
昨シーズンは29勝31敗、西地区4位という結果に終わった大阪エヴェッサだが、指揮官の藤田弘輝ヘッドコーチは結果よりも内容にフォーカスしたシーズンだったと強調する。「内容」の中心にあったのはクラブのカルチャー作り。大阪がこれから目指すべき姿とそのベースを構築した昨シーズンを振り返ってもらった。
ブレることなく戦い続けられた昨シーズン
──昨シーズンの成績をご自身の中でどのように受け止めていますか?
もちろん勝利数は満足できるような結果ではなかったですが、大阪エヴェッサの新しいヘッドコーチとして、チームを『チーム』、『カルチャー』、『バスケット』の3点でどのようにしたいかを考え、作り上げていくシーズンととらえていたので、その観点からすれば、60試合を通じてブレずにやり続ける姿勢を見せられたシーズンだったと思ってます。
──どのようなところを軸にバスケットを作っていった結果、ブレずに戦い続けることができたのでしょうか。
ディフェンスを本当に愚直に頑張りました。『ハードワークをする』『フィジカルに戦う』、この2つをディフェンスのベースとして掲げて、自分たちの軸としました。本来であれば、スカウティングを遂行して「相手がこのように攻めてきたら、このように守ろう」という、対策を練って戦うのですが、それよりも、シンプルなことをどれだけハードにやり続けられるか、自分たちが自分たちに挑戦したシーズンになったと思っています。練習からハードにプレーしたシーズンでもあり、そのおかげで課題も多く挙がり、今年はその課題をどのように修正していくのかがカギになります。
──ハードワークをメインテーマに掲げた理由を教えてください。
今野さん(今野翔太ゼネラルマネージャー)から「大阪のカルチャーをハードワークにすることを最優先事項にしてほしい」と言われていたので、これを基盤にできるようなカルチャー作りを一番のフォーカスポイントにしてシーズンを戦いました。
強いチームは「自分たちはこういうバスケットをします」、「こういうシンプルなところを大事にします」という自分たちのアイデンティティを持っています。それはとても大事なことです。そしてこれは僕の主観かもしれませんが、Bリーグでディフェンスをハードにしないチームが優勝した姿を見たことがありません。ディフェンスに対してのハードワーク、フィジカリティ、インテンシティを高く保つことは、チーム作りで一番大事にしていきたかったポイントになります。そのために今シーズンはまずはアイデンティティ、そしてチームカルチャーを構築するシーズンとして推し進めました。
戦術的要素よりハードワークや愚直にディフェンスをすることを優先することは、戦術をしっかりと練って戦い、良い試合をして勝つというプロコーチの至上命題に反する部分でもあったので歯がゆさはありましたが、「今シーズンはベースを作るぞ」という強い気持ちを持ち、「今年にやったことが来年につながる」と信じてやり切りました。
──2023-24シーズンまで指揮をとっていた仙台89ERSでは、B2から這い上がってきたアンダードッグ精神や「GRIND」というカルチャーを足がかりに、成績は右肩上がりでした。藤田ヘッドコーチ自身も理想的なチーム作りを進めているように見えました。大阪への移籍を決められたのはなぜだったのでしょうか。
……そうですね。まず、そもそも仙台というチームは僕の前に桶谷大さん(現琉球ゴールデンキングスヘッドコーチ)が3年間ヘッドコーチをされていて、僕がカルチャーを作ったというよりも桶さんや当時の社長、長く所属していた選手たちが構築してきたカルチャーに、僕がちょっと自分のカラーを乗せたというのが実像です。仙台のカルチャーは非常に成熟してましたし、アンダードッグ精神も僕の人としての根底部分にすごく合っていました。街の居心地もとても良くて、カルチャーを少しずつブラッシュアップしていく作業も職人気質の自分としてはすごく好きでしたし、家族も仙台を好きでいてくれました。
──それでも今野GMのラブコールに応えられた。
正直、仙台を出るつもりはありませんでした。ただ、今野さんが持つ熱い気持ちに心を動かされました。そして伝統あるクラブを一から再構築させてもらえる、クラブのカルチャーを作らせてもらえるということに強い魅力を感じ、オファーを受けさせてもらいました。今野さんのことは今野さんがエヴェッサの選手だった頃から知っていて、泥臭くハードワークするプレースタイルが好きでしたし、身体つきを見ても「ウエートをめっちゃ頑張っているんだろうな」という印象だったので。立場が選手からGMに変わっても、チームを良くするために自分ができることに尽力しようという姿勢と情熱は変わっておらず、それこそがエヴェッサというチームを体現していると感じました。
──今野GMからの「ハードワークするカルチャーを作ってほしい」という要望に、何か自身でプラスアルファの要素を乗せようという考えはありましたか?
一点集中型で、まずはハードワークの習慣付けを徹底しました。練習前後のワークアウト、練習に対する準備の仕方、練習中のフォーカス、インテンシティレベル……。試合中はもちろんのこと、このような場面でハードワークを心がけることは「シュートが入る、入らない」というような時にコントロールができない部分とは違い、自分たちで選択できる。だから常にコントロールして100%を出し切るというマインドになれるようにコーチングをしていきました。

インテンシティを高く持つ重要性
──シンプルに、そして愚直にディフェンスをするということは、シンプルだからこそ難しいことだと思います。どのように選手に落とし込んだのでしょうか?
ディフェンスに限らずバスケットの全体として高い強度を目指していたので、楽な練習はなく、フィジカルさを強調するようなブレイクダウンドリルやフルコートのオンボールのディフェンスのドリルなど、かなりタフなドリルを行いました。また、5対5では高い強度を保ちながら細かいディテールを求めました。シンプルなドリルや練習にどれだけ集中し、ハードにエクスキューションできるかということを意識して、試合で再現性を持つことを大事にしていました。
──ハードで愚直なディフェンスを60試合通じて行うには、フィジカル的にもメンタル的にも強靭なモチベーションが必要になりますが、この点はどのようなマネジメントをしていきましたか?
おっしゃる通り、60試合という長い道のりの中に水曜ゲームも重なり、特に4月はびっくりするほどの試合スケジュールで、強度を保つのはすごく難しかったです。インテンシティが下がってしまった試合もありましたし、なかなかうまく上げていけないという試合もあった中で、なるべく選手へアウトプットをしました。「強度が下がってるよ」「インテンシティが下がってるよ」と直接的に伝えることもありましたし、「きついけど頑張ろう!」という投げかけもして、プッシュをしました。
──そういった声かけは他のコーチも行っていましたか?
自分はどちらかというと思ったことをガンガン言うタイプですが、アシスタントコーチ陣には映像を用いて、「ここのディナイディフェンスを頑張ろう」とか「もっとここのボールマンピックアップできるよね」といった具体的な側面からアプローチをしてもらいました。選手も頭では分かってるけど身体が動かないという状況は大いにあると思いますが、「少しでもエフォートを出してほしい」ということを伝えてもらったりしていました。
──かなり細かく、インテンシティを下げないディフェンスをすることにこだわっていたのですね。
例えば、リバウンドが強いセンタープレーヤーがガードプレーヤーと同じくらい足を動かすのは簡単なことではありません。反対にガード陣がセンターと同じくらいリバウンドを頑張れるかといったらそうではない。そこには選手の特性や役割があるので、それに合わせた言い方をしていました。チームディフェンスとしては「フルコートでピックアップできなかったらスリークォーター、それができなかったらハーフコートから守ろう」と、常にハードに行わなくても良いという言い方をするときもありました。ただ、「引きっぱなしはやめようね」というのが大前提にあります。いろいろな角度から大事なことを伝えて、インテンシティを下げないように心がけていました。