ウォーカー・ケスラー

「昨夏の延長見送り」がフロントへの不信感に繋がる

ウォーカー・ケスラーにとってNBA4年目となる2025-26シーズンは、開幕から10日もたたずに終了してしまった。手術で縫い合わせた肩の関節唇が骨にしっかり定着するまでは激しい動きができず、シーズン中の復帰はかなわなかった。それでもケスラーはチーム練習に顔を出し、しばしば遠征にも帯同して、ジャズの一員であり続けた。

彼は入団以来、チームメートともファンとも良好な関係を保っている。しかし、フロントとの対立は目に見える形にまで悪化している。彼自身、ジャズへの愛情をいつも語っているが、その感情とビジネスは切り離して考える必要がある。今オフ、5年1億4000万ドル(約210億円)という新契約のオファーを彼は断った。

問題は昨年オフにさかのぼる。ジャズはケスラーに新契約を提示しなかった。主力選手が最初の契約延長の交渉資格を得た時点で、新契約をオファーされるのがNBAでは一般的だが、ジャズのフロントはフリーエージェントやトレードでの補強の余地を残したいというビジネス上の判断を優先した。これをケスラーは自分への過小評価と受け止めた。

2024-25シーズンのケスラーは11.1得点、12.2リバウンドの平均ダブル・ダブルを達成していた。契約延長のないまま迎えた今シーズンは出場5試合のみではあるが、14.4得点、10.8リバウンドを記録し、フィールドゴール成功率70.3%と、過小評価を覆す意味で素晴らしいスタートを切っていた。

ジャズにとってエースはあくまでラウリ・マルカネンで、ビッグマンの一番手はグリズリーズから獲得したジャレン・ジャクソンJr.だ。5年1億4000万ドルでも十分な評価とフロントは考えたのだろうが、ケスラーは違った。

他にも要因がある。今シーズン途中にペイサーズがケスラーの獲得に動いた。タイリース・ハリバートンが全休していたペイサーズにとってケスラーのケガは問題ではなく、マイルズ・ターナー放出で空いたセンターの穴をケスラーで埋める動きだった。このトレードが成立していれば、ペイサーズは好条件の契約延長をオファーしたと言われている。

ジャズは自分たちの都合でトレードを断り、なおかつ自分に見合った契約を出そうとしない。ケスラーはそう考えて態度を硬化させている。今オフでケスラーは制限付きフリーエージェントになるが、他チームが好条件のオファーを出しても、それにマッチすることでジャズは彼を手放さずに済む。だから今の条件からオファーを引き上げるつもりはない。そして、その『ビジネスの論理』を押し出す姿勢にケスラーはさらに反発している。

ジャズは2022年にドノバン・ミッチェルとルディ・ゴベアを放出して以降、タンキングの連続で常に再建期にある。この2022年にドラフトされたケスラーは、勝利を求める環境で一度もプレーしないままルーキー契約を終えようとしている。

エースのマルカネンは2022年の加入以降、フロントの方針を受け入れているが、29歳の彼がキャリアの全盛期を『勝利を必要としないチーム』で費やすことの是非は議論されてしかるべきだ。それを間近で見るケスラーにも思うところはあるだろう。「ジャズに根を張りたい」と言いつつ、再建の見通しが立たず、なおかつ自分に好条件のオファーを提示しようとしないジャズへの忠誠心が揺らぐのは仕方ないことだ。

「ペイサーズへのトレードが実現していれば……」とケスラーが考えるのも無理はない。好条件の新契約を得て将来は安泰となり、ハリバートンが復活する新シーズンにペイサーズは優勝候補の一角として再浮上する。そこでターナーの後釜として存分に力を試すチャンスがあった。だがジャズはこれを断り、ペイサーズはセンターにイビチャ・ズバッツを獲得した。そして今、ケスラーは契約問題がどう進展するかを心配しつつ、5年目の開幕も勝てないチームで迎えようとしている。

ジャズは先日のドラフトで全体2位指名権を使い、ダリン・ピーターソンを獲得した。その一方で今年も、キヤンテ・ジョージに対して新契約を提示せず「もう1シーズン様子を見る」という姿勢を打ち出している。『ビジネスの理論』を貫き通して再建を果たすというフロントの哲学は分かるが、それで不利益を受ける選手の我慢には限度がある。再建に舵を切ってから4年、結果が出る前に選手たちの気持ちはチームから離れつつある。