ネガティブな空気を振り払う『華』のあるプレー
中東泰斗は2015-16シーズンのNBL新人王。ダンクシュート、鋭いドライブと言った『華』を持ち、新生Bリーグのスター候補として期待を寄せられる存在だ。前節の第2戦(26日、滋賀レイクスターズ戦)の活躍はそんな彼が『もっとやれる』ということに、皆が気付くきっかけとなったのではないだろうか。
第1クォーター残り9分43秒に、中東はチームのファーストショットとなる3ポイントシュートを決める。前半は11分50秒とプレータイムをやや抑えた中で、9得点3リバウンドとしっかり数字を残し、チームの好発進を助けた。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズはジャスティン・バーレルの欠場が長引き、彼が不在の2カ月で2勝11敗と沈んでいた。しかも19日の秋田ノーザンハピネッツ戦で喫した21点リードからの逆転負けや、この前日にあった『残り2秒』の逆転負けなど、悔しい展開が続いていた。
その状況で、中東が持っていたこの試合のテーマは「積極的に打つ」ことだった。彼は言う。「今まではすごく自分が消極的になってしまっていた。今日はそれを振り返って、ミスしてもいいからシュートを打とう思っていました。ここ最近はそもそもシュートアテンプトが少なく、今日は最初からアグレッシブに攻めることができました」
名古屋Dは外角からのシュートに強みを持つジェロウム・ティルマンが好調。中東はそちらに「譲ってしまっている」部分があったと言う。
名古屋Dは44-25と大きくリードを奪って第3クォーターを迎えていた。ただしチームに余裕はなかった。中東も「リードしていても追い付かれる試合が続いていたので、安心感はなかった」と振り返る。ただそんな切迫感も、26日の第3クォーターに限れば良い方向に出た。中東はそんな時間帯の主役に躍り出る。
彼は残り7分45秒、菅原洋介のシュートをブロックして弾みを付ける。さらに残り7分02秒にはこの日2本目の3ポイントシュートを決め、残り5分18秒にもコートの左から鋭くカットインして右手のダンクを叩き込む。
中東はこう振り返る。「ダンクも狙える時は狙っていきたいです。やると盛り上がるし、自分も気持ち良かった」。相次ぐ逆転負けでチームには『影』が差していた。中東のビッグプレーがチーム、そして観客のネガティブな空気を振り払い、勢い付かせる効果を産んでいた。
『中東ショー』はまだまだ終わらない。残り4分16秒にも船生誠也との連携からスティールを決め、高速ドライブから船生の得点をアシスト。残り1分25秒にもアリウープ気味のジャンプショットを決めるなど、攻守でチームを乗せるプレーが続いた。
積極的に行くだけでなく、展開を落ち着かせる『巧』も
第4クォーターの勝負どころには『積極性』と違う部分でも貢献を見せた。ポイントガードの笹山貴哉はこう振り返る。「僕にボールを持たせないように滋賀のディフェンスが厳しくプレッシャーをかけてきていました。中東がああやってキープできる力があるというのも、この試合から分かった部分。すごく収穫になりました」
名古屋Dは終盤に11点差まで詰められる時間帯があった。滋賀は当然オールコートの守備で、名古屋Dのスローインに激しくプレッシャーをかけてくる。ポイントガードに持たせない対応は相手からすれば鉄則だ。
笹山はこう説明する。「2番とか3番ポジションの選手がああやって運んでくれると助かります。今までその部分は石崎(巧)さんがいたので問題なかったんですけれど、いない中でその部分が見えました」
中東もこう振り返る。「自分がああいうこともやらなければいけないと思っていました。そのためにいつも、練習からボール運びの意識はしています。練習通りですね」
名古屋Dは経験豊富な石崎巧が負傷中で、チームに落ち着きを与える選手を欠いていた。中東は2番(シューティングガード)、3番(スモールフォワード)を任される選手で、ボールハンドラーとしてのスキルはある。ただ勝負どころでの冷静さ、状況判断という部分は未知数だった。しかしこの日は残り数分の局面で、彼がしっかり時間を使って展開を落ち着かせた。
自らに足りないものに気付くことが『成功へのステップ』
圧巻だったのは残り1分43秒からのポゼッション。中東は相手の激しいプレスを受けながらステップで上手くいなしつつ敵陣深くまで切れ込み、右に大きくパスを振る。ノーマークの笹山は難なく3ポイントシュートを決め、81-67と点差を14まで広げた。残り49秒にはトドメの3ポイントシュートも決めて、試合の最初に続き、最後も自らの3ポイントシュートで締めてみせた。
名古屋Dは84-69と滋賀に快勝し、前日からのカムバックに成功した。中東にとって22得点は今季最多。またリバウンドも「4」というスタッツ以上に、ボックスアウトを含めた存在感があった。2つのブロックショットも彼の跳躍力の証明だ。彼の魅力、能力が存分に詰まった一戦だった。
ヘッドコーチのレジー・ゲーリーはそんな活躍をこう語る。「今日は雰囲気から良かったです。過去の試合では今日みたいにレイアップを2、3本外したら、ちょっと頭を抱えて悩むことがあった。でも今日は自信と集中力を保ちながらアグレッシブに打っていた。それをやっていたからどんどん入り出して、自信につながった。こういう選手だと信じているのですが、彼はまだ若いから自分でそれを信じていなかった。自分の能力を早く理解しないといけない」
彼はこれだけのことができる。足りないのは能力でなく自信と経験だった。26日の滋賀戦は、中東自身がそんな『成功へのステップ』に気付く良い機会だったに違いない。
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