「よく戦っただけにもったいない負けだった」

ピストンズの本拠地、リトル・シザース・アリーナは試合開始前から熱狂に包まれていた。ここでプレーオフの試合が行われるのは6年ぶりで、チームは3日前に敵地で2008年以来となるプレーオフでの勝利を挙げていたのだから、ファンが興奮するのも当然だ。ニックスとのファーストラウンド第3戦、前半を終えて53-66の劣勢から巻き返し、最後の最後まで食らい付いたが、あと一歩及ばず116-118で敗れた。

それでも最初の2試合がそうだったように、ピストンズの健闘は目立った。ケイド・カニングハムの才能は明らかで、ジェイレン・デューレンやアサー・トンプソンが若手らしい積極性で攻守のインテンシティを引き上げる。若手のチームと見られがちだが、実際は経験あるベテランがこのチームで復活し、重要な役割を果たしてもいる。

セブンティシクサーズで戦犯扱いをされたトバイアス・ハリスはカール・アンソニー・タウンズと互角に渡り合っているし、ジャーニーマンのキャリアを余儀なくされたデニス・シュルーダーが31歳にして誰よりも強度の高いプレーを見せている。

そしてこの第3戦でチームを引っ張ったのは、ティム・ハーダウェイJr.だった。19得点を挙げた初戦から一転して第2戦では無得点に終わり、勝利に沸くピストンズで一人だけ蚊帳の外に置かれた彼が、第3戦では今まで以上に積極的にシュートを放ち、3ポイントシュート7本成功を含む24得点を記録。苦しい展開の中でピストンズを引っ張った。

指揮官J.B.ビッカースタッフは終盤の不利な判定に納得していなかった。それでもハーダウェイJr.のプレーには「シュートを決めたのはもちろんだが、集中して試合に入り、ディフェンス面でもチームを引っ張ってくれた」と最大限の評価を与えている。

そのハーダウェイJr.は「ホームでプレーオフを戦う興奮は間違いなくあったけど、ミスが多かった。相手のディフェンスに引き起こされたものじゃなく、僕たちが勝手にミスをした。よく戦っただけにもったいない負けだったと思う」と試合を振り返り、「第4戦はもう始まっていると考えるべきだ」と前を向いた。

「次はファンが求める勝利をプレゼントしたい」

ハーダウェイJr.はNBAキャリア12年目の33歳。昨シーズンはマーベリックスでNBAファイナル進出に貢献したが、契約最終年を迎える前にピストンズへと放出された。振り返ればニックスは、2013年のNBAドラフト1巡目24位指名だった彼の最初のチームで、ホークスへの移籍を挟んで2度の在籍を経験しているが、2019年にクリスタプス・ポルジンギスのトレードの一部としてマブスに送られた。

長いキャリアの中でどんな起用法にも応え、コンスタントに結果を残しているが、便利使いされている感も否めない。それでも彼は、自分の置かれた場所でベストを尽くす。今シーズンのピストンズではレギュラーシーズン77試合すべてに先発起用され、その信頼に応えてきた。

彼は過去を振り返って不平を漏らしたりしない。ニックスとの対戦が決まった時にも「ニューヨークのファンは熱狂的だから、それに圧倒されるんじゃなく楽しもうと若い選手たちには伝えたよ」と、あくまで前向きに戦うことだけを考えた。

今回も自分たちのターンオーバーの多さは反省しつつ「今日はニックスの選手たちが良いプレーをした。それは認めなければいけない」と語り、不利な判定についても「あの状況にしたのがマズかった。判定云々ではなく自分たちで勝たないと」と問題にしなかった。

すぐに頭を切り替え、次の第4戦へと集中する。これが彼のやり方だ。「マインドセットもエネルギーも問題なかった。会場の雰囲気も最高だったよね。この環境でプレーできることにあらためて感謝したいし、だからこそ次はファンが求める勝利をプレゼントしたいんだ」

これでシリーズは1勝2敗となったが、東カンファレンス3位のニックスと6位のピストンズに大きな実力差があるようには思えない。若いコアをベテランが支え、全員がハードワークするピストンズは、間違いなくニックスを苦しめている。