「彼女が落として負けても誰も文句を言わない」

四日市メリノール学院は精華女子に79-88で敗れ、ウインターカップ2回戦で姿を消した。それでも、稲垣愛コーチが「今までで一番完成度が高い」と評するチームが見せた粘りは特筆に値する。

189cmの高さに加え確かなスキルを持つ『最強留学生』、アキンデーレ タイウォ・イダヤットに連続得点を許すと、インサイドアウトから吉川愛未に4本の3ポイントシュートを浴び、第1クォーターで17-31の大量ビハインドを背負った。その後はどうにか食らい付いていたが点差を縮められず、最終クォーター残り4分20秒にはこの試合最大となる21点差がついた。

しかし、メリノールはここからディフェンスのギアを上げてスティールを連発し、長距離砲も連続でねじ込んで猛追。残り47秒には吉田陽香の3ポイントシュートで、ついに点差を1桁に戻した。

稲垣コーチはこの反撃をこのように振り返る。「タイムシェアをして、最後に振り絞っていけるように段取りはしていました。その期待に応えて、最後は力を振り絞ってくれました」

そして残り34秒、中嶋とわが3ポイントシュートを打ったタイミングでファウルを受け、3本のフリースローを獲得した。しかし、中嶋はこのプレーで足を負傷し、ベンチに下がることに。ここで稲垣コーチは川口真央を送り出した。

3本すべてが決まれば4点差となる大事な場面で、川口は1本目を外してしまうのだが、ベンチでは稲垣コーチも選手たちも声を上げて笑っていた。「ウチね、変なチームなんです」と言う稲垣コーチは、この緊迫した場面で笑っていた理由を明かした。

「彼女はフリースローが苦手なんですが、『3年なんだから行ってこい』と送り出しました。みんなが1本目で笑っていたのは、『やっぱりな』みたいな感じがあったからだと思います(笑)」

この大事な局面でフリースローが苦手な選手を選ぶのは驚きだが、それは勝敗を超えた絆があるからこその選択だった。「3年間、なんなら(中学を含めた)6年間頑張った姿があったので、もう入ろうが入らまいが、どうでもいいなと思いました。彼女が落として負けても誰も文句を言わない、それだけの子なので」

川口は残りの2本を成功させ5点差まで迫るも、あと一歩及ばずにタイムアップ。それでも稲垣コーチは笑顔だった。「練習してきたところは出せたので、よく頑張ってくれました。『泣いてないんじゃない?』と言われて、ようやく泣くぐらいの選手たちです。それだけやり切ったので、文句なしです」