大塚裕土

川崎ブレイブサンダースは今オフ、2シーズン連続でのチャンピオンシップ初戦敗退を受けて、思い切ったチーム改革を断行した。その一つが、これまでの大卒ルーキーを育成し主力にしていく生え抜き重視の流れとは違う、実績ある日本人選手の獲得だ。そうして熊谷尚也とともに加入した大塚裕土は、川崎の他のメンバーとは違う紆余曲折のキャリアを歩んできた。彼自身にとっても大きな勝負となるシーズンに向けての意気込みを聞いた。

「優勝することが僕の最大のテーマです」

──開幕戦に向けて、今のチーム状況や自分のコンディションをどう感じていますか?

佐藤賢次さんが新しいヘッドコーチになって、明確にここはこうするというところを、代表組とケガ人以外のメンバーで2カ月間徹底してできました。アーリーカップではオフェンス面でなかなか成果を出せなかったですが、ディフェンスの部分ではそれぞれがやるべきことをできた手応えはあるので、良い状態で来ていると思います。

特に僕やクマ(熊谷尚也)が入り、試合を通して誰が出ても同じ強度でプレーできたら良いチームになります。そこから始まったチーム作りが形になりつつある。そこをシーズンが始まってどう見せられるのか、開幕に向けてワクワクしています。

──大塚選手のこれまでの歩みを聞きたいのですが、東海大を卒業して宇都宮の育成チームに入団し、bjリーグで創設1年目だった宮崎シャイニングサンズに加入します。ただ、チームは1年目でいきなり経営破綻してしまいました。

宮崎にドラフトされた時点で不安はかなりありましたが、自分でチームを選べないドラフトというルールだったので行くしかなかったです。年が明けてからバタバタといろいろな問題が起き、生活の面で大変でした。ただ、それでも試合に出ない選択はなかったです。ケガのリスクもある中、お金も払われないのにプレーするのはどうなんだという考えもあると思います。自分の中では試合でいいパフォーマンスを見せて、それを他のコーチに見てもらい、どこかに獲得してもらうのが最善の方法でした。だから、バスケットをすることに関してはブレなかったです。

今でもクラブの経営危機というニュースを聞くと、経験者として思うところはもちろんあります。なぜ何チームも同じようなことになってしまうんだろうと。

──宮崎の後は秋田ノーザンハピネッツと契約し、中村和雄ヘッドコーチの下でプレーします。厳しいことで知られる中村コーチの指導を受けたことで、変化はありましたか?

覚悟はしていたつもりでしたが、自分の覚悟のはるか上を行く厳しさだったので、それはもう1年が長かったです。でも、その経験があったことで自分のリミッターを外すというか、本当に追い込まれて強くなった部分はあります。いろいろな場面で腹をくくれるようになりました。

大塚裕土

「自分の出場機会が短くなろうが優勝したい」

──Bリーグ開幕と同時にサンロッカーズ渋谷に移籍しました。主力だった秋田から一転、渋谷ではプレータイムを得られずに苦労もありました。

プレータイムはもっともらえると思っていました。ただ、試合に出られなくても、今は川崎で再び一緒になったジェフさん(勝久ジェフリー)たちと毎朝ワークアウトをしていましたし、腐ることなく1年を過ごせました。

また、以前から広瀬(健太)さんの守備を勉強したいと思っていました。広瀬さんの感覚は、ちょっと他の人と違うのかなと注目していました。実際に一緒のチームになってどういったビジョンでオフボールの動きをするのか、オンボールではどんなところでボールを狙っているのかなど、参考になる部分はたくさんありました。

──渋谷を1年で離れ、富山に移籍します。ここでは、やはりまたプレータイムを勝ち取らないといけない、といった危機感はありましたか?

プレータイムというか結果を出さなければいけない思いはありました。Bリーグが始まったばかりの頃、bjリーグとNBLの出身選手では、試合に出ていなくてもNBLの選手の価値が高いと見られていた雰囲気があったんです。でも、bjの選手でもやれる人はやれる。NBLだから上といった概念を崩していかないといけない。エージェントからもそういう話があり、富山でしっかり結果を出すと決めて移籍しました。

──実際、富山では主力の地位を確立しました。それが川崎に移籍するとなると、またゼロからのスタートです。川崎でも出場機会を得られるのか、そういった不安はありましたか?

それは、やっぱりありました。家族は富山という土地が好きです。それにSR渋谷の件もあるので、プレータイムの面では恐怖感はあります。それでも移籍を決めた理由は優勝です。自分の出場機会が短くなろうが、やっぱり優勝することが僕の最大のテーマです。それを考えたら恐怖感は二の次という感じでした。

大塚裕土

「ここぞの場面で決め切ることが大事です」

──昨年の川崎を見ると、3ポイントシュートの本数はリーグでも下位でした。一方、大塚選手は3ポイントシュートの成功数でリーグ上位の数字を安定して残してきました。

思いきり3ポイントシュートを打てる選手はもっとこのチームにいるべきで、そうなればオフェンスのバリエーションも増えます。辻(直人)選手と僕が両ウイングという布陣は良いオプションになるし、賢次さんも考えてくれていると思います。ただ、このチームで自分は1試合、5本、6本と決めることを求められているわけでもない。ここぞの場面で決め切ることが大事です。

また、ディフェンスをしないとプレータイムは1分ももらえないと言われているので、まずはそこを第一に置きます。シュートの調子よりディフェンスでチームに良い影響を与えられるパフォーマンスができれば、コートに長い時間立てると思います。

──そもそも、大塚選手から見た川崎の印象はどういったものでしたか?

Bリーグ初年度、SR渋谷にいた時は11回対戦しましたが、特にオフェンスの完成度が高くスカウティングしていても勝てるイメージが沸かなかったです。ここ2シーズンは、外国人選手も代わって上手くいかない部分を感じました。選手のプレータイムが偏って、疲労が顔に出ていたところもあり、イメージが変わりました。だからこそ、僕とかクマが入ることでプレータイムをシェアする。そうならないと、僕たちが来た意味がないと思います。コーチが計算できるようなパフォーマンスを出していきたいです。

──優勝が第一である中でも、あえて優勝以外に何かテーマとするものはありますか?

僕とクマが新加入ですが、移籍のタイミングや実績で、クマの方が周囲からは期待されていると僕は思っています。そこで結果を出すことによって、周りから認められる。そういう基盤を作っていきたいですし、チームに必要不可欠な選手にならなければいけないなと思っています。

──最後に、開幕戦への意気込みをお願いします。

開幕ゲームだからと構えて、相手に合わせてしまってはいけない。まずは、先手を取って相手を面くらわせる。今シーズン、クラブとして変わったところを見せるためにも、最初からみんなが積極的に仕掛けていく。そういう姿勢を出せればいいなと思います。

富山時代、熊本との残留プレーオフを横浜アリーナで戦いましたが、あの時は所属するクラブをB2に落としてはいけない思いで、楽しんでプレーできる余裕はさすがになかったです。今回は、チームに良い流れを持って来れるようなパフォーマンスを出したいです。