Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
「これから3年ぐらいでウチはもっと強くなりますよ」
稲葉 島田さんは千葉ジェッツの社長であると同時に編成を司るGMでもあります。Bリーグ初年度である今シーズン開幕を前に、チームをダイナミックに変えてきました。どのようなコンセプトがあったのですか?
島田 確率論の話で言うと、勝ち負けは絶対条件に持っていけないものです。強いか弱いかは相対的に見られるものなので、どうしようもない。勝つためにベストを尽くすのは当たり前ですが、万が一負けたとしても我々はビジネスなので、ちゃんとお客さんが「また見に来たい」とか「リピーターとして応援したい」と思うようなチームじゃないと、そもそもダメですよね。そういうチームって何だろう? というのを真剣に考えたのは、実は今シーズンからなんです。
稲葉 まず、これまではどうだったのかを教えていただけますか。
島田 去年までは私がバスケの素人なのにGMをやっていたのが間違っていたんです。私からコーチに「こういう哲学でチームを運営している」なんて話をしたことがなかった。ジェリコ(パブリセビッチ)を呼んできたら「お前に任せた」です。そうするとコーチは自分のポリシーに基づいてやりますよね。当然、去年まで優遇されてた選手が突然干されたりとかいうことが起こる。そうするとチームに不満分子が出てきて、まとまらない、勝てない、バラバラになる……。要は一貫性がないとダメなんです。
稲葉 でも先ほどの選挙の話と一緒で、言うのは簡単ですが実際にやるのは難しいですよね。
島田 経営は理念を作って、その実現のためにいろんなアプローチをしてきたんです。それで成長してきた。なのにチームはそこで得た資金を使うだけで、あとは『お任せコース』でした。それで今シーズンは、まず骨太の方針を決めるべきで、その方針は私が決めるべきだと。その方針を実現、実行できるヘッドコーチを呼んで、筋を一本通そうとしました。まだ始めたところなので、これから3年ぐらいでウチはもっと強くなりますよ。実は1年目に結果が出るとは思っていなかったのが正直なところなんです(笑)。
「ブースターの方々が誇れるチームになろう」
稲葉 いまさらですが、オールジャパン優勝おめでとうございます(笑)。
島田 ありがとうございます、基礎固めと思った1年目なんですけど(笑)。私が作った方針はここに掲出しています。バスケットの専門家じゃないけど、私が自分の言葉で作りました。要はスポーツの世界もビジネスの世界も基本は一緒なんです。ブースターの方々が足を運んでくれなければ潰れる。彼らが誇れるチームになろうというのが、まず理念としてあります。そして「アグレッシブなディフェンスから走る」というチームの方針があります。富樫で行くとなったのも、別に彼が人気者だからではなく、この方針にフィットする選手だったからです。
稲葉 大野篤史ヘッドコーチという監督人事も同じですか?
島田 そうです。この方針を決めて、何人かいるヘッドコーチ候補の中でこの理念を共有できる大野になった。スタンスや練習態度、プライドの持ち方とか。そこからまず始まったんです。
稲葉 そこからはトントン話が進むのが分かります。
島田 じゃあポイントガードは富樫で、アグレシッブなディフェンスから走るというアップテンポなバスケットをしていこう。そこでは走ってくれる(マイケル)パーカーがいいよね。富樫とパーカーが走ったら、タイラー(ストーン)も走るじゃないですか。外国籍選手も、これまでは私が何となく(リック)リカートが好きだな、って感じだったんです。でも今は違います。富樫のピック&ロールが生きるインサイドの選手はだれか、それを実現するための編成としてのヒルトン(アームストロング)なんです。
稲葉 ヘッドコーチと外国籍選手は変わりましたが、日本人選手は基本継続ですね。
島田 選手は8月に全員を集めて、この方針を説明しました。この方針をヘッドコーチと共有しているから曲げずにやる、不満があろうが何だろうがこういうチームを作ると決めたからと。去年出ていた選手が出れないかもしれないし、去年出ていない選手にもチャンスがある。厳しくなるけど、筋は通っている。チームが悪くなってもここに立ち返る場所があるから修正もできる。みんなにそう伝えて納得させたんです。納得のできない選手がいたとしても、「ウチはこういう方針でやると言ってるよね」と説明します。だからまとまるし、勝てるし、結束できるんです。
千葉ジェッツ 島田慎二代表に聞く
vol.1「地域密着を実現するには経営を強くして、地元で存在感を出すしかない」
vol.2「経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います」
vol.3「チームも経営と同じ、骨太の方針を決めることで一本筋を通そうとした」
vol.4「究極的には大局観を持って『日本のバスケのため 』を考えますよ」
vol.5「可能性をみんなに感じさせて、引っ張っていくリーダーシップが必要」
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