ヤニス・アデトクンボ

「願わくば、次のトロフィーも堂々と獲得したいね」

まもなく40歳を迎えるレブロン・ジェームズを筆頭に、NBAのスタイルを変えたステフィン・カリー、勝ち続けたケビン・デュラント、異次元の数字を作り上げたラッセル・ウェストブルックにジェームズ・ハーデンと、このリーグには引退すれば殿堂入りが間違いないスター選手がいまなおバリバリで活躍している。その中に入れば、30歳のヤニス・アデトクンボはまだ『若造』だが、彼がいずれ殿堂入りする際には、この『エミレーツカップ』のトロフィーを手にする姿も思い出されるのだろう。

2021年のNBA優勝に続いてのタイトル獲得、ファイナルMVP受賞をアデトクンボは大いに喜んだ。「勝つのは最高だ。大事な試合に臨み、自分たちのゲームプランを遂行し、自分たちの望んでいた結果を得る。そりゃ気持ち良いに決まっているよね。でもそれは試合に限らない。ゲームに至るまでのすべてだ。不安だったり緊張だったり、試合前のそういった張り詰めた感情が、勝利をより素晴らしいものにしてくれる。僕はこのチームを誇りに思うよ」

バックスとサンダーはいずれもディフェンスに持ち味のあるチームで、ロースコアの展開は予想された。ただ、サプライズがあるとすればオールドスクールなバックスよりも、若くて斬新なサンダーだという予感があった。しかし、バックスはそのサンダーにたった81得点しか許さず、97-81の快勝を収めた。

シーズン序盤から2勝8敗という出遅れから、バックスは見事に立ち直った。悪夢の10試合を抜け出した後は12勝3敗で、このNBAカップ決勝でも完勝を収めた。

ファイナルMVPはもちろんこのチームのエース、ヤニス・アデトクンボだ。26得点19リバウンド10アシスト2スティール3ブロックを記録。タイトルマッチであること、超ロースコアの展開であることを考慮すると、その価値は計り知れないほど大きい。

試合はサンダーの4-0からスタートしたが、ここでアデトクンボが相手センターのアイザイア・ハーテンシュタインを一回のドリブルで3メートルほど押し込むパワーの違いを見せ付ける。あの1プレーで、サンダーの守備プランは大幅な変更を余儀なくされたに違いない。

MVPの行方は試合終了を待つまでもなかった。20点リードの残り1分半で彼がベンチに引き上げる際、スタンドからはMVPコールが起きた。「こういう試合に臨む時に『MVPを狙おう』とは考えないものさ。試合に勝ちたい、そのためにはどんな努力だってする、という気持ちだ。その結果としてトロフィーが手に入る」とアデトクンボは言う。

トロフィーの他にもアデトクンボにはうれしいものがあった。優勝したバックスのメンバーは一人あたり約51万5000ドル(約7700万円)の賞金を手に入れる。「チームメートの中には、これで人生が変わる者もいるよ」と彼は言った。彼が名前を挙げたのは2ウェイ契約のリアム・ロビンスだ。25歳でNBAデビューのチャンスをつかんだが、ここまで5試合で20分しか出場機会がないロビンスのキャリアには先の保証がない。今回の優勝は良い思い出であり、キャリアがどう転じようが助けになる『現金収入』だ。

NBAプレーヤーの多くが使い切れないほどの大金を得ているにもかかわらず、カネの話をするのを避ける。だが、アデトクンボは違う。「カップ戦の初戦で僕はリアムに約束したんだ。ファイナルまで行くぞ、君はアイオワに家を買うんだ、とね。それで勝つたびに『マイホームに一歩近付いたな』と冗談を言っていた。今日は彼の良い笑顔を見られたよ」

「僕だって昔は試合前とかハーフタイムにサイン会をやっていた。『お金は重要じゃない』なんて言うつもりはない。限界まで自分を追い込んで頑張れたのはお金のためだ。そして、これが多くの人にとって人生を変える金額であることも理解している。この優勝に貢献してくれたみんなと賞金を分け合えるのが僕はうれしいんだ」

そして彼は、他の多くの選手が語りたがらない『カネ』と誰もが口にする『レガシー』を同列に論じた。「今回はこうやってお金が得られた。そしてチームにはレガシーが残る。素晴らしい瞬間だよ。願わくば、次のトロフィーも堂々と獲得したいね」