平面のスピード重視、独自のディフェンス戦術を追求
22勝、24勝、40勝、57勝、68勝での優勝──。この5年間のサンダーの歩みは驚異的でした。普通は何度もつまづき、後退し、作り直し、そんな試行錯誤の果てに優勝争いがあるものですが、右肩上がりに成長してきたサンダーのチームビルディングの素晴らしさは群を抜いています。
2019年のオフ、サンダーは突如としてラッセル・ウェストブルックとポール・ジョージの時代に別れを告げ、シェイ・ギルジャス・アレクサンダーの獲得を含めたトレード実行しました。トレードで加わったクリス・ポールやデニス・シュルーダー、そしてスティーブン・アダムスといった実力者が残っていたため、プレーオフへ進むチーム力を持っていましたが、その2019-20シーズンが終わると主力を放出してドラフト指名権を集めるトレードへと踏み込みました。
同時にヘッドコーチも当時35歳のマーク・ダグノートが就任し、本格的に再建が始まります。2020年のロスターで今もチームに残っているのはシェイとルーゲンツ・ドート、ケンリッチ・ウィリアムスの3人だけですが、そのチームスタイルは現在へと脈々と続いており、若い選手が加わってもベースとなる戦術への共通理解を深め、サンダー独自の戦い方が作られてきました。
スモールラインナップで高さよりも平面でのスピードを重視したサンダーのディフェンスでは、積極的なプレッシャーと早いカバーリングが徹底されます。そのため個人に求められるのは判断の早さと、ポジションレスに守れること。同時にこのチーム戦術では誰もが守れる必要があるため、ディフェンスに難がある選手は淘汰されていきました。
スモールラインナップ自体は珍しくありませんが、ディフェンスのために使うチームは少なく、それも特定の選手がキーマンとなるのではなく、誰もがオールラウンドに守れることを要求するチームはサンダーしかありません。3ポイントシュート全盛期に平面のディフェンスで対抗するのは理にかなっていますが、スピードにもフィジカルにも対応できる選手しか集めないチームビルディングは徹底されていました。
ただし、勝利を求め始めた昨シーズンにスモール戦術だけでは勝てない相手が出てくることを認識すると、今シーズンはアイザイア・ハーテンシュタインを補強し、NBAファイナルでもツインタワーからガード5人のスモールラインナップまで幅広いディフェンス戦術を駆使するようになりました。こだわり続けてきた独自のディフェンス戦術と、対応力を重視した柔軟性の双方があって、強烈なディフェンスチームが完成したのです。
補強ではなく既存の選手の成長でシューティングを克服
オフェンスでは一貫してドライブアタックとキックアウトの組み合わせで戦術を構築してきました。フロアを広く使ってドライブで切り崩し、ヘルプが来ればキックアウト、パスを受けた選手は3ポイントシュートが打てなければ再びドライブ。その繰り返しをベースとしたオフェンスは、ドライブやパス能力だけでなく、アタックするスペースを作ることと、シューティングのために空いたスペースへ飛び込んでいくオフボールの理解度も重要でした。
シーズンを重ねるごとにポジショニングと連動性を向上させ、誰がコートに出ても、それがスモールラインナップでもツインタワーでもバランスを保ってプレーする戦術理解を深めていきました。特にベンチには特定の武器を持つ選手を揃え、試合展開に応じた使い分けるのは、若いチームとは思えない成熟度です。
オフェンスもディフェンスも早い段階で形ができていたサンダーでしたが、プレー精度を高めるのに時間がかかりました。特に問題だったのはドライブとキックアウトを中心にしながら3ポイントシュートの精度が低いことで、その成功率は2020-21シーズンがリーグ29位、2021-22シーズンは30位と散々な結果でした。それが2022-23シーズンに17位に上がると、ここ2シーズンにはリーグトップの成功率へと劇的に改善されたのです。
ディフェンス力が第一のチームビルディングにおいて、シューティング能力の高い選手は集まりません。30%台前半だったドートが今シーズンは41.2%を記録するなど、補強ではなく既存の選手の成長で問題を乗り越えました。
勝率は低くても基盤となる戦術を早期に固めていたサンダーは、一貫した評価基準で若い選手を集め、弱点は安易な補強ではなく個人能力の向上で克服しました。5年という時間を長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれですが、ブレないチームビルディングこそが優勝の原動力でした。