今年はタイトル獲得のないままウインターカップを迎えようとしている福岡第一で、確かな実力を持ちながら思うような出場機会を得られず、悔しさを飲み込み続けてきたのが、山口銀之丞とトンプソン・ヨセフハサンだ。心が折れそうになる瞬間を乗り越え、負の感情を真っ直ぐなエネルギーに変えて福岡第一のバスケに向き合い続けた2人は、高校バスケ最後のウインターカップにどんな思いで挑むのか、その本音を聞いた。

「ミニバスも中学時代も、1回も勝てたことがない」

──山口選手とトンプソン選手、それぞれお互いがどんな選手か紹介してください。

トンプソン 福岡県出身の山口銀之丞選手は、みんなから「銀ちゃん」と呼ばれています。ミニバスの頃からドライブがとても上手くて、ライジングゼファー福岡U15で日本一を経験した実績のある選手です。普段は周りを楽しませてくれるタイプですが、バスケになったらみんなに指示を出せるメリハリのある選手でもあります。ステップバックのジャンプシュートが得意で、ドライブからもキックアウトも何でもできるし、周りを見て気を配れる選手です。

山口 トンプソン・ヨセフハサン選手はアメリカと日本のハーフです。ミニバスも中学時代も、敵同士で対戦したことがありますが1回も勝てたことがないです。性格は大人しいですが、ふざけるときはめっちゃくちゃふざける、本当に楽しい人です。バスケになると、シューティング量は多分チームで一番です。僕が何時に行ってもトンプソンは絶対もう練習しているし、何時に帰ろうとしても絶対にシューティングしてるような、誰よりも努力家の選手です。プレースタイルは運動量が多くてドライブも強いですし、シュート力も本当にあって、シューターとして自分がパスしたら絶対決めてくれるというようなオールラウンドプレーヤーです。

──お互いの話を聞いてすごく良いコンビだと感じます。ミニバスの頃からお互いに知っていたりすると、意識するところがありますか。

山口 ウインターカップの県大会決勝は、自分たちが生まれ育ってずっとバスケをしてきた福岡で戦う最後の試合でした。だからこそ、福岡出身ならではの地元に対する思いというか、「この福岡で勝ちたい」という気持ちはみんなより強かったと思います。

トンプソン 自分も同じで、地元でのラストの試合だったので、福岡出身の選手は気持ちの入り方が一味違うんじゃないかなと思います。

「どうしようもない気持ちをエナジーに変えてきた」

──セカンドユニットの一員として結果を残しても、プレータイムが伸びない苦しさがあったと思います。心が折れそうになったことはありますか。

山口  めちゃくちゃあります(笑)。僕が試合に出始めたのは2年生のインターハイ直前くらいで、それまではメンバーに入るか入らないか。入っても第4クォーター最後の数分という感じでした。2年生の時はファーストユニットが出来上がっていて、「全然出れなくて悔しいけど、何も言えん」という気持ちでした。

トンプソン 自分も1年生の頃は試合に出られなくて、2年生の国体で優勝したあたりから少しずつ試合に絡めるようになりました。去年のウインターカップではメンバーに入りたかったのですが、「3年生の力が大きい」と言われてメンバーに入れず、本当に悔しかったです。

山口 3年生になってからは、自分たちセカンドユニットが流れを変える場面が多かったのですが、良い流れを作ったのに後半は全然出番がないこともありました。今でも一番印象に残ってるのは、天皇杯予選の九州電力との試合です。スタートの調子が悪くて、自分たちセカンドが良い流れを作って追い付いたのに、そこで交代させられて、最終的には延長で負けたんです。その時は先生に聞こえるぐらいの声で、「じゃあスタメン代えろよ」と言ってしまいました。2年生の時は「流れを変えてやるぞ」という気持ちが強かったんですけど、そこからは「スタメンで出してくれ」という思いも芽生えました。

トンプソン 僕たちセカンドユニットがどんなに良いプレーをして流れを持ってきても、少しのミスですぐに交代させられたり、なかなかプレータイムをもらえないことが続いて、「本当に意味分からん」と思うこともありました。それでも、どうしようもない気持ちを引きずるのではなくエナジーに変えて、練習では井手口先生に思い切りアピールしたり、試合でも絶対に見返してやろうという気持ちでやっています。

山口 「僕たちが出たほうが絶対上手くいく」と思うこともありましたが、その感情は隠して「次の練習でも絶対にやってやるぞ」みたいに頑張る原動力に変えていました。

──ベンチから戦況を見て試合に出るところで、大事にしていることはありますか。

山口  セカンドガードは、チームが良い状態の時はそれをキープしないといけないし、流れが悪い時は断ち切らないといけない立場です。マイナスが許されない、一つのミスも許されない立場だと思っています。なので毎回、試合の状況をしっかり見て「流れを変えてやろう」、「チームを勢い付けてやろう」という思いで臨んでます。

トンプソン ベンチから試合を見る時間があるので、相手の特徴をよく見るようにしています。ベンチスタートでプレータイムも多くはない分、エナジーを出して、「チームの流れを変えてやる」という意識を強く持って、積極的に良いプレーをしようと心掛けています。

「井手口先生を信じて、最後の舞台にぶつけたい」

──2人ともセカンドユニットのままウインターカップを迎えようとしています。スタメンでないことに対する今の気持ちはどんなものですか。

山口  自分たちだけで40分プレーしても勝てないし、ファーストだけで40分やっても勝てない。そこは対抗心を持ってるだけじゃダメなんだなと今は分かるようになりました。

──何かきっかけがあったんですか?

山口 やっぱり、3年生で最後の夏を乗り越えてからは「もう仲間を信じるしかない」という気持ちになりました。今はお互いをリスペクトして、「お前らやってこいよ」、「こっちが出る時は任せてくれ」という、ガードは4人で引っ張る形に行き着いたと思います。

トンプソン 自分はなかなかプレータイムがもらえない時もあって、嫌になることもありました。でも、それで終わったらチームも勝てないですし、そういう時に声を出して、みんなにも声を掛けて、ベンチからでもチームを盛り上げることをしていくのが大事だと気付きましたね。

──ウインターカップで優勝するために、チームにとって必要なことは何ですか。

山口 こんなにキツい3年間を過ごしたのは僕らしかいないと思うし、仲間を信じる力は本当に大事です。この力が一つになった時の第一は強いと思うので、Aチームだけじゃなく下級生も全員含めたチーム全体で、優勝という目標に向かってみんなを信じることが大切だと思います。

トンプソン 福岡第一のこういう環境で3年間バスケができたのは、井手口先生をはじめ、福岡第一の支えてくれた人たちのおかげだと思います。3年間どこのチームよりも一番練習して、一番努力しているので、それを信じて、あとは出し切る気持ちが大事だと思っています。全員が井手口先生を信じて、自分がやってきた努力を信じて、絶対日本一になれると信じることが一番大事だと思います。

──今年はまだタイトルを取れていません。最後のウインターカップへの意気込みを教えてください。

山口 本当にあと少しで始まりますが、まだまだやるべきことも、チームとしての課題もいっぱいあります。だからこそ、県決勝の時みたいに総力戦でやらないと勝てないと思っています。ムサが抜けたことを今言ってもどうしようもないので、「自分らがやるしかない」と前向きにとらえたいです。ウインターカップは、3年生にとって最後の集大成なので、この1年間だけでなく3年間、自分たちがやってきたことを信じて、井手口先生を信じて、最後の舞台にぶつけたいなと思っています。

トンプソン ムサが抜けた穴はやっぱり大きいですが、自分たちが乗り越えるべき試練だと思っています。チームとしてはまだまだな部分もあるので、試合ごとに波に乗るように調子を上げて、福岡第一らしい試合で自分たちの強さを見せて優勝したいです。