
三遠でステップアップ「学びになるシーズンでした」
いよいよ明日からBリーグは今シーズンの王者を決めるファイナルがスタートするが、セミファイナルで琉球ゴールデンキングスに惜しくも敗れたのが三遠ネオフェニックスだった。
ゲーム1を87-85で制した後、ゲーム2では大黒柱の佐々木隆成を序盤に負傷退場で欠く中、終盤に逆転して勝利が目前に迫っていた。だが、琉球の松脇圭志にBリーグ史上に残る劇的ブザービーターを決められ、オーバータイムに持ち込まれて敗戦。ゲーム3も競り負け、あと一歩でファイナルを逃した。
大きな悔しさが残るエンディングとなったが、それでも2シーズン続けて中地区優勝を達成し、昨シーズンのクォーターファイナル敗退から今シーズンは、セミファイナル進出。この着実なステップアップに大きく貢献したのが、今シーズンから加入した吉井裕鷹だ。
2023年のワールドカップ、2024年のパリオリンピックと日本代表の主力として活躍している吉井だが、これまでの所属先だったアルバルク東京では出場機会に恵まれず、昨シーズンのチャンピオンシップクォーターファイナルの琉球戦では、3試合で出場時間ゼロに終わっていた。
それが今シーズン、三遠に移籍すると中心選手の地位を確立。セミファイナルでは1年前、同じ舞台でベンチから見ているしかなかった相手に対し、タフなディフェンスと3ポイントシュートで奮闘した。最終的にこのクォーターファイナルと合わせ、チャンピオンシップでは5試合で平均出場時間32.22分で14.6得点、3.4リバウンド、2.0アシスト、1.6スティール、3ポイントシュート成功確率は48.5%の大活躍だった。
もしNBAのように前年から最も成長した選手に贈られるMIP賞があったなら、前年のレギュラーシーズン平均1.6得点から11.3得点へと大幅にスタッツを伸ばした吉井が満場一致で選ばれていただろう。日本代表と同じようなパフォーマンスをBリーグでも見せる飛躍の1年となったが、優勝という目標を達成できなかったことで吉井に満足感はない。
「良いシーズンだったと思いますが、プロの世界は結果がすべてです」
このように吉井はシーズンを総括する。ただ、「学びになるシーズンでした」と大きな収穫を得たのは確かだ。「アルバルク時代も毎年、目に見えない役割の違いがあり、それをやり続けることで成長していたと思います。それが三遠でまた違う役割を得て学びを得られました。来シーズン、これまでの5年間を基盤にまたよいシーズンにしていきたいです。毎年、自分自身、成長していると感じています」

「勝負を決する時間帯にずっと出続けられた」
この1年における吉井が成長した代表的な部分は、Bリーグの強豪クラブ相手においても中心選手として試合終盤でコートに立てる存在となったことだ。そこには本人も確かな手応えがある。「開幕節の琉球戦、勝負を決する時間帯で出られなかったことがありました。その時、大野さんから試合終盤に出続けられるための考え方やあり方をもっと学ばないといけない、と言われました。この3試合、勝負を決する時間帯にずっと出続けられたので、結果として見た時、成長しているのかなと思います」
ちなみに吉井は会見において、じっくりと言葉を選びながら話すタイプだ。しかし、個人ではなくチームへのコメントを求められると一気に饒舌になる。
「今シーズンの三遠は本当に良いチームでした。コーチ陣、選手たちと一言も言い訳せずにやり切ったことを誇りに思います。間違いなくタフに戦い続けられる選手が揃っている。それをうまく生かす戦術、自分たちがこれをやろうといった時に遂行させる力があります」
こう語る吉井は、一見すると個での突破が目立つ外国籍選手も三遠はチームファーストで献身的だと強調する。「みんなエゴがない良い選手ばかりです。デイビッド・ヌワバも一人で打開しているように見えて、これは戦術です。デイビッドに攻めさせようという戦術の下、彼は攻めているので1mmもセルフィッシュではなく、めちゃくちゃよい選手です。ヤンテ・メイテン選手も相手チームに2人ビッグマンがいても守り切りますし、ファイターです。自己中な選手が本当にいないのはよいチームと言える要因です」
タイトルという唯一の目標に届かなかったことで、吉井の今シーズンは満足できるものではなかった。だが、心から信頼するチームメートと一緒に戦った日々は充実し、自身の確かな成長を感じることはできた。
来シーズンこそ、完璧なシーズンを送るため、吉井は「フリーでもらった3ポイントシュートを百発百中で決め切るくらい、シュートを打ち込む。ディフェンスでキーマンに付いても自分の目の前では一点も取らせない。あとは絶対に指示通りに動くことなどです」と、一切の妥協を許さずさらなる進化を誓う。