デビン・ブッカー

サンズ新GMはオーナーの学生時代のアシスタントコーチ

サンズはレギュラーシーズン終盤に8連敗を喫し、2試合を残してプレーオフ進出の可能性が潰えた。デビン・ブッカーとケビン・デュラントを擁し、リーグで最も高額の選手年俸を支払いながら、西カンファレンス11位に終わると、ただちに指揮官マイク・ブーデンフォルツァーの解任が発表された。

ブッカーは今シーズンを「少しずつ悪くなっていった」と振り返る。ここから心機一転、新たなシーズンに向けて再出発を図りたいところだが、チームを取り巻く雰囲気はその後さらに重苦しいものになっている。

その理由はGMの人選だ。ジェームズ・ジョーンズGMは退任してシニアアドバイザーとなり、新たなGMになったのがブライアン・グレゴリー。デイトン大、ジョージア工科大、サウスフロリダ大で20年間ヘッドコーチを務めた人物だが、その経歴でカギとなるのはミシガン州立大のアシスタントコーチだ。彼がアシスタントコーチを務めた2000年に同チームはNCAAトーナメント制覇を果たしており、その時にベンチの隅に座っていた出場機会のない控えガード、マット・イシビアが、その22年後にサンズのオーナーになった。

イシビアはこの3年間、ミシガン州立大で30年間指揮を執る名将トム・イゾーの名前を何度も出し、「イゾーがあと10歳若かったらサンズのヘッドコーチにしていた」と冗談を言っていたが、それは半ば本気だった。イゾーがダメならグレゴリーで、ヘッドコーチがダメならGMで。イシビアは気心の知れた『仲間』をサンズの重役に就けた。

この人事はファンや地元メディアからの大反発を受けている。2020-21シーズンにはNBAファイナルに進出したサンズは、イシビアがオーナーになってから度重なる現場介入があり、そのすべてが裏目に出て弱体化が進み、ついに今回はプレーオフ進出さえ逃した。

グレゴリーのGM就任も悲劇的な結果を生むと予想されている。それはNBAでの経験も知見も不足しているからだ。グレゴリーが20年間育てた選手でNBA入りした選手は5人しかいない。その全員が5年もたずにNBAを離れている。

忍耐を知らないオーナーの現場介入にファンは嘆息

NBAレベルの選手と接する機会を持たなかった者に、チーム編成が務まるのだろうか? イシビアは「グレゴリーにはこの1年の経験がある」と反論する。グレゴリーは昨年にサンズのコンサルタントに就任し、選手たちとコミュニケーションを取り、遠征にも帯同したという。だが、これを聞かされた地元メディアは首をかしげた。グレゴリーのコンサルタント就任は公に発表されていなかったからだ。

もしかすると、グレゴリーには隠された知見があるのかもしれない。大学バスケで得た理論や経験が生きる可能性もある。だが、イシビア体制下のチームが年々弱くなっていくのを目の当たりにしているファンやメディアは、イシビアのやることすべてが失敗するものだと思っている。この3年間、何一つとして成功していないのだから、それも当然だ。

イシビアは我慢を知らない。何か問題があれば即座に解消しようと動く。それは住宅ローンの会社を経営するビジネスでは有効かもしれないが、NBAではマイナスにしか働かない。失敗のたびに拙速な手を打ち、そのたびに有望な若手やドラフト指名権を流出させ、新戦力は期待を大きく裏切るパフォーマンスしか見せられない。

チーム作りには長期的な視野が必要で、つまり我慢強くなければいけないのではないか。会見でそう質問されたイシビアは堂々とした態度を崩すことなく「忍耐は私の得意とするところではない」と答えた。「間違いを犯した時はできる限り早く修正すべきだ。常に何かを試し、失敗すれば方向転換する。我慢はできないが、私は常に誰よりも努力する。ファンに愛されるチームを作るつもりだ」

就任会見で「組織を構築する責任、チームのアイデンティティを作る機会を託してくれたオーナーに感謝している」と抱負を語ったグレゴリーに対し、地元メディアの最初の質問は「あなたの就任に反発があるのは分かっていますか? コーチとしてのキャリアはあってもフロントの経験はないのに、サンズのフロントで上手くやれると思いますか?」だった。

グレゴリーは「私が持つ知識と経験でこのチームにアイデンティティを作る」と回答したが、そこに具体性は感じられず、白けた空気が漂った。その彼はいきなり新ヘッドコーチの採用という極めて重要な決断を下すことになる。グレゴリーは逆風の中で仕事に取り掛かった。