Bリーグは3月上旬と4月上旬の理事会で来シーズンのクラブライセンス交付の判定を行った。多くのクラブが『改善要求』付きの交付となった一方で、東京エクセレンスと鹿児島レブナイズにはB2ライセンス不交付という驚きの発表もなされた。
プロバスケットボールクラブにおける育成面・施設面・選手環境面などを、プロリーグとしてふさわしい水準に保ち、さらに発展させることによって、リーグ・クラブの価値が向上することを目的とする。
また、財務面では無理な投資を抑制し、ガバナンスを改善させることによって、クラブが社会的に信用され、地域に根付き、永続的に存続できることを目標とする。
Bリーグはクラブライセンス制度の目的をこのように掲げているが、バスケ界にはまだその目的や理念が浸透していないようにも思える。Bリーグの大河正明チェアマンに、クラブライセンス制度についてあらためて語ってもらった。
「各クラブの経営者の感覚が変わってきています」
──クラブライセンス制度はそもそもサッカー界の制度ですよね。
制度としてはドイツが発祥です。プレーの質や若手育成の仕組みだったり、施設を充実させたり、財政基盤をしっかり整えるとか、組織ガバナンスを働かせるとか……。いろんなものの質を向上させるためのものです。ドイツでうまく行っていた取り組みをFIFAが採択して、様々な国に広まっていった。その中でJリーグも導入しました。それで言うとドイツではバスケのブンデスリーガでも採用されています。
──現時点でクローズアップされるのは、やはり各クラブの財務監査とホームアリーナの要件の2点となります。まず各クラブの財務監査ですが、どんな方法で審査しているのですか?
まずは確定申告書という決算書、財務諸表を提出してもらいます。それから予算書、資金繰り表。その上で、この予算が本当に達成可能なのか、その妥当性をクラブと向き合いながらチェックします。普通の企業が監査法人や公認会計士に入ってチェックしてもらうのと同じですね。
──日本のバスケ界ではクラブの倒産・消滅がたびたび起こっていた過去があり、不安定な経営に慣れてしまって危機感が薄いように感じます。
そうですね。「11月になったらマイナス5000万円」なんて資金繰り表を出してくるクラブも最初はありました。シーズン途中でクラブがなくなるということは、リーグ戦が成り立たなくなるということです。それは自分たちの価値を落としているわけで、絶対に回避しなくちゃならない。でも、この短期間でずいぶん変わっているんですよ。
──変わってきた実感は、どのような部分で得られていますか?
ライセンス制度を導入する前、1部から3部の階層分けをする時点から向き合っているので、各クラブの経営者の感覚が変わってきています。もちろん、最初からちゃんとしていたクラブもありますが、以前は取締役会が存在しないようなところがあったのも事実です。そこに核となる人物が現れ、取締役会を機能させて自分たちの事業計画が正しいのかどうか、そして収入と支出のバランスをどう取っていくのかを毎月チェックするような、そういった仕組みを入れたチームは短期間で驚くほど進歩しています。
──スピード感はありますか?
階層分けから2年近くたちますが、少なくともB1に関してはほとんどのクラブが健全になりました。B2ではまだちょっとしんどいクラブが残っていますが、それでもJリーグで私が3年かけてやった時よりも短期間でキャッチアップしています。Bリーグのほうが事業規模が小さい、特に支出の多くを占める選手やコーチ陣にかかる人件費、プロ選手数が少ないこともあって安く済むので、ちゃんとやれば収入と支出のバランスをコントロールしやすい面はありますね。
「監査するだけじゃなくアドバイスもしている」
──個別の状況も差し支えない範囲でお聞かせください。まずはレバンガ北海道ですが、一般的に出ている情報は「単年だと2000万~3000万円の黒字、だけど債務超過が2億円ある」。これだけ聞くと2018年6月までに債務超過を解消するのはかなり厳しいように感じます。
北海道はまず、これまで利益を出したことのないクラブなのですが、今年の決算で初めて利益が出る見込みです。懸念しているのは、現在も過去の累積債務が2億超あることであり、当該債務に関しては、2018-19シーズンのB1ライセンスを取得するためにはすべて解消しなければなりません。そのためにクラブとして利益をあげていくとともに、持株会による増資など様々な方向から資金調達を図り、計画に基づいた債務超過の解消を目指していただきたいと思っております。
──リーグとしては監査をするだけじゃなく、そういったアドバイスもしているんですね。
もちろんです。鹿児島に至ってはもう1カ月ぐらい職員を派遣していますから。
──その鹿児島レブナイズですが、今の状況はいかがでしょうか。結論としては「経営がダメだった」ということだとは思いますが……。
ライセンスというのは基本的にファクトを基に、論理的に蓋然性をもって進めなくてはなりません。その時の理事会の温情で白になったり黒になったりするのでは長続きしません。つまり「B2ライセンスを取るためには今年の総収入、事業規模が1億円ないとダメです」という話です。
ご存知の通り、資金繰りが足りないかもしれなかったので、それに備えて1500万円の融資枠を設けました。「これを使わずに済んだからB2ライセンスを交付してもいいだろう」という話にはなりません。定量的な線引きがあって、そこに達するか達しないかを基準にしたい。そこに達していないチームにライセンスを交付したのではモラルハザードが起きてしまう。そこは「頑張っているのにかわいそう」という問題ではないと考えています。
──「鹿児島が危ない」という情報はリーグとして得ていましたか?
去年の秋ぐらいからクラブが新スポンサーを見付ける努力をして、リーグも向き合ってきました。しかし、2月頃に新スポンサー候補企業が、最終的に鹿児島の経営に参画しないという決断をされました。そこでシナリオが崩れてしまった。
逆に言うと、崩れたがゆえに「そこには頼らない」と腹をくくって、次は「B3でもいいから鹿児島にプロチームを存続させたい」、「そのためにできることは何か」と切り替えました。我々も職員を派遣し、その他にもチケット担当や財務のプロを交互に送り込みながら、懸命な立て直しをしてもらっています。アリーナはちゃんとしたものがあるので、財務基盤を整えていけばB3でやっていけます。そして成績さえ良ければB2に戻って来る可能性は出てきます。
「ここは苦しくてもやらなければならないんです」
──もう一つ気になっているのが川崎ブレイブサンダースです。B1ライセンスが交付されましたが、東芝があの状況では非常に際どい立場にいるのではないでしょうか。
具体的な話はまだ何もありません。東芝さんはもともと、野球部、ラグビー部、バスケットボール部を持っていました。野球部とラグビー部は会社の運動部ですから、会社が廃止すると決めたら廃止になってしまう可能性があります。一方で川崎ブレイブサンダースは運営法人を持った別法人ですから、廃部という概念はありません。
──各クラブの経営状況について、リーグが監督・指導する目的をあらためて教えてください。Jリーグも過去は横浜フリューゲルスの消滅を筆頭に経営面でのトラブルが続きましたが、クラブライセンス制度の導入で状況は格段に良くなったと思います。
Jリーグではクラブライセンス制度の導入直前に、大分トリニータが12億円ぐらいの債務超過になり、6億円をリーグで融資する緊急事態がありました。そして東京ヴェルディが潰れそうだという問題があって。その後、各クラブの財政基盤を整えるのに3年ぐらいかかりましたが、ガバナンスは各段に向上しました。今は小さな問題は出るとしても、経営として行き詰まるような話は出ていません。
最初の何年かはサッカー界も「産みの苦しみ」がありました。自治体に出資してもらっているとか行政の持ち物であるスタジアムを優先的に貸してもらっているにもかかわらず、赤字が垂れ流しで、いつ倒産するか分からないのではまずいですよね。JリーグもBリーグも、経営の透明性だとか財務の健全性は絶対に求められます。Bリーグについても、これはバスケ界全体の信用問題ですから、ここは苦しくてもやらなければならないんです。
【後編】
大河正明チェアマンが語るクラブライセンス制度とBリーグの未来
「300万人の300億、これで中国やイランと戦う」
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