫英女学院に負けてベスト8敗退。全国大会の経験が豊富な今のチームで最後の大会、優勝候補と呼ばれるチームにどう勝つかがテーマになると思います。

相手が大きくなってくる難しさはインターハイでも感じました。バスケットボールではやはり高さが有利ですから、高さへの挑戦になります。パスランの練習でもパス一つを速く、状況判断を早く、コンタクトやシグナルにこだわる。選手たちもその意図を理解して共有してくれます。

やっぱり一番はリバウンドですね。特にディフェンスリバウンドでどれだけ互角に持ち込んで、相手のセカンドチャンス、サードチャンスを減らせるかがカギになります。ある程度は高さの部分で取られることを受け入れなければいけませんが、その不利をシュート力で補うことです。そのために精度高く打てるチームショットにいかに持って行くかの準備が必要です。

──今回は1回戦が八雲学園、同じブロックには桜花学園と、どちらも大きなチームです。

大阪桐蔭、大阪薫英も含めて、素晴らしいチームと戦う機会を得られて私としてもすごく勉強になっていますし、選手も高い意識の中で試行錯誤できるようになりました。昨年は八雲に勝っていれば自分たちの目標を達成できたのですが、やはり最後は個人の力でねじ伏せられました。

いつも目標の一歩手前で負けていますが、選手たちは負けからいかに学ぶかを大事にしてきました。福岡県と九州では通用しますが、全国に行ってそうではないことを身を持って知りました。そのおかげで日々の練習がどんどんハードに、よりゲームライクになっています。

今年は選手たちが『全国ベスト4』を目標に掲げています。初戦で八雲と当たり、ベスト4に行くには桜花学園を倒さなければいけませんが、一つずつ経験を積み重ねてきた選手たちは「相手がどこであろうが絶対に勝つ」という気持ちでいます。

──それではあらためて、ウインターカップで精華女子のどんなところを見てほしいですか?

ウチの一番の強みはトランジションです。やはり40分間トランジションバスケットを続ける中で、自分たちの強みを出しながら相手のスタミナを奪うことで小さいチームが勝機を作っていく。準備がしっかりできていれば、小さなチームでも戦えることを全国のバスケットファンに見ていただきたいです。樋口と三浦のエース、彼女たちに影響を受けてきた同級生や後輩たち、彼女たちのボールを拾い続けてきた選手たちと最後に臨む大会になります。

毎年たくさんの方に応援していただき、いろいろ声をかけていただいて本当にありがたく思っています。選手にとっては3年間の成長を発表する最後の舞台ですので、是非楽しんで見ていただけたらと思います。

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