エース離脱に奮起したバックス、ピストンズに逆転勝利

現地12月3日はバックスにとって激動の一日となった。東カンファレンス首位のピストンズに対し、最大18点ビハインドから巻き返す今シーズン最高の勝利を挙げたが、それはこの日に起きた出来事のインパクトとしては3番目。試合以上に感情を揺さぶられた出来事が2つあった。それはいずれもヤニス・アデトクンボの話で、ミルウォーキーのファンを不安と不愉快にさせるものだった。

この2日前、バックスは東カンファレンス最下位のウィザーズに逆転負けを喫した。試合後、アデトクンボは取材を拒否。そして3日の早朝、ブライアン・ウィンドホースト記者が『ESPN』の番組で「アデトクンボはニックスへのトレードを要求している。だからバックスのフロントはニックスと交渉を行っている」と発言し、『ESPN』はアデトクンボと代理人がバックス首脳陣と将来について話し合っていると報じた。

3日のピストンズ戦を前に、ヘッドコーチのドック・リバースは「またか」と吐き捨て、こう続けた。「ヤニスがトレードを要求したことは一度もない。絶対にない。私は毎日彼と話しているが、彼はミルウォーキーとバックスを愛している。情報源と話した、という連中がこの手の話を撒き散らしているが、私はヤニス本人と話しているんだ。この手の噂は勝てば消える。10連勝もすれば魔法のように消えてしまう話だ」

そんな騒然とした雰囲気の中で行われたピストンズ戦の開始3分、アデトクンボはAJ・グリーンのイージーレイアップをアシストし、ディフェンスに数歩戻った時点で突然倒れた。このところNBAから多くのスター選手を奪っているアキレス腱断裂が心配される倒れ方だったが、彼は自分で起き上がり、ロッカールームまで歩くことができた。右足ふくらはぎの肉離れで、2週間から4週間の戦線離脱となる。

アデトクンボは2023-24シーズンの終盤にもアキレス腱断裂が心配されるケガを負ったが、ふくらはぎの肉離れで済んだ。それでもプレーオフには出場できず、チームはファーストラウンド敗退。ただ、その後にギリシャ代表で戦線復帰し、パリオリンピックに出場している。昨シーズンもふくらはぎの肉離れを起こしており、この時はオールスターの出場を見合わせることになった。

話を現在に戻すと、アデトクンボが去就について考えている可能性は高い。バックスは10勝13敗の10位。アキレス腱断裂でエース不在のセルティックスとペイサーズが優勝争いに絡めないシーズン、バックスもまた低調な戦いが続いている。

ブルック・ロペスの後釜となったマイルズ・ターナーはそこそこの活躍を見せているが、キャリア初の移籍を経て、フランチャイズプレーヤーとしてチームを背負っていた頃の存在感はなくなっている。そしてデイミアン・リラードの代わりはいないままだ。

「このチームで優勝を狙える」という確信を持てない限り、アデトクンボの気持ちは揺れ続けるだろう。アキレス腱断裂のリラードとの契約解除のために、バックスは2200万ドル(約33億円)を5年分割で彼に支払う。ウィンドホースト記者は、このリラードの解雇でアデトクンボがバックスを見限ったと主張する。

今のバックスに欠かせない戦力となっているボビー・ポーティス、ケビン・ポーターJr.、ライアン・ロリンズの3人を足した年俸が2200万ドルだと考えると、その金額がいかに大きいかが分かる。ターナー獲得に必要な一手ではあったが、長期に渡る負債を抱え込んだことで、アデトクンボを納得させる戦力を維持するのは本当に難しくなった。

今後、バックスは指揮官リバースの言うように、勝って噂を消し去ることができるだろうか。ピストンズ戦はポーターJr.にグリーン、ロリンズ、ベンチから出場してアデトクンボの穴を埋めたジェリコ・シムズの奮闘で勝つことができた。

2021年の優勝をアデトクンボとともに勝ち取っているポーティスは試合後にこう語っている。「僕らのグループチャットに最初にメッセージを送ってきたのはヤニスだった。『よくやった、良い勝利だ』と書かれていたよ。仲間がケガをするのはつらいことだ。彼の早い回復を願うよ。それでも残ったメンバーで結束して勝てて良かった。今日のような粘り強さ、戦い抜く姿勢が大事なんだ」