大型契約にペリカンズが組み込んだ『保険』が発動
2022年の7月にペリカンズはザイオン・ウイリアムソンと5年1億9300万ドル(約290億円)のマックス契約を結んだ。しかし、それには『保険』が付いていた。ルーキーイヤーから度重なるケガに見舞われて、そのポテンシャルを発揮できない彼のコンディションとプロ意識を懸念し、体重と体脂肪、そして出場試合数に応じて年俸が減額されるオプションだ。
新契約が発効する前の2022-23シーズンに29試合にしか出場できなかったことで、新契約の2年目となる今シーズンは部分保証、2025-26シーズン以降の3年間については無保証となり、ペリカンズは今シーズン終了後にザイオンとの契約を解除できるようになっている。
そうならなかったとしても、来シーズンの3940万ドル(約60億円)の契約は20%ずつの5つに分割され、「体重(ポンド)と体脂肪率の合計が295以下」で最初の20%が、今シーズンに41試合以上に出場すれば40%が、さらに51試合出場と61試合出場でそれぞれ20%が有効となる。
今シーズンのザイオンは、開幕から6試合でプレーした後、左ハムストリングの肉離れで11試合連続で欠場している。通常なら4週間から6週間のケガだが、今回はもっと長引くと『ESPN』は予想している。仮に12月中旬に復帰したとしても、最初の関門である「61試合出場」はもう現実的ではなく、「51試合出場」も厳しいと見るべきだろう。彼の体重は285ポンドなので、体脂肪10%以下をキープしなければならないが、それも簡単ではない。この3つの条件を満たせないとなると、彼の年俸は半分以下となる。
ザイオンは巨体でありながら爆発的な運動能力でコートを支配できるが、筋肉がその負荷に耐えられない。特にハムストリングは繰り返しケガをしている彼の弱点。右足を骨折してキャリア3年目の2021-22シーズンを全休した翌シーズンには61試合に出場したが、続く2022-23シーズンは右ハムストリングの肉離れでシーズン中盤以降の53試合を欠場した。昨シーズンは70試合に出場したものの、左ハムストリングの肉離れによりプレーオフには出場できなかった。
ザイオンはチームに帯同しており、練習にも姿を見せている。先日はメディアを前にこう語っている。「ケガはいつだって辛いよ。だけど、最初の1週間が過ぎれば気持ちも落ち着く。チームメートと一緒に過ごすことで気分はだいぶ楽になる。落胆せずにリハビリを頑張る。今はそれしかできない」
それでも、ザイオンはリハビリ以外にもアクションも起こしていた。これまでエージェントだったCAA(クリエイティブ・アーツ・エージェンシー)を解任し、新たなエージェントを探しているという。今の契約はザイオンの健康状態を不安視するペリカンズにとっては良い『保険』だが、ザイオンにとっては非常に不利なもの。その契約を結んだエージェントとの関係を解消し、次に起こる事態に備えるのは理解できる。
健康であればザイオンはオールスター級の働きができる。ペリカンズもザイオンを解雇したり年俸を大幅にカットしたいわけではなく、彼の本領発揮を願っているはずだ。しかし、キャリア6年目でそのパフォーマンスが見られたのはほんのわずかな期間だけ。
2022年7月時点のザイオンは、シーズン全休のケガが癒えたところで、この先はフル回転で活躍すると意気込んで、不利なオプションが山盛りの契約にサインしたのだろうが、その選択が彼を非常に不安定な立場に追い込んでしまった。