「負けて悔しいですけど、楽しかったです」
12月7日、名古屋ダイヤモンドドルフィンズはアウェーに乗り込んで琉球ゴールデンキングスと対戦した。琉球に10個のスティールを献上し、オープンシュートを決めきれないなど本来の爆発力あるオフェンスを展開できず、逆に琉球の持ち味であるゴール下のアタックを止めきれずに68-86で敗れた。
試合の立ち上がりから琉球のトランジションを許して6-16と先行を許すも我慢強いディフェンスで追い上げ、34-40で前半を終える。第3クォーターは前半に不発だったスコット・エサトン、ルーク・メイの3ポイントシュートも飛び出し、ボールをよく動かす名古屋Dらしいオフェンスで51-51と追い付いた。
しかし、ここから琉球に長距離砲を入れ返されると、安易なターンオーバーから失点も献上して0-10のランを食らい、第4クォーターも流れを取り戻すことができずに大差で敗れた。
この試合、最も注目を集めたのは名古屋Dの今村佳太だった。昨シーズンまで今村は4シーズンにわたって琉球のエースを務め、3年連続のファイナル進出、一昨年のリーグ優勝に大きく貢献した。
しかし、今オフは新たなチャレンジを求め、3年契約を2年残して琉球との契約を解除して名古屋Dへ移籍。この経緯に加え、昨シーズンの琉球は名古屋Dにレギュラーシーズン4連敗を喫し、西地区7連覇を阻止されたライバルという要素もあり、今村の移籍発表当時はネガティブな反応を示すファンも少なくなかった。
そんな中、移籍して初めて沖縄アリーナのコートに立つ今村に対し、キングスファンが示したのはユーモア溢れる愛だった。メンバー紹介で今村の名前が呼ばれると一際、大きな拍手で出迎える。そして終盤、今村がフリースローを打つ際には、すでにキングスの勝利が確定的な中で、この日一番のブーイングでアリーナは包まれた。
ただ、これは敵意ではなく、温かいブーイングだった。その証拠に、ゴール裏の観客はいつもなら桶谷大ヘッドコーチの似顔絵ボードを掲げて妨害するのが、この時だけボードが今村の似顔絵になっていた。そしてフリースローを決めた後、交代でベンチに下がる今村には再び大きな拍手が送られた。
試合後、今村は「すごく帰ってきたなという感じがしました。沖縄アリーナで試合をすることで感慨深い瞬間が何度もありました。負けて悔しいですけど、楽しかったです」と振り返る。
また、「ちょっと習慣って怖いなと思ってしまったことがありました」と、次のエピソードを教えてくれた「コートから下がってロッカールームに帰ってくる時、右側がホーム、左側がアウェーと別れている中、自然と右によってしまった自分がいたりしました」
「ブーイングも愛情の裏返しだと感じています」
そしてフリースローの時の似顔絵ボードと、ブーイングについて聞かれると「めちゃくちゃ面白かったです」と笑顔を見せた。「本来だったら桶さんの似顔絵が全部自分で、『こういうやり方があるんだと』とすごくうれしかったです。ブーイングも愛情の裏返しだと感じています。特別大きなものをもらえたのは幸せでした。もっと欲しいなと思ったので、(1本目を決めた後)煽ってしまいました」と続けた。
今村はあらためて琉球ファンへの感謝を強調する。「キングスでの4年間で人間としてもプレーヤーとしてもいろいろな経験をさせてもらい、ファンの皆さんに育ててもらいながらここまで来られました。だからこそ、ファンの皆さんにああいうリアクションをしてもらえたことに感謝の気持ちしかないです」
今回、昨シーズンまでともに戦った琉球の選手たちにとっても、一緒にリーグ制覇を成し遂げた今村との対戦は特別なものだった。『琉球の顔』である岸本隆一は「自分の中で優勝を一緒に経験したメンバーは本当に特別な存在です。相手チームにいながらも、どこか仲間という意識を持って試合をしているつもりです」と語る。
「真剣勝負の中で自分たちにしか感じられない空気感は絶対にあります。特に佳太に関しては優勝したメンバーの中でも一番一緒にプレーしていた選手で、より特別な思いがありました。今日は負けれられないなと特別な思いがあり、試合にしっかり集中する部分もあり、そんな中でも良い雰囲気で勝ちに繋げられたと思います」
この日、今村は11得点を挙げたが、フィールドゴールは12本中3本中成功のみに終わり、本来の力を発揮できず。今日の敗戦で名古屋Dは再び8勝9敗と黒星先行となってしまった。
この状況に今村は、危機感をこう語る。「点差を見ても、とても上手く行っているようには見えません。自分たちもチャンピオンシップを目指しているので、結果を出しながら成長を続けないといけない。僕個人だけでなくチームとしても打ちたいシュート、やりたいディフェンスが上手く行かない時、中々、整理できずに点差を広げられてしまいます。そこをいかに修正できるかが課題です」
今日の第2戦も、今村は愛着ある沖縄で大きな歓迎を受けるだろう。だが、彼が心の底から試合を楽しむためには、本来のやりたいプレーをして名古屋Dを勝利に導くことが欠かせない。