連勝必須のチャイニーズ・タイペイ戦
男子日本代表は11月28日、12月1日と『FIBAワールドカップ2027アジア地区予選』Window1のチャイニーズ・タイペイ戦をホーム&アウェーで行う。
この予選は2027年3月2日まで全6つのWindowがある。そういった意味でこの2試合を「長期に渡る戦いの始まりに過ぎない」と悠長に構えたいところだ。しかし、実際はこの2試合こそが今回のワールドカップ予選において最も大きな意味を持つ可能性が高い。連勝で終えることができれば2次ラウンド進出に大きく前進、逆に連敗を喫したらいきなりの一次ラウンド敗退も濃厚という、絶対に負けられない大一番だからだ。
日本は1次ラウンドで中国、韓国、チャイニーズ・タイペイと同じグループBに所属し、2次ラウンドに進出する上位3カ国を目指す。そして2次ラウンドに進出すればグループFに入り、グループD(レバノン、サウジアラビア、カタール、インド)の内、開催国のカタールと残りの3カ国の上位2カ国と対戦。それぞれとWindow4からWindow6でホーム&アウェーで対戦する。
ワールドカップ2027におけるアジアの出場枠は、大会開催国のカタール以外の上位7チーム。2次ラウンドのグループE(グループAとCの上位3カ国で構成)、カタールを除いたグループFのそれぞれ上位3チームと、両グループ4位のより成績が上位だった1チームに本大会への切符が与えられる。
改めてグループBに目を向けると、今夏の『FIBAアジアカップ2025』のパフォーマンスなどを見れば、日本よりも中国、韓国のほうが勢いに乗っていると言わざるを得ない。もちろん、何度やっても勝てないような大きな戦力差はない。しかし、河村勇輝が代表復帰を果たし、さらにそこに八村塁が加わらない限り、両国とのパワーバランスは「普段通りの力を出せば勝ちを計算できる」といったものではない。
中国とは2月26日にホーム、7月3日にアウェー、韓国とは3月1日にホーム、7月6日にアウェーで対戦。日本はこの4試合を2勝2敗で終えられたら御の字だろう。だからこそ、今回のWindow1でチャイニーズ・タイペイになんとしても連勝したい。チャイニーズ・タイペイはアジアカップで8強入りを果たすなど手強い相手だが、それでも中国、韓国に比べれば与しやすい相手であるのは間違いない。
アジアカップの反省を受けて戦術を簡略化
もちろんヘッドコーチのトム・ホーバス、選手たちも今回のチャイニーズ・タイペイ戦がどれだけ重要なのかを十二分に認識している。ホーバスはこう語る。「アジアカップではディフェンスもオフェンスも、新しいプレーにいろいろトライしました。良い部分もありましたが、あまりできなかったことは(今回は)やらないです。今回は時間がないのでプレーを絞っています。本当に効くプレーについて、細かいところまで詰めていきたいです」
文字通りの『必勝体制』で臨まなければいけないチャイニーズ・タイペイ戦に向け、指揮官は戦術の簡略化を図ったと話したが、これは妥当な選択だ。
そして、ともに中国CBAでプレーし、アジアカップで平均14.8得点を挙げたリン・ティンシェン、平均13.2得点のチェン・インチュンのガードコンビを「この2人をちゃんとマークして相手のオフェンスリズム崩していきたいです」と最も警戒。原修太、高島紳司の2人を合宿に招集してディフェンス強化の意向を示している。
とは言え、オフェンス面でホーバスの重視するアップテンポなスモールボールの遂行を最優先する場合、ホーバスのスタイルにより慣れているアジアカップ出場組の起用が増え、原や高島が主力として出番を得るかは微妙なところだ。
個人的な意見となるが、惨敗を喫したアジアカップベスト8決定戦のレバノン戦の主な敗因は、大きく2つあると考えている。1つは相手のフィジカルに気圧されてターンオーバーを重ねた点。そしてもう1つは、相手ガード陣のペイントアタックを止められずにズレを作られ、高確率で得点を決められたことで得意の走る展開に持ち込めなかった点だ。
今回のチャイニーズ・タイペイは、アジアカップで活躍したウイングのアダム・ヒントンがNCAAのシーズン中のため不参加のため、アジアカップ以上にガード陣を主体としたオフェンスを組み立ててくることが予想される。まずは相手の攻撃の起点となるガード陣を抑えることが、日本のやりたいアップテンポな展開に持ち込むための基盤となるが、それだけにオンボールディフェンスに長けた原や高島をどこまでホーバスが起用するかは大きな注目点だ。
2次ラウンドは1次ラウンドの成績を持ち越し
そしてWindow2以降を見据えた場合に忘れてはいけないのが、別グループから勝ち上がった上位3チームとホーム&アウェーで戦う2次ラウンドに、1次ラウンドの成績が持ち越される点だ。これがWindow1を何としてでも連勝で終えたい理由に繋がってくる。
グループBの勝ち上がりチームが2次ラウンドで戦うグループDは、レバノンが6戦全勝で勝ち上がってくる可能性が高い。グループBを中国、韓国に次ぐ3位で通過した場合、レバノン相手にホーム&アウェーで連勝でもしない限り、2次グループのトップ3に入るのは簡単ではない。もし4位になった場合はグループDの4位チーム(おそらくフィリピンかイランのどちらか)と成績を争うことになる。
日本はワールドカップ2023でアジア1位となり、パリ五輪で自力での五輪出場を達成する快挙を成し遂げた。そしてパリ五輪でもフランス相手にあと一歩の惜敗と、ここ3〜4年の国際舞台ではアジアで最も実績を残してきた。しかし、一方でアジアカップは2021年大会がベスト8敗退、今夏の2025年大会はベスト8決定戦で敗退と、アジア内の戦いで確固たる実績を残していない現実から目を背けてはならない。
また、前回のワールドカップ予選は自国開催枠によってプレッシャーがなく、大きな重圧を受ける予選を経験するのは前々回の2019年大会の予選以来となる。
当時の日本代表は、接戦を続けて落とす泥沼の4連敗からスタートしたものの、ニック・ファージカスの帰化、当時NCAAでプレーしていた八村塁の参戦と、これ以上ない新戦力の参戦が神風となってオーストラリアに歴史的勝利を記録。ここから息を吹き返し、アジア予選突破を果たした。だが、Window3、Window4で参戦可能なNCAA組に八村のようなインパクトを期待するのは酷であり、ジョシュ・ホーキンソンというアジア屈指のビッグマンがいる現状から帰化枠に飛躍的な伸びしろが生まれることも考えにくい。
前々回のような特効薬が期待できない日本は、今いるBリーグ勢を軸に過酷な戦いを勝ち抜いていくしかない。最後まで気の抜けない試合が続き、若手に経験を積ませる余裕があるWindowはないと考えるのが妥当だ。厳しい道のりとなるのは間違いないが、Bリーグで活躍したメンバーたちによって本大会への切符を勝ち取り、Bリーグの進化を世界に証明してもらいたい。そして彼らはそれを実現するのが可能な力を十分に備えている。


