
日本バスケットボール界期待の星がニューヨークに降り立った。大学2年生の昨シーズンはハワイ大でプレーしたジェイコブス晶は今年、アトランティック10(A-10)カンファレンスのフォーダム大に転校。今夏は日本代表の一員として『FIBAアジアカップ2025』でも活躍した成長株は、大都会に本拠地を置く新天地で再出発を切っている。
昨シーズン、ハワイ大では30試合で平均6.9 得点、2.6リバウンド、0.6アシストという成績を残したあとで、転校を決意した理由はどこにあったのか。フォーダム大で求められる役割はどのようなものなのか。NBA、2028年のロス五輪といった大目標を目指す上で、現在参考にしている選手は誰なのか。そして、始まったばかりのニューヨークでの生活をどう感じているのか。106-37という大勝でシーズン初勝利を手にした11月7日(現地時間)のマウント・セント・メアリー大戦後、ジェイコブスにたっぷり語ってもらった。
時にはセンター起用も「良いプロセス」
──開幕戦で悔しい負け方をしたあとで、今回の2戦目は良いプレーができたと感じていますか?
相手はディビジョン3の中でもレベルが高いとは言えないチームだったので、今日は1試合目の悪い負け方からメンタルをリセットする試合という感じでした。とにかくチーム全体のエネルギーを上げることを意識しましたね。自分としては、この試合だけを見れば自分のスタイルを全然出せていません。でも、いずれカンファレンスゲームに入っていくので、上手い選手たちとの戦いで1試合目のようなプレーをしてしまったら勝てません。チームのためにも、自分のためにもそこは意識していきたいです。1試合目に負けて、チーム全体でリセットできたことは大きいです。ミーティングでも『自分たちはどういうチームになりたいのか』を全員で話しました。みんな、お互いを信じているし、システムも信じています。今日の勝利で気持ちが上がるというよりは、次の練習、次の試合でどう変われるかに注目しています。
──日本代表でジェイコブス選手は3&Dやストレッチ4のイメージでしたが、今のチームではオールラウンダーのような役割でしょうか?
そうですね。今シーズンはチームにサイズがあまりなくて、センターが1人ケガをしています。身長203cm以上の選手は僕を含めて3人しかいません。だから今シーズンはコーチとも話して4番、時には5番もやることになります。フィジカルを鍛える意味でも良い経験だと思っています。ハワイ大1年目の頃に少し近い感覚ですね。今シーズンはよりレベルの高いA-10に来たので、フィジカルの強化は大事ですし、来年4年生になったときにウイングに戻って、さらに強く、スキルも伸ばしていければ。オールラウンダーになるための良いプロセスだと思っています。
──開幕戦はスタメン、第2戦はシックスマン的な起用方法でした。今後はどうなりそうですか?
まだわかりませんが、正直どっちでもいいです。スタメンでもベンチでも、チームのためになれるならそれで良いですね。出ている時間は全力で役割を果たし、ベンチにいるときはエネルギーを供給し、仲間を盛り上げたいです。自分が活躍しても大騒ぎはしませんが、チームメートが良いプレーをしたときに盛り上がるのは好きです。

指揮官からオファーを受けてフォーダム大へ
──現在の身長と体重は?
身長は203か204cm。体重は225ポンド(約103kg)です。
──見た目はかなり大きくなった印象ですが、体重はあまり変わっていませんね。
変わっていません(笑)。筋肉が増えて、体脂肪が減ったのかもしれませんね。
──昨夏の時点で「フィジカルが課題」と話していましたが、今はどう感じますか?
ビッグウエスト・カンファレンスからA-10に来て、レベルの違いを感じています。確かに身体は強くなりましたが、まだ相手より圧倒的に強いわけではありません。特に5番をやるときはフィジカルの厳しさを感じます。でも、どう当てるか、どう守るかという部分は成長しました。自分が相手より強くないと理解したうえで、スピードを使って対応できてきていると思います。
──あらためて、フォーダム大を選んだ理由は?
一番大きかったのは、ハワイ大時代に対戦したカリフォルニア大リバーサイド校のマイク・マグパヨヘッドコーチのシステムが好きだったことです。彼とはNBAアカデミーにいたときから話すことがあって、フォーダム大のヘッドコーチになったときに、真っ先に連絡をくれたんです。「アキラにはここに来てほしい。活躍の場があるから」と。ヘッドコーチが自分を信じてくれていることが大きかったです。A-10という高いレベルでプレーできること、そしてニューヨークという場所でコネクションも広げられること。フォーダム大は学業面でも優れていて、条件が揃っていました。他にもオプションは結構あったんですけど、自分のために一番良いのはここだと感じたので、すぐにコミットしました。
──マグパヨヘッドコーチのシステム、スタイルをどう感じていますか?
対戦相手として見たときに、4番や3番がどう動くかを見ていました。自分のプレースタイルに合っていると感じました。
──今年の夏、日本代表では主力の立場で活躍しました。経験は自信になりましたか?
もちろんです。アジアカップはオリンピックほどのレベルではありませんが、日本のためにプレーするのはいつでも誇りです。代表で活躍できたのは大きな自信になりましたし、また呼ばれたら頑張りたいです。
──今の課題は?
今シーズンはまだ3ポイントが決まっていません。だからこそ、入っていないときに何ができるかが大事です。練習では2ポイントの成功率がチームで一番高いですし、特に5番でプレーするときはドライブのスペースも空くので、ミスマッチを作るプレーを試合でも出せるようにしたいです。練習ではそれらができるけど、試合でちゃんとそれを見せられるか。そこが課題というか、自分の中で一番大きなポイントですね。
──今の役割でもシュートは積極的に打っていくつもりですか?
3ポイントはいつでも打たなければいけません。日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチにも「打たなかったら代える」って言われているので、「わかりました」って(笑)。チームメートも僕のシュートを信じてくれていますし、3ポイントも練習時はチームトップの確率なんですよ。3ポイントにもインサイドにも自信があります。
──以前、参考にしている選手を聞いたとき、ポール・ジョージの名前を挙げていました。ポジション、役割が少し変わった今は誰が頭に浮かびますか?
今は渡邊雄太選手です。プレースタイル、身長に加え、左利きという点も似ていると思います。渡邊選手はNBAで実績を残し、今ではBリーグでも活躍している選手なので、見習うにはすごく良い存在だと思っています。目指すにはディフェンス力をもっと上げなければいけません。あと、ハワイ大で一緒にやっていたフィルムアナリストの人は、キャメロン・ジョンソンの映像も僕によく見せてくれていました。ジョンソンのようにシューターでありながら、少ないドリブルでどれだけ攻められるか、そういうプレーを意識しています。
──渡邊選手とは話をしているのでしょうか?
アジアカップ後に少し話しました。渡邊選手のカレッジ時代と同じA-10カンファレンスでプレーするにあたって、何に集中すればいいか聞いたんです。「もうスカウティングではシューターだと知られているから、クローズアウトが厳しくなる。そこでどうするかが大事。ゴールにアタックしたり、ポストプレーしたり、プレーの幅を広げることが必要」と言われました。
──その渡邊選手も、ジョージ・ワシントン大時代は3年生の頃からリーダーシップについて苦心していた印象がありました。ジェイコブス選手もフォーダム大ではリーダーの役割が求められると思いますが、開幕戦に敗れたあとのミーティングでは積極的に発言したそうですね。
自分らしいコミュニケーションで引っ張りたいです。コーチには「チーム内で一番大きな声を出してくれ」と言われていますが、それはあまり僕らしくないですよね(笑)。でもできる限り頑張っています。プレー中や横で話して声をかけるのは大事だと思うので、そこを意識しています。僕は3年生で上級生ですし、話すべきときには話す。僕だけじゃなく、みんながそうしていくことで良いチームになると思っています。

「まずはカレッジでベストを尽くす」
──チームと個人の目標は?
チームとしては、毎試合1%ずつでも成長すること。それができれば自分たちの理想のバスケに近づくし、個人としても結果はついてくる。シュートの確率などもありますが、とにかく自分の100%を出して、やるべきことをやる。シュートが入っても入ってなくてもできることをやり、コミュニケーションを取る。数字的な目標よりも、全試合で100%を出すことが自分の目標です。
──最終的な目標として、NBAや日本代表でのプレーは想定していますか?
もちろん変わりません。11月と2月のワールドカップ予選には出られませんが、代表を応援しています。次に呼ばれたときは、ワールドカップ、オリンピックでも試合に勝てる代表の一員として貢献したいです。
──Bリーグのドラフト制度も変わり、金銭的にも恩恵を受けられるように変わってきましたが、まずはアメリカでNBAが目標という気持ちに変わりはありませんか?
Bリーグに早めに戻る選択肢もあると思いますが、せっかくアメリカの大学で、しかもNCAAディビジョン1というハイレベルの環境でプレーできているので、4年間しっかり経験したいです。NBAを目指す気持ちはもちろんありますが、まずはカレッジでベストを尽くすことが今の目標です。
──最後に、ニューヨークでの生活はいかがですか? ハワイで趣味になったと話していたSUP(スタンドアップパドルボードの略でウォーターアクティビティ)もここではできないですよね?
ハワイのように気軽に海に行けないのは寂しいですし、大きなアジャストメントですね(笑)。でも、それは分かっていたことです。ハワイはめちゃめちゃ快適で、楽しく過ごしていたんですけど、せっかくの4年間のカレッジ生活なのでもっと厳しい場所でレベルの高いバスケをしたいと思いました。ニューヨークは大変だけど、自分を成長させてくれる場所だと考えています。