文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

東京オリンピックへ良い形で第一歩を踏み出したい

アジアカップが本日開幕する。グループDに入った日本代表は、今夜22時からオーストラリアとの初戦を戦い、10日にチャイニーズ・タイペイ、12日に香港と対戦する。

この先、決勝トーナメントの入り方が少々複雑で、AからDまで4つあるグループの1位チームは準々決勝に進出する。各グループの2位と3位、計8チームは『ベスト8決定戦』を行い、その勝者が準々決勝で各グループの1位チームと対戦することになる。つまり、グループ2位になればC3位と、グループ3位になればC2位との対戦。グループD首位通過となれば、日程的に余裕を持ってB2位とA3位の勝者と準々決勝で対戦できることになる。

もっとも、今回はオーストラリアとニュージーランドが加わった中でアジアチャンピオンの栄誉を懸けて戦う大会ではあるが、日本代表にとってはフリオ・ラマス新ヘッドコーチを迎えて最初の公式大会。この秋に始まるワールドカップ予選、そして2019年のワールドカップ、2020年の東京オリンピックへと続く道のりに、良い形で第一歩を踏み出すことが重要となる。

フリオ・ラマスが着任し、7月末のウルグアイとの国際強化試合でその方向性は垣間見られた。興味深いのは暫定ヘッドコーチを務めた前任のルカ・パヴィチェヴィッチとの違いだ。セルビア人のルカが組織的なバスケットを志向したのに対し、アルゼンチン人のラマスは個の要素を重視しているように見える。ルカはピック&ロールにこだわったが、ラマスはじっくりボールを回して機会をうかがいつつ、チャンスがあれば思い切ったドライブを推奨する。

もちろん、数日しか練習を見ていない状態で指揮を執ったウルグアイ戦だけを見て、「ラマスのバスケット」を語るのはナンセンスだ。それはこの先、アジアカップで得た教訓を生かして築いていくもの。よって今回のアジアカップでは、チームのスタイルよりも個人のパフォーマンスに注目したい。ラマスがどのような評価基準を持つかは別にしても、『強い個人』や『強い個性』の育成なしに、強いチームは生まれないのだ。

東アジア選手権をケガで欠場した篠山に再びチャンス

12名の登録メンバーで過密日程をこなす国際大会において、複数のポジションをこなす選手は重宝される。だが、ラマス着任後の強化合宿とウルグアイ戦を見る限り、どの選手もポジションと役割は明確だった。比江島慎も、今回はポイントガード的な役割を求められていないと明かし、「やりやすい」と本音を語った。

協会はラマスにせっせと資料を送っていたようだが、アルゼンチンリーグで優勝争いをしていたラマスに、その資料を読み込む時間があったとは思えない。このアジアカップは良くも悪くも「ぶっつけ本番」、おそらく12名の招集メンバーの人選にもラマスはあまり関与していないのだろう。その分、各選手には自分の持ち味をストレートに出すことが求められ、そこで今後の評価が決まる。

ポイントガード
富樫勇樹、篠山竜青、橋本竜馬
シューティングガード
比江島慎、馬場雄大
スモールフォワード
古川孝敏、小野龍猛、田中大貴
パワーフォワード
アイラ・ブラウン、張本天傑
センター
竹内公輔、太田敦也

注目すべきは正ポイントガード争い。長谷川健志ヘッドコーチ体制下でリオ五輪の世界最終予選(OQT)に臨んだ時は田臥勇太、橋本竜馬、そして2番との併用で比江島という顔ぶれだった。それがBリーグ開幕とともに富樫勇樹がブレイクし、OQTでは最後の最後で落選した篠山が追い掛け、先発の座を争っている。

ここでの評価基準はコントロールよりも攻撃を引っ張り、自らも得点できる能力。そのカウンターとして守備を得意とする橋本が3番手ながら存在感を出している。もっとも、ラマスがどんなタイプのポイントガードを好むのか定かではなく、今の3人の序列は固まっていないし、油断していると今後は選考外の選手に巻き返される恐れもある。

いずれにしても、激しい競争がレベルアップの呼び水となるのは間違いない。とりわけ、これまでチームでの好調を代表に持ち込むのに苦労してきた篠山の奮起に期待したい。Bリーグ終盤戦とチャンピオンシップでの篠山のパフォーマンスは富樫と橋本を凌駕していたが、東アジア選手権ではケガで無念の代表落ち。やっと篠山に来たチャンス、逃すわけにはいかないはずだ。

『強い個人』の育成なしに強いチームは生まれない

3番で注目したいのは小野龍猛の働きだ。ポジションを固定された今のチームにおいて、3番と4番の2つのポジションを掛け持ちする唯一の選手。攻撃ではドライブも3ポイントシュートもポストプレーもできる万能性を生かして周囲の持ち味を引き出し、守備では状況を見ながらバランスを整えることができる。ルカの下では『富樫とセット』だったが、ラマスの下ではまた違った起用法になるだろう。バイプレーヤーをいかに使うかは指揮官の腕の見せどころ。そういう意味で小野が使われる状況や時間帯、どんな役割を与えられるかを追うのは面白い。

4番で注目すべきは張本天傑だ。アイラ・ブラウンと竹内譲次がいる限り、満足なプレータイムは望めないところだが、今回は譲次が外れた。力強く迷いのない張本のプレーはウルグアイとの2試合でも目を引いたし、ラマスもその持ち味を気に入った様子。ウルグアイ戦では時間こそ短いが張本を3番で起用するビッグラインナップも試している。35歳のアイラ、32歳の竹内兄弟に並び、追い抜けるか。張本が12選手に定着できるまでに成長すればチームにとってはベテラン偏重という課題を解決させられるだけに、奮起が求められる。

そして、従来の序列を覆すことに燃えているのは若い張本だけではない。33歳のベテランセンター太田敦也も『竹内兄弟超え』に挑んでいる。本人は「競争しているつもりがない」と至って淡々としているが、プレータイムが欲しいのはどの選手も同じ。これまでは体格を生かして味方を助ける役回りに徹してきたが、自ら仕掛ける積極性とともにゴール下での『巧さ』が出てきたのが、この1年の太田だ。成長に年齢は関係ない。『Bリーグ効果』が良い形で出ている太田のプレーにも注目である。