「今シーズンへの期待が変わったわけではない」
移籍はそれが正式に決定するまでコメントすることが許されない。選手は気持ちをそのまま言葉にするケースも多々あるが、ヘッドコーチは概ねルールを守る。カール・アンソニー・タウンズのトレードが正式決定したことで、ティンバーウルブズの指揮官クリス・フィンチはようやくコメントを出せるようになった。「まずは何よりもKAT(タウンズ)への感謝を」が彼の第一声だった。
「彼との関係で最も重要なのは、私を温かく迎え入れ、チームが指導を受け入れやすい環境を作ってくれたことだ。私たちはすぐに打ち解け、私にとってはそれがこのチームでのベースとなった」
話はフィンチがウルブズにやって来た3年半前にさかのぼる。ウルブズの功労者であるフィリップ・サンダースの息子であるライアン・サンダースを指揮官に据えて、ヘッドコーチとしての経験を積ませながら若いチームを育成するプランをフロントが早々に撤回し、サンダースを解雇してフィンチを連れてきた。ウルブズでは誰もがサンダースを愛しており、フィンチは言わば逆風の中で自身初のヘッドコーチを務めることになった。
そこでフィンチの最初の味方になったのがタウンズだった。タウンズもサンダースのことが好きだったが、それでも私情を挟まず「球団がベストだと考える決定を下したなら、僕はプロフェッショナルとして新しいコーチを歓迎し、ともに前進する」と語った。この言葉が自分への逆風を打ち消し、仕事に集中できる環境を作り出したことをフィンチは忘れていない。
「こういうトレードを決める際に人間的な側面は考えないものだが、実際にトレードとなるとそれが真っ先に頭に浮かぶよ」とフィンチは言った。「このトレードがオフの早い時期に持ち上がっていたら、みんな時間をかけて良い面も悪い面もじっくり検討できただろう。だが、我々の仕事でタイミングを選べることはあまりない」
思うところは多々あるだろうが、フィンチの仕事はタウンズとの別れを嘆くことではなく、ジュリアス・ランドルとドンテ・ディビンチェンゾという新戦力を組み合わせて強いチームを作り上げることだ。
「ランドルは素晴らしいプレーメーカーで、ピック&ロールでボールを扱うこともできる。この何年かはクラシックなセンターと並んでパワーフォワードとしてプレーしてきたから、ウチで全く異なるバスケをするわけではない。順応に手間取るとは思わない」とフィンチは言う。
ディビンチェンゾについては、その3ポイントシュートの『質』だけでなく『量』にフィンチは期待を寄せる。「ウチは3ポイントシュート成功率は高くてもアテンプトが物足りなかった。それだけ確率が良ければもっと打つべきだ。限界を追い求める姿勢が欲しい」。ディビンチェンゾは昨シーズン、平均8.7本の3ポイントシュートを放って40.1%を決めた。ベンチから出るシューターとして、彼はウルブズでも存在感を発揮しそうだ。
記者とのやり取りでは興味深い質問があった。「KATのケガが今回のトレードにどれだけ影響しているか」という問いにフィンチは「それには答えられない」と答え、こう続けている。「ナズ・リードには大きな信頼を寄せている。チャンスを生かし、結果を出し続けているナズは、今後チームの中心選手となっていくだろう。ただ、今回のトレードは他にも多くのことを考慮しての決定だ。この2シーズンでKAT抜きで80試合ほどを戦ったが、彼のプレーや影響力を最小限に留められたかと言えばそうではないと思う」
「今回のトレードは多くの点で、また我々に必要だった部分を強化してくれる。将来に向けた柔軟性を得たが、今シーズンへの期待が変わったわけではない。昨シーズンの才能あるメンバーがほぼ残り、2人の素晴らしい戦力が加わった。選手層はかなり厚くなったと見ていいだろう。いくつか解決すべき問題があり、粗削りな部分は残っているが、それで我々の期待値が落ちるとは思わない」