津山尚大

開幕戦で7本の3ポイントシュートを沈める

アリーナの空気を震撼させた魔法のような時間を、当事者は静かに振り返った。「相手の(コフィ・)コバーン選手のところでピックを使えば打てそうだなと思って、それが1本目で入ったので、外そうが外さまいが次は連続で打つと決めていました。それが上手くいったのが良かったかなと思っています」

川崎ブレイブサンダースの津山尚大は、10月4日の広島ドラゴンフライズ戦(ゲーム1)で両チーム最多となる21得点を挙げた。特に3ポイントシュートを13本中7本成功させ、うち5本を10点ビハインドで迎えた第3クォーターに固め打ちした。本人が証言するようにピック&ロールを守りに来たコバーンとのアジリティのミスマッチを突いて1本目を沈めると、次のポゼッションでも同じシチュエーションから2本目を成功。3本目は外れたがオフェンスリバウンドを自ら奪い、再び打ち、決めた。「自分はあそこで打っていかないといけない選手だと思っているし、打つべき流れだと思いました」

津山は前半、シュートアテンプト4の0得点。「やっていたオフェンス的にボールを触る機会があまりなかったし、タッチ自体もあまり良くない感触でした」と振り返る。その影響か広島が後半、津山を少し離して守っていることに気づいたネノ・ギンブズルグヘッドコーチは動いた。「ここでショウタがシュートを決め切ることが大事だと思っていた。だからよりボールを集めて、彼自身がクリエイトすることでそのオフェンス能力を活かそうとした。それがハマった」

昨シーズン島根スサノオマジックで56試合に出場し、キャリアハイとなる平均8.1得点を記録した津山は、川崎が昨シーズンより大きな課題としていた「日本人選手の得点力不足」を解消する重要なピースとして加入した。北卓也ゼネラルマネージャーは8月の新加入記者会見で「間違いなく平均2桁に乗せられる選手」と津山を評し、ネノヘッドコーチも「オフェンスをより牽引し、これまでいたチーム以上に得点能力を生かしてほしいし、その自覚を持ってほしい」と話している。

津山尚大

安藤誓哉からのエール「試合に勝ってほしい」

津山にとって、川崎への移籍は大きなチャレンジだ。島根には安藤誓哉やニック・ケイ、ペリン・ビュフォードといった強力な個の力を持つ選手がいて、彼らにさまざまな面で助けられたが、川崎は同じ状況ではない。ある段階から先は自分自身の力で自分を証明しなければいけない。

「彼らに助けられたプレーは本当に多かったですし、彼らのおかげで僕はここまで成長できたと思っています。今シーズンは誓哉さんやニックがいない中で自分がどれだけできるかを、まわりに認めさせるシーズンにもなります。チームを勝たせて、チャンピオンシップに進むことも1つの大きな目標ですが、自分がリーダーシップをしっかり発揮して、毎試合毎試合、どんな状況であれチームを引っ張る姿を最後まで見せ続けることも意識しながら戦いたいです」

アルバルク東京時代から5シーズンプレーし、類まれな支配力を持つ安藤と離れたことも影響してか、津山は入団当初からしきりに「リーダーシップ」という言葉を口にする。公私ともに仲が良く、チームが離れた現在もよく会っているという兄貴分と敵としてプレーすることについて思うことを尋ねると、津山は言った。

「成長した姿を見せたいです。これは誓哉さんに言われたことなんですが、誓哉さんが一番長く一緒にプレーしている選手は僕で、僕もあの人が一番長い。だから、離れたからには試合に勝ってほしいと。プレーで誓哉さんに勝つことが自分の恩返しだと思っているので、しっかりやっていきたいなと思っています」

津山の素晴らしい活躍はあったものの、チームはこの試合に83-91で敗北。翌日のゲーム2はディフェンスが崩壊し、88-114という大敗を喫した。試合開始直後から細かいディフェンスのエラーが続発したゲーム2の内容を受け、ネノヘッドコーチは「昨日は『がっかりした』という表現をしたが、今日は『心配』という表現になってしまう」とコメントした。

昨シーズン、中地区最下位に沈んだチームは、今年も決して盤石ではない。だからこそ全員の試行錯誤と成長が必要不可欠となる。高卒でプロになって10年目、20代最後のシーズンを戦う津山が選手として新たな輝きを放ち、自らはもちろんチームをも変えていく過程を見たい。