自閉症の息子、アリーナで父がプレーする姿を初観戦
ジョー・イングルスは8シーズンを過ごしたジャズが再建に舵を切った2022年オフにNBAで初めて移籍を経験し、その後はバックス、マジック、ティンバーウルブズと1年ごとに移籍を繰り返している。
ウルブズと1年契約を結んだ今シーズンは、序盤からふくらはぎの肉離れで戦線離脱し、ここまで18試合、平均6分の出場と出番を失っている。どんな試合展開であれチームに貢献できるバスケIQの高いオールラウンダーも37歳となり、第一線から退きつつある。
それでも、ウルブズで彼の経験と人間性はリスペクトされている。そうでなければ、現地3月21日に起きたことは説明がつかない。
ホームでのペリカンズ戦、イングルスはジャズを離れてからの3シーズンで初めて先発に名を連ねた。試合が始まって、両チームで最初のシュートを打つなどアグレッシブな姿勢を見せる。3本放ったシュートは決まらなかったが、右コーナーで待つジュリアス・ランドルを見つけて、ドライブからのレイアップをアシストした。
イングルスがプレーしたのは6分間。最初のタイムアウトの時点でベンチに戻った彼は、観客席にいる彼の妻と3人の子供たちを見つめた。揃ってウルブズの7番のユニフォームを着ている子供たちの一人、ジェイコブは自閉症で、これまで父親のプレーを生で見ることができなかった。アリーナの光と音が彼には激しすぎたからだ。
それでも、彼は父親のプレーを見ようと頑張った。イングルスの家族は普段暮らしているオーランドからミネアポリスを訪れており、数日前の試合で初めてアリーナに来て、最初から最後まで試合を見ることができた。ただ一つ残念だったのは──イングルスが出場しなかったことだ。
ここでウルブズの指揮官クリス・フィンチは、驚くべき、しかし彼にとっては当然の決断を下す。家族揃って父親を応援できるよう、先発起用を決めたのだ。かくしてイングルスは3年ぶりに先発出場を果たした。
「感動的だった。時には人間らしいこともやらなきゃいけない」とフィンチは言う。「ジョーをプレーさせるアイデアが出た時、みんな賛成してくれた。全員がジョーの家族、特にジェイコブのために協力してくれた。そして私は、やるからにはスタイリッシュにやりたいと思った。こんな機会は滅多にないが、チーム全体を後押しする良いエネルギーになったと思う」
イングルスはほとんど戦力として機能していない。だがフィンチは、その存在がチームに不可欠だと語る。「どんな状況にも常に備えているのがジョーという選手だ。ロッカールームでの彼が話す内容と存在感、チームへの姿勢、リーダーシップ。それは特に若い選手にとって絶大な効果がある」
全員がそう理解しているからこそ、イングルスの先発起用は実現した。先発ポイントガードのマイク・コンリーも、大喜びでこの試合の先発を譲った。そしてザイオン・ウイリアムソン不在のペリカンズに134-93と大勝して、結果もきっちりと出した。
感動的な試合を終えたイングルスは「自閉症への理解を深め、同じ境遇の家族を支援する。そのために僕にできることは何でもやるつもりだ。これはお金で解決できる問題ではないし、理解すれば済む話でもない。僕たちにできることは、この問題について話すことだけ。そして僕は、ジェイコブがこの世界に溶け込むために最善のチャンスを与えたいと思っている」