
バトラー時代と決別、全員バスケで上昇気流に乗る
『ジミー・バトラー問題』に振り回された後、ビッグネームの補強がないまま新シーズンを迎えたヒートは、若手の成長にフォーカスして優勝戦線からは一歩後退するかと思われた。現地10月26日は優勝候補のニックスが相手で、しかもエースのタイラー・ヒーローが足首の痛みにより欠場し、厳しい戦いが予想された。
しかし、接戦の中で一歩も引かない好勝負を演じ、第3クォーターの終わりから第4クォーター前半にかけて23-6のランでニックスを突き放した。
ポイントガードのヒーロー不在でも、25アシスト16ターンオーバーとプレーメークは及第点の出来。デイビオン・ミッチェルが6アシストを記録したが、彼は攻めよりも守りを得意とする選手で、ジェイレン・ブランソンのマークでファウルトラブルに苦しんだ。
それでも今シーズンのヒートはプレーに関与する人数が限られるピック&ロールを減らして全員でボールをシェアし、縦に速い攻めを意識している。それがこの試合では、ファストブレイクの得点で31-10とニックスを圧倒し、スピードで振り回すことでファウルを引き出して31本のフリースローを得ることに繋がった。
昨シーズンまでのヒートは速いテンポのバスケをするチームではなかったが、バトラーという絶対的なエースが去ったことで、そのスタイルは変わりつつある。選手のローテーションもまだ試している段階で、ヒーローとなれば選手のやりくりは苦しくなるが、ここでチャンスを与えられた選手がアグレッシブにプレーした。
第3クォーター終盤からヒートがニックスを突き放した時間帯は、ハイメ・ハケスJr.やシモーネ・フォンテッキオ、ニコラ・ヨビッチとベンチから出たメンバーが主導したもの。逆に今シーズンに選手層を厚くしたはずのニックスは、主力をベンチで休ませたこの時間帯に一気に劣勢へと追い込まれてしまった。
スポールストラ「選手たちが競争することを楽しむのは大歓迎だ」
3年目を迎えたハケスJr.は、セカンドユニットのリーダーとして流れを呼び込む仕事を楽しんでいる。「今はただ全力でプレーし、チームで戦うことを楽しもうとしている。セカンドユニットとして試合にエネルギーを与えたいし、他のメンバーにも『試合に火を付けてやろう、もう火が付いているならガソリンを注ぐんだ』と話している。今のチームは少しおとなしいから、みんなを奮い立たせる存在になりたい」
『全員バスケ』への手応えを語るのはバム・アデバヨだ。ヒーロー不在の試合で、彼は自分ですべてをやるのではなく、その逆のことを行った。他の選手がやろうとすること全部をサポートする。それがチームに新たな活気をもたらしている。「僕らはシンプルにプレーする。正しい判断をしてボールを動かす。全員がボールに触れ、ペイントに飛び込んでいくことで、相手はかなり苦しんでいたよね」とアデバヨは楽しそうに笑い、こう続ける。
「僕たちは素晴らしいグループになった。全員がシステムを受け入れてプレーしているから、誰がドライブし、誰がシュートを打つのか予測がつかない。このやり方を僕たちは愛している。バイブスは最高だよ。この雰囲気を5試合や10試合だけじゃなく、シーズンを通して維持したい。対戦相手がどこもハーフコートオフェンスをするプレーオフになっても、僕たちは走るバスケをやっていたいね」
プレシーズンは6戦全敗だったが、開幕してからはバラバラだった昨シーズンとは打って変わって質の高いバスケを展開している。指揮官エリック・スポールストラはこう語る。「私は規律を重んじるが、選手たちがプレーすること、競争することを楽しむのは大歓迎だ。ファンが楽しんでくれているのも良いことだ。この雰囲気がチームにさらなる勢いをもたらすことを願っているよ」