
今シーズンをもっての現役引退することを発表した、千葉ジェッツの西村文男のロングインタビュー最終回。引退の経緯について明かした前編、千葉ジェッツの強さの礎を作った『大野ヘッドコーチ時代』を振り返った中編に引き続き、ラストシーズンに対する思いを語ってもらった。
それぞれのプレースタイルへの理解
──今シーズンは、昨年1月に高卒で加入した瀬川琉久選手にガードの先輩としていろいろなことを教えていく1年にもなるのではないかと想像します。
今までにもフジ(藤永佳昭=現・富山グラウジーズ)や(大倉)颯太(現・アルバルク東京)など若いポイントガードとプレーしましたが、彼らにはあまりアドバイスをしなかったですね。ポジションを取られたくないからということではなくて、ポイントガードは各々プレースタイルも考えも違うから。特に颯太は僕とは違う考えを持っているなと気づいたので、自分の考えを押し付けるのは違うなと思っていました。(小川)麻斗(現・京都ハンナリーズ)に関しては、去年は悩んでいることも多かったので「気にするな」「今、もしかしたらこういうプレーをしていたほうが良いかもね」ぐらいのアドバイスをして接するようにしていました。
──瀬川選手に対しても、彼のプレースタイルや考えを尊重して接しているのですね。
入って来た時に「試合の時は思いっきりやっておいで。俺らがちゃんとバックにいるからね」ぐらいしか言ってないですね。でも、練習の時からバチバチ当たってきました。僕と(富樫)勇樹だとそこまではやり合わないので新鮮でした(笑)。でもそれは大事なことだし、琉久はそれで良いと思います。NBAを目指してると言っているわけなので。
──最後のシーズンはどのように戦いますか?
やっぱり、例年以上にケガなく終わりたいなと思っています。最後の試合に出ていなかったとしても「ベンチで文男はちゃんとレディーしていたんだよ」というところまで見せて終わりたいですね。
──ケガをしないように心がけていきたいことはありますか?
大きいケガは今までしてこなかったので、変にラストシーズンだからと言って気負わずに、いつも通り行くのが大事かなと思います。

プロ意識の根底にある母からの教え
──西村選手はファンやスポンサーを大事にしています。引退を事前に公表したのも彼らへの思いがあってのことでしょうか。
そうですね……。応援してくれる人たちにはSNSやいろいろなところで「シーズンが終わってから急に『引退』ということはせず、早めに言うね」と話していましたし、シーズン前に「最後の1年となる試合を見に来てね」「自分のかっこいいところを見に来てね」ということを伝えたかったから事前に公表しました。前のチームの時から応援してくれてる人が今もたくさんいてくれる一方で、疎遠になってしまった人もいるかもしれないので、そういった人たちにもぜひ、最後に会場へ来てもらって僕の勇姿を見てほしいなと思っています。
また、仲良くさせてもらっているスポンサーさんには個人的に連絡をして「引退試合までにプロジェクトを行うので、僕の最後の1年間を一緒に動いてもらえたらうれしいです」ということをお伝えさせてもらいました。
──ファンやスポンサーをなぜそこまで大事にしているのでしょうか?
僕らの仕事が成立して給料をもらえている理由は、応援してくれる人たちとスポンサーさんたちのおかげ。あの人たちがいなければ、僕たちはただの人なわけです。そこは勘違いしちゃダメだと。これはいろんな人にずっとずっと言われていることなんです。
──素敵なお母さんですね。
そうですね。「バスケをやめたらただの人だよ。あなたをそのような立場にしてくれているのは、応援してくれる人たちがいるからなんだよ」という話はいつもしてもらっていましたし、大野(篤史)さん(現・三遠ネオフェニックスヘッドコーチ)やジョン(パトリック)、関わってくれた多くの方々から同じことを耳にしていました。だから、自分はよりその考え方を大切にしたいなと思うようになりましたね。
──お母さんに引退を伝えた時はどういった反応でしたか?
ちょっとさみしそうにはしてましたが、引退後に自分がやりたいことを伝えたら「頑張りな」と言ってくれました。
──終わりが見えた状態でシーズンを戦う、というのはどういう気持ちなのでしょうか。
それが正直、まだ実感があまりなくて。終わりになるにつれて、もしかしたら自分の心境が変わるかもしれないので、随時、聞いてもらえたらうれしいです。このテンションのまま笑って終わるかもしれないし、途中でいろいろとエモい感情が出てきて、もしかすると泣いて終わるかもしれないし……。それも自分の中でも分からないんですよね。33年間プレーヤーでやってきて、それが急になくなるわけで、いまだに想像ができないです。
──最後に、ファンの方々にメッセージをお願いします。
最後の年なので今まで以上に会場に来ていただいて、チームと僕の背中を押してもらいたいです。そして僕が試合に出たときは盛り上げてもらえたらうれしいです。