東山は、この夏のインターハイで悲願の初優勝を果たした。その影の功労者がアシスタントコーチを務める山崎健太郎と狩野皓介だ。チームマネジメントの役割を担う山崎は学校の非常勤として働き、選手たちとの距離も近い。東山のOBでもある狩野は主にバスケの分析を行い「選手たちにも分かりやすく伝える」分析力には定評がある。大澤徹也ヘッドコーチは「役割分担がしっかりできているので、選手にとってもすごく大きな存在」と語る。
「年齢が近い僕たちにしかできないこと」
――今年の4月に、母校である東山にアシスタントコーチとして帰って来ることになった経緯を教えてください。
狩野 地元が島根県なので、大学卒業後は島根県に一度戻るつもりだったのですが、 東山は歴代のチームの中でも強くなってきて、今年インターハイでも優勝したようにメンバーも揃っているので、僕もレベルの高いところで経験を積みたいなと思い、大澤コーチと話をして帰って来ることになりました。
――山崎コーチは昨年からアシスタントコーチを務めていますが、さらに1人来ると聞いてどうでしたか。
山崎 大澤コーチと話をして、僕は「チームのためにプラスになるのであれば誰でもウェルカムです」と伝えました。OBですし、日本体育大の学生コーチとしてスカウティングなど素晴らしい能力があると聞いていたので「チームにとって絶対にプラスになるだろうから大歓迎です」と言いました。
――大澤コーチからすごく良い意味でお2人の役割分担ができていると聞きましたが、それぞれの役割を教えてください。
山崎 僕は基本的にチームのマネジメントをしています。選手と距離が近いので、 基本的に選手の悩みごとを聞くことが多く、バスケだけではなく私生活の悩み事を話してくれることもあります。バスケの面ではアップの管理をしています。
狩野 僕は練習終わりの自主練や、映像を見せながらの個人ワークアウトが日常の役割です。試合中はスタッツを取ったり、ハーフタイムで前半の映像を見せて、後半に改善すべきことを、まずは大澤コーチと山崎コーチに話して、選手たちに共有しています。
――コーチ陣のアプローチやスカウティングの面もチームの成長に大きく寄与しているように感じます。「これがあったから、東山としてすごく成長できて、今回の結果がついてきた」と感じることはありますか。
山崎 それこそ(佐藤)凪は、1、2回戦ではシュートの調子が悪くて、自分の思い通りに行かない時に「ちょっと時間を作ってくれませんか」と僕と狩野の部屋に来ました。コーチの部屋に来ることは普通なかなかないですけど、一緒に話をしましたね。そうしたら次の試合で調子が良かったので「毎晩行って良いですか」と。そこから何人かが部屋に来るようになりました。そういったことは年齢が近い僕たちにしかできないことですし、選手とコーチが心を許してちゃんと話し合えることが結果に繋がったのではないかと思います。
狩野 インターハイ中は山崎コーチと同部屋で、そこにいろんな選手たちが来ていろいろな話をしました。チームとしては、ベスト4に出てきたうち、美濃加茂、福岡第一、福岡大学附属大濠のスカウティングはマネージャーも含めて一緒にやりました。
――高校からスカウティングを本格的に取り入れているチームはまだ少ないと思います。
狩野 高校生はまだ育成年代で「果たしてスカウティングをしてまで」という葛藤があるんですけど、やっぱり選手たちの目標が『日本一』なので、 そこにはスカウティングが必要になると思うんです。でもスカウティングした内容を全部伝えるかと言ったらそうではなくて、スタッフ内では全部共有するんですけど、まだU16、U18の年代で、その視野で考えてバスケをできる選手は少ないので『今、選手たちに必要な情報』を、コーチ陣が取捨選択をして伝えることが、スカウティングの大事なところだと僕は思っています。インターハイでは本当に、その部分で選手とのコミュニケーションがすごく上手くできたと思います。
――山崎コーチは東山の変化について感じることはありますか。
山崎 インターハイはアシスタントコーチが1人しかベンチに入れなかったので、夜に映像を見て、こういうセットが来るとかをマネージャーの藤木(蒼太)たちに教えてもらいました。それを僕がインプットしてコートで叫んでいると、相手のコーチからにらまれることもありましたね。ましてや僕は報徳学園のOBなので。愛情として受け止めています(笑)。
「自分たちが嫌われても良いぐらいねちっこく言おう」
――環境や指導方法が時代と共に変わる中で、選手をどう育てていくべきかのイメージはありますか。
狩野 僕らの時代は、今年の8月に亡くなった田中幸信コーチと大澤コーチの2人に指導してもらっていました。いざ大澤コーチとスタッフ同士の立場になった時に、大澤コーチの指針に沿った中で自分がそのレールにどう乗っかって、どう肉付けしていくかってのは、僕自身もすごく良い経験をさせてもらっています。その方法が一番選手を混乱させないと思いますね。
――山崎コーチは大澤コーチからどんなことを求められていますか。
山崎 OBではないので100パーセント分かっているかと言われたらまだ全然です。分からないことや迷ったことはすべて大澤コーチに質問しています。それがバスケのことなのか、メンタル的なことなのか、学校の生活での生徒のことなのかはコミュニケーションがないと分からないので、なるべく自分からコミュニケーションを取るようにしています。
――狩野コーチはOBなので、大澤コーチの性格を理解されていそうですね。
狩野 練習中の士気とか雰囲気は、大澤コーチに言われる前に「今まずいよな」という時は集合させて、自分たちが言いますね。そういった「やばいだろうな」という感じは分かります。
――全国優勝してるチームといえども高校生です。練習中に集中力が切れてきたなと感じることはよくありますか。
山崎 インターハイ優勝校と言ってもレイアップをポロポロ落としている日もあるので、もうそこはもうねちっこく、 自分たちが嫌われても良いぐらい言いますね。
――流すのは簡単だと思いますが、そうでなく粘り強く指摘する意図は?
山崎 選手たちが「勝ちたい」とすごく言ってくるんです。ましてや去年のウインターカップで瀬川(琉久)や佐藤があれだけ悔し涙を流したのを知っているので「なんとかこのチームを勝たせてあげたい」という思いで、粘り強く指導しています。
狩野 選手はコーチが育てるものではなく、あくまで選手自身で努力して成長するものだと思います。コーチとしては同じ失敗を繰り返さないように導くじゃないですけど、シュートを落とした時にしつこく言うのは僕も同じです。やっぱり小さいことを守れないと、バスケのチームのルールも守れないので、山崎コーチと一緒で細かいところの指摘が大事かなと思います。
「決勝まで行けば思いの強い方が勝ちます」
――インターハイで優勝してもウインターカップではリベンジの意識があると思います。ウインターカップで優勝するためのキーポイントを教えてください。
山崎 佐藤と中村(颯斗)も含めて『三銃士』と称されますが、やっぱりこのチームのエースは瀬川なので、瀬川がどれだけ熱い思いでこの大会に臨めるか。海外での経験で良くも悪くも変化がありましたが、 今はもうウインターカップに向けて、誰よりもシュートを多く打って、努力を惜しんでいないので、瀬川にどれだけ熱い思いがあるかですね。
――カギとなる対戦相手として、瀬川選手と佐藤選手は大濠と福岡第一を挙げていましたが、コーチとしてはいかがですか?
山崎 去年負けているので福岡第一との対戦はやはり意識するところですし、そこに勝てたら強い思いが出てきます。決勝まで行けば思いの強い方が勝つので、相手がどこであってもスムーズに行けると思っています。
――最後にウインターカップに向けての思いを聞かせてください。
山崎 優勝して2冠を取って、大澤コーチだけではなくて田中コーチにも良い景色を見せたいと思います。昨年悔しい思いをしたメンバーがまだ残っているので、どこが上がってきても勝つ、日本一になるという思いで1回戦から戦っていきます。優勝を目指して頑張りますので、応援よろしくお願いします。
狩野 田中コーチは高校、大学の先輩でもあるし、恩師でもあります。田中コーチ、大澤コーチの指導の影響は僕の中でもかなり大きいので、僕も同じモチベーションで行くのが大事だと思っています。自分の役割を全うして、最後は良い形で終われるように頑張っていきます。