文=丸山素行 写真=本永創太、B.LEAGUE

「バスケットの質が落ちない」と敵将も称賛

川崎ブレイブサンダースはニック・ファジーカスと辻直人の2本柱を中心とし、脇を固める選手たちの能力も高い。だがそれだけではレギュラーシーズンを最高勝率で終えることはできなかった。プレータイムをシェアすることが主流となった現状で、チームの総合力を左右するのは選手層に他ならない。そして川崎の最大の強みはそこにある。

川崎は先日行われたサンロッカーズ渋谷とのクォーターファイナルに勝利し、セミファイナルに駒を進めた。SR渋谷の指揮官、BTテーブスは「特にサブの選手が出てきてもバスケットの質が落ちない」と勝者を称えた。また北卓也ヘッドコーチも「セカンドユニットになっても得点が止まらないのが非常に良い」とセカンドユニットの充実ぶりを勝因に挙げている。

そんな川崎自慢のセカンドユニットの中でも存在感を放ち続けているのが、川崎一筋7年目を迎える栗原貴宏だ。SR渋谷との第2戦では3ポイントシュート、オフェンスリバウンドからのゴール下、アシストなどオールラウンドに活躍し、第2クォーターだけで10得点を挙げている。

「得点よりも、僕はディフェンスとかリバウンドとかハードスクリーンとか、そういうところが役割だと思うので」と2桁得点を挙げる選手からそのような言葉が出てくるところが、川崎の選手層の厚さを示している。

「オフェンスの武器としては3ポイントシュートだと思ってます。空いて打たないと悪循環になっちゃうので、そこは積極的に打つようにしてます」と言うバックスピンのしっかりかかったシュートは高確率でネットを揺らす。今シーズンこそ30%代前半の成功率に留まっているが、過去2年間の3ポイントシュート成功率は40%を超えている。

辻が怪我でチームの戦列を離れていた時には先発を務めた。「これまでのキャリアでもスタート(先発)の時期だったり、シックスマンで出たり両方やってるので」とどちらの出場でも安定感を欠くことはない。

先発出場への思いを聞くと、「プレーヤーである以上先発にはこだわりたいですけど」と前置きしながらも「僕は日本人選手の中では最年長なので、まだベテランってほどではないですが、その経験をコート上で発揮できればいいかなと思います」とチームでの役割を自発的に受け入れている。ヘッドコーチとしてはこれほど頼もしい選手もいない。

「得点取るほうが楽しい」けれど、自分の役割を徹底

プロ選手である以上、チームでの役割を理解し、戦術に合わせたプレーを選択しなければいけない。得点よりもアシストに喜びを感じる選手がいないわけではないが、大抵のプレーヤーは得点を決めることに喜びを見いだす。

「プレーヤーである以上は得点を取るほうが楽しいですし、ガンガンやりたい思いはもちろんありますよ」と栗原もそんな思いを抱えている。ましてや192cmと長身で、ディフェンス力とシュート力を兼ね備えていることを考えれば、川崎以外のチームでは先発を務めてもおかしくない存在だろう。

それでも「僕の役割は点を取るというよりも、数字に出ないようなところだと思うので、そこに徹していこうと思っています」とチームファーストの姿勢は崩さない。

ごく稀に自分の調子がかなり良い時は「多少自分がシュート打てるようなセットプレーをやらせてとか言う時もあります。基本そこまでないですけどね(笑)」と明かしてくれた。

川崎は今日と明日、ファイナル進出を懸け、アルバルク東京と激突する。「チャンピオンシップはレギュラーシーズンとは全く別物なので、やれる時はガンガンやっていきたい」と勝利への意欲を見せた。

「もう何年も一緒にやっているメンバーですから、ここで自分が何をしなきゃいけないということが理解できてると思います。自分が何をやって何が必要かということをベンチから見てて表現してくれる。それがチームの強みになってると思います」と北ヘッドコーチはチームを分析した。

短期決戦で一番怖いのは崩れて立て直せないまま相手の勢いに飲み込まれてしまうこと。ただ、川崎の場合はどんな試合展開でも崩れるリスクは低い。経験豊かな栗原がベンチに控えているのは、そういった意味で非常に心強い。