
ロケッツ「変更を行うためのハードルは非常に高い」
NBAファイナルの裏で、ケビン・デュラントを巡る移籍の噂が注目を集めている。
36勝46敗の西カンファレンス11位、ラスト10試合で1勝しか挙げられずにプレーインにも進めなかったサンズは、チーム再編を必要としている。しかし、生え抜きのデビン・ブッカーを動かす勇気はなく、ブラッドリー・ビールはトレード拒否条項付き。デュラントを含めたこの3人で来シーズンの年俸は1億6000万ドル(約240億円)となり、それに続く4番手はグレイソン・アレンの1600万ドル(約24億円)に過ぎず、デュラント放出以外に再編の手がない状況だ。
もともとデュラントの移籍先はロケッツが有力とされていた。しかし、イメイ・ユドカの下でロケッツはパワフルに戦えるチームとなり、今シーズンは西カンファレンス2位と躍進。プレーオフではウォリアーズとの『GAME7』の末にファーストラウンド敗退となったが、若いチームにはまだ成長の余地が大きい。
1年前のロケッツは、若いコアにデュラントを加えて優勝争いができるチームへとジャンプアップを狙ったが、サンズとの交渉はまとまらなかった。それでもチームが成長し続けた今、ラファエル・ストーンGMは「変更を行うためのハードルは非常に高い」と語る。ロケッツのシーズン終了から1カ月、『The Athletic』によればサンズは何度かデュラントのトレードを打診し、そのたびに対価を下げているにもかかわらず、ロケッツは乗ろうとしないという。
今のロケッツが必要としているのは、中長期的にチームを強化し、タイトル獲得に貢献できる選手だ。今オフに37歳となるデュラントは、この1年リーグ屈指の実力をキープできているものの、その先となると期待よりもリスクが大きい。そして今、ヤニス・アデトクンボが市場に出てくるかもしれない状況で、彼らはそれを待っている。
一方で、同様に再建を経たスパーズがデュラント獲得の最有力候補になろうとしている。ビクター・ウェンバニャマにステフォン・キャッスルと2年連続でルーキー・オブ・ザ・イヤーを出し、今シーズン途中にはディアロン・フォックスを獲得。今年のNBAドラフトでも2位指名権を持っている。ロケッツと同じように再建が軌道に乗り始めた若手中心のチームだが、スパーズの成熟度はロケッツより1年か2年分遅れている。発展途上だからこそ、デュラントのようなベテランの力が必要とされている。
スパーズは若いコアにプレーオフの経験を積ませたい
デュラント獲得において障害となる彼の年齢と高年俸を、スパーズは受け入れることができる。トレードで放出するのはデビン・バッセルを軸に、ハリソン・バーンズあるいはジェレミー・ソーハンやブレイク・ウェスリーといった選手の組み合わせ。このトレードを行わなくても、スパーズはいずれ彼らを引き留めておけなくなる。
今の契約が切れる2026年以降もデュラントをキープするのは難しく、中長期的な戦力とはみなせないが、ウェンバニャマの契約延長を考えるとサラリーキャップに余裕を持たせておくのも大事だ。バッセルの契約は残り4年で、デュラントの契約は巨額ではあってもあと1年。むしろサラリーキャップへの負担は軽減されると言っていい。
サンズが欲しいのは指名権だろうが、それも最小限の提示で済むだろう。ロケッツが静観を決め込んでいる以上、デュラントを獲得できる他のクラブはそう多くない。今年の2巡目指名権は保持しつつ、サンズの足元を見て交渉を進めればいい。
フォックスとキャッスルの2ガードに、バッセルを放出してもスモールフォワードにはケルドン・ジョンソンとジュリアン・シャンペニーがいる。そしてデュラントとウェンバニャマ。今回のドラフトではディラン・ハーパーを指名することもできる。今の選手たちが成長し、補強も加えてベンチの層を厚くできれば、プレーオフでそれなりの結果が期待できる。
とはいえスパーズはいまだ経験不足で、直近の1年か2年で優勝できるかと言えば、それは難しい。それでも、この時期にデュラントの力を借りて、若いコアがプレーオフを経験することには大きな意義がある。
デュラントは優勝に必要なピースではなく、若いコアにより良い経験を積ませるための補強としてスパーズに行く。キャリアを通じて自分で所属先をコントロールしてきた彼が、それを受け入れるかという問題はあるが、今の移籍市場を見る限り、ワガママは言っていられない。
サンズは先が見えないチームで、すでに2月に彼を放出しようとしており、デュラントが残りたいとは思わないだろう。スパーズが彼を戦力として評価し、契約最終年の5470万ドル(約82億円)を負担しようとしている以上、彼も『NO』とは言わないはずだ。