西村文男

諸刃の剣となった、背中で見せたディフェンス

千葉ジェッツは2年連続同一カードとなったアルバルク東京とのファイナルに67-71で敗れ、悲願のリーグ優勝達成はならなかった。

無得点に終わった西村文男は普段の力を出しきれなかったことを、ファイナルから1週間以上が経った今も「あまりにもチームに貢献ができず悔しかった。まだ引きずっています」と悔やむ。

前半は拮抗したが、第3クォーターに大きく突き放されたことが敗因となった。経験豊富な西村は、ベンチから戦況を見守っている中で危機感を感じていたという。

「試合を見ながらいつも評価するんですが、アルバルクさんのディフェンスの方が少し強度が上だなと感じたんです。蓋を開けてみないと分からない部分があって、試合が始まった時に、ちょっと向こうの方が上だから、このままじゃちょっとマズイと思ったんです」

危機を察知した西村は、いつもとは違うやり方でチームのスイッチを入れた。「ディフェンスでもうちょっと強度を上げて、流れを作りたかったんです。だから、自分が出たタイミングで少し背中で見せて。最初はそれが成功して、向こうにタイムアウトを取らせました」

西村がそう言うように、千葉は第2クォーター開始2分間で7-0と走り、流れをつかみかけた。だが、激しいディフェンスは諸刃の剣となり、西村の体力を奪った。「いつもはオフェンスを上手く組み立てて流れを作るタイプだと自分でも思ってたんですけど、あの日だけはディフェンスで見せなきゃマズイなって思ったんです。それが自分のコンディションで裏目に出てしまって」

「ウチに流れが来た時に疲れすぎてガタって弾けちゃったんです。いつもだったら自分でキープして、ドライブに行くところで足が動かなくなっちゃって。そういうのもあって悔しさが残る試合でした」

西村文男

「勝てる自信も、悔しさも昨年とは全然違います」

昨シーズンのファイナルでは25点差の大敗を喫した。今回も最大で19点のビハインドを背負うなど、昨シーズンの悪夢がよぎった人も多かったはず。それでも富樫勇樹を中心に反撃に転じ、終盤に2点差まで迫る粘りは見せた。

「盛り返したのが今年の強さだったと思います。去年は少しのズレからウチが崩れました。崩れずにあの点差まで持って行けたことが、今シーズン積み上げてきたモノかな」

千葉は過去最高勝率でレギュラーシーズンを終え、その60試合で積み上げてきたモノが終盤の反攻を生んだ。自信を持って臨んだ試合だっただけに、悔しさも昨シーズンとは違うものがあると西村は言う。

「今年は積み上げてきたもの、シーズンで結果を出してきたものがあったから自信がありました。だからこそ、勝てる自信も悔しさも、昨年とは全然違います。毎回決勝に行けるかなんて分からないじゃないですか。今年は余計に取りたいと思っていたので、ショックでしたね」

西村文男

「バスケを辞めたら、バスケに携わることはないと思う」

それでも、いつまでも敗戦のショックを引きずっているわけにはいかない。西村も「新しい家族(犬)も増やしたところですし、切り替えていこうかと」と、前を向いている。そして、オフの期間は、バスケットから一度離れるそうだ。

「副業じゃないですけど、洋服とイベントをやらせてもらっています。そういうのでオフを忙しくして、一回バスケから離れたい。年中バスケのことばっかり考えていると、絶対にメンタルがもたないので」

オフの期間にバスケから離れる選手はもちろんいるが、西村のように、オフにバスケ以外の『仕事』をする選手は少ない。だがこれは、引退後も見据えた上で、「自分に付加価値をつけたい」という確固たる思いがあっての行動だという。

「持論ですけど、みんなバスケットを辞めたらただの人だと思うんですよ。そうなりたくないんです。若いうちだったり、可能性があるうちにいろんなことに手を出したい。僕の場合、何が好きかと言ったら、洋服だったので」

多趣味な西村であれば、引退後もバスケ関連で仕事が舞い込む可能性は少なからずあるはずだが、「僕はバスケを辞めたらバスケに携わることはないと思う」と、西村は言う。

「もしバスケ以外のことが将来的に軌道に乗ったりして、やっていけるのであればそっちに行く可能性も高いです。いろんな世界を見て回りたいと今の時点では思っています」

どんな職種であろうが、先を見据えて行動することはその先の成功に繋がる。そして、西村の場合、こうした行動が本職であるバスケ選手としてのモチベーションにも繋がっているのだ。

「ある意味、そういうことをやることによって、バスケットを頑張らなきゃという自分へのプレッシャーにもなるんです。洋服がどんなに上手くいってたとしても、バスケットで結果を出さなかったら叩かれるのは分かっているので。やっぱり何年もプロをやっているとメンタルの浮き沈みがあるんです。そういう意味では、常に高いモチベーションを保つためにという意味でも、洋服をやってて良かったなって思います」

敗戦のショックをバスケ以外の仕事の忙しさで紛らわせる西村。そして、その仕事に真摯に取り組むことは、バスケとの向き合い方にも好影響をもたらしている。正のスパイラルに乗る西村に、今後も期待したい。