第8節を終えて2勝11敗と苦戦を強いられていた川崎ブレイブサンダースは、11月6日、「現状の苦境を打開するため」という理由でネノ・ギンズブルグ前ヘッドコーチとの契約を解除した。チームは新たなヘッドコーチとして、長年にわたってアシスタントコーチとしてチームを支えていた勝久ジェフリーを指名。これまでB1でのヘッドコーチ経験もある勝久に、シーズン途中で任されたチームをどのように導いていくのか語ってもらったインタビューの前編。

「やれるのは今しかない」

──ヘッドコーチを任された時のお話を聞かせてください。

僕はこのクラブに7年間在籍していますが、僕が入った頃には北卓也さん(ゼネラルマネージャー)、佐藤賢次さん(当時ヘッドコーチ、現アシスタントゼネラルマネージャー)が作って来られた文化があり、その上にたくさんのコーチや選手が文化を積み上げていたのですが「もう一度文化を作ってほしい」という話をいただきました。大きなチャレンジになることはわかっていましたが、すごく意味があることだと思いました。このクラブが何を大事にしているのか、そのことを僕が一番知っていると思ってくれて後任に選んでくれたので、チームの文化を再構築すること、もう一度チームのアイデンティティを作るというところにフォーカスをして、全力を込めてやりたいと決意をしました。

──ギンズブルグ元ヘッドコーチはどのような人物で、何を学びましたか?

「バスケットが大好きだ」ということです。いろいろな国の試合を見ていて知識も豊富ですし、試合中もインテンシティ高くコーチングをされますが、その中にもユーモアがありました。僕は真面目な性格なので、ネノさんのユーモアが少しでもミックスできるようになれば、コーチとしても成長できるのではないかと思っています。川崎を離れた後もヨーロッパのトップチームに練習見学に行くと話していましたし、バスケットに対する情熱が計りしれないと思い知らされました。

──目指すべきチームはどのようなチームでしょうか?

大きく分けて2つあります。まずは『勝利を目指して戦う強いチーム』。最近は勝てていないですが、古豪として強いチームを取り戻す。それと同時に、川崎は勝利以上に自分たちの取り組む姿勢や、逆境であってもあきらめない姿勢を見せるチームであるべきで、我々のアイデンティティである『BE BRAVE』ですね。チームワーク、ハードワーク、リスペクト。そういうものをどんな時でも体現すること。その2つの価値を見てくださってる人たちに届けるというのが我々のミッションなので、それらを大事にするチームというのを心がけています。

──技術的な部分ではないため、選手に落とし込んでいくことが難しいと思いますが、どのようにコーチングを進めているのでしょうか?

戦術とかそういったモノの前に一人ひとりの戦う姿勢、一つのチームとして戦う姿勢を落とし込んでいかないといけないと思っています。バイウィークに入る前は目の前の試合に勝つための準備を行いながらチームメートが倒れたら助けることや、ルーズボールに対して身体を張ってダイブしているか、チャージングを取る気持ちを持っているか、どんな時も全員が脅威になってやるというマインドを持っているかといった気持ちの持ち方にアプローチをしてきていました。

バイウィークに入って時間ができてからは、どちらかというと、そのマインドが育つようなファンダメンタルな練習を多くやってきています。もしかしたら選手たちの中には、戦術的には物足りないと感じてる部分もあるかもしれません。ですが「やれるのは今しかない」と思ったので、基礎的なことや、マインドのベースとなる部分を作るための時間ととらえてバイウィークを割り当てました。

「我々にアジャストできる能力がなかったのも事実」

──バイウィークには日本代表の活動があり、勝久ヘッドコーチもアシスタントコーチとして招聘をされていましたがこれを辞退しています。理由はチームのリビルディングにあるのでしょうか?

代表も自分にとってすごく特別なモノです。最初のWindow(チャイニーズ・タイペイ戦)の2試合は勝ててすごくうれしかったですし、みんなの気持ちがすごく伝わってきました。ですが、川崎にとって今がすごく大事な時期。みんながチームとして変わろうとしているタイミングで、その場に自分がいないというのは想像できませんでした。「今は100%川崎にフォーカスしている」「僕はここにいる」という決断も含めて「チャレンジしてるんだ!」というメッセージを感じてもらうために川崎に残る決断をしました。

──トム・ホーバス男子日本代表ヘッドコーチからは快諾してくれましたか?

アジアカップの結果を受けて、トムさんとも「次の合宿が大事だ」という話を(ギンズブルグヘッドコーチ解任の話が挙がる)直前までしていてたのですが、トムさんは快く「大丈夫。100%理解しているからサポートするね。辛抱強く、我慢強くポジティブに頑張ってほしい。応援しているから」と言ってくれたことは心強かったです。 

──なぜファンダメンタルを突き詰めようと考えたのでしょうか?

18試合を振り返った時に、課題として浮き彫りになったのがターンオーバーの多さ。そして一つひとつのディフェンスポジションが上手く作れていない場面が見受けられたことです。チームのこの先を見据えた時に、もっと状況判断の質を上げられるようにするためには、まずベースが必要だと感じました。

ネノさんは本当にハイレベルなコーチングをされてきていて、チェコ代表やヨーロッパのクラブを常勝軍団に引き上げて優勝させてきました。そういった経験を持つネノさんの「こういう時はこうする」という指示に対して、我々にアジャストできる能力がなかったのも事実です。ディフェンスもしかり、オフェンスでもリード&リアクトができるようになるためにはまずベースを作らないといけないというところにたどり着いた結果です。

──今後もギンズブルグヘッドコーチが昨シーズンから積み上げてきたものを継承していくのでしょうか?

ネノさんが就任当初から戦術を伝える以前にチームに植えつけていた一人ひとりの戦うマインドや、アグレッシブになること、自分にリミットをかけずにいろいろとチャレンジすることは、もっと浸透させていけたらと思っていますが、僕はネノさんのマネはできないと思っています。僕の性格があって僕の言葉のスタイルがあるので、ネノさんから学んだことは大事にしつつ自分らしくコーチングすることを心がけています。