ヤニス・アデトクンボ

文=神高尚 写真=Getty Images

急浮上のピストンズ、最高勝率のバックスに挑む

リーグ最高勝率でトップシードとなったバックスと、レギュラーシーズン最終戦でプレーオフ進出を決めたピストンズ。今シーズンの対戦成績はバックスが4連勝と圧倒しており、スイープの可能性も高いファーストラウンドです。ただし、最後に対戦したのは1月29日で、そこからピストンズは調子を上げてきています。ピストンズは別のチームになっており、またケガ人続出のバックスに比べるとピストンズは主力が揃っており、番狂わせを狙ってくるでしょう。

ピストンズが良くなったのは、スターターにもベンチにも各ポジションに選手が揃い、明確な役割分担で特定の選手に頼らなくなったこと。オールスター前に26.3だったブレイク・グリフィンの1試合平均得点がオールスター後は20.1まで落ちたにもかかわらず、チームの平均得点は1.5点増えました。

特にウェイン・エリントン、ラングストン・ギャロウェイ、ルーク・ケナードのシューター陣が得点を伸ばし、それをポイントガードのレジー・ジャクソンが上手く操るようになっています。これまで自分で得点することを優先し、暴走も多く批判されがちだったジャクソンの変化が、ピストンズのオフェンスに安定をもたらしています。

この安定をより強固に支えるのが今シーズンもリバウンド王を手中に収めたアンドレ・ドラモンドで、特にオフェンスリバウンド5.4本はリーグで唯一の5本台です。しかし、バックスの強みもまた確実なディフェンスリバウンドです。チームとしてはビッグマンの確実なボックスアウトから全員で奪いに行くことで、リーグで最も多くのリバウンドを確保しています。リーグNo.1のリバウンダーとリーグNo.1のリバウンドチーム。それぞれの強みが正面衝突します。

バックスとの対戦でドラモンドは平均3.3本のオフェンスリバウンドしか奪えず、セカンドチャンスの得点も平均を2点下回る3.5点に留まりました。ブルック・ロペスのブロックアウトに苦しみ、またディフェンスではロペスの3ポイントシュートを警戒するためにアウトサイドまで引き出されてしまうなど、相性の悪い相手です。ドラモンドがロペスのブロックアウトをかい潜り、多くのオフェンスリバウンドを奪うことが番狂わせの第1条件です。

アデトクンポvsグリフィンのエース対決

チームとしての強みでピストンズがバックスを上回ったとして、さらに必要になるのが、MVP最有力候補のヤニス・アデトクンポとのエース対決をグリフィンが制すること。チームオフェンスのバランスが良くなりグリフィン個人への負担は減っただけに、ディフェンスに力を注ぐこともできるはずです。

センターのロペスも含めてアウトサイドから積極的に3ポイントシュートを狙うのが今シーズンのバックスが取り込んだ最大の戦術的変化ですが、大きくスペーシングされたことでアデトクンポの強烈なインサイドプレーが鮮明になりました。ドラモンドがヘルプに行きたくてもいけないだけに、グリフィンが一人で守り切る必要があります。

高さとスピードではアデトクンポに分があるものの、フィジカルの強さで負けないグリフィンなので、シュート力に課題のあるアデトクンポをリングから遠ざけられるかどうかが勝負のポイント。最近は3ポイントシュートも増えてきたアデトクンポですが、バックスとしては落ちると信じてインサイドを守ることを考えるべきでしょう。逆にオフェンスではアウトサイドから決めることでアデトクンポをゴール下から引き出し、ドラモンドを楽にすることも求められます。

成長が求められるプレーオフ、ミドルトンへの期待

グリフィンとドラモンドという2人の中心選手それぞれの強みが、バックスの強みと正面からぶつかって負けたことが4連敗の原因でもありました。プレーオフでここを逆転できれば番狂わせの可能性も出てきます。またプレーオフでステップアップできるかどうかもスター選手の価値を決定する重要な要素であるだけに、グリフィンとドラモンドがシーズンを上回る活躍をすることがピストンズ勝利のカギを握ります。

その点でバックスにはもう一人のオールスター選手であるクリス・ミドルトンがいます。昨シーズンのプレーオフではフィールドゴール成功率60%、3ポイントシュート成功率61%と驚異的な勝負強さを発揮し、7位でプレーオフに進みながらファーストラウンド突破まで後一歩まで近づきました。タフショットを何本も決めてきた昨シーズンの経験がミドルトンを一回り成長させています。

エースの働き次第ではピストンズが番狂わせの可能性を秘めた対戦カードですが、経験を積んだミドルトンを止めるのは難しく、バックスのチーム力が上回ると予想します。